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名前はまだない  作者: 三度の飯より糖分
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第二ページ 生まれてきたのは

重厚感溢れる扉を叩くとゆっくりと扉が開き、その先にはお父様がホールの階段の上の玉座のようなものに座っていた。その威厳と威圧感に私は、息が詰まりそうだった。

「そこで何をしている。季節は春と言えども廊下はまだ冷える。入ってきたまえ。」

そう言って彼は腕を一振するとどこから来たのか椅子が動き私を乗せて私をホール中央まで運んでただの椅子に戻る。

突然のことに私は思考が停止した。

「体はなんの異常もなく、元気だそうだな。」

「は、はい。」

急な問いかけに私は焦り、声が上ずってしまった。

「すまない。帰ってきたばかりだと言うのに、緊張させてしまっただろうか。まず、」

本当の事を言うなら、今だ。お互い傷は浅く!

「あ、あの、失礼ですが、私はあなたの娘ではありません。私も訳が分からないのですがあなたの娘の体に入ってしまって、出来ればお返したいんですが、私も急なことで頭が追いつかないばかりか方法に検討もつかずっ」

私が勢いのまま話していると、彼が杖を地面に叩きつけ、音を出し、静止する。

「今、私は君の名前を聞こうとしていた。君が今までの君でないことは知っている。なぜなら、彼女は数百年前に死んでいる。」

「死んで、、、いる?」

どうして数百年前に死んだという体に私がいるのだろう。全く分からない。

「見たところ、君は事情を全く知らないようなので1から順に説明するつもりだったのだが、その事が君を余計に混乱させてしまったようだ。君は、死んだ娘の生まれ変わりなんだ。」

「私が、生まれ変わり、、?」

「何がそうさせたのかは定かではないが、生まれ変わった君はここではない世界に生まれ、今まで生活していたことはわかっている。そして、何らかの要因でここに、帰ってきたことも。」

何らかの要因、それは私の[死]だろう。なら、目覚める前に会った少女は生前の私、なのだろうか。

彼が上から降りてきて、俯く私の目の前で止まる。

「もう一度聞く。君の名はなんと言う?。」

「私の、、名前は、、、月城安奈です。」

「そうか、良い名前だな。異世界では魂の還る元から違うため、生きるのが大変だったはずだが、よく戻ってきた。アンナ、おかえり。」

彼はそう言って私の頭を撫でる。その手つきはとても暖かく、愛情を深く感じた。

久しぶりに聞いた、おかえりの四文字に私は目頭が熱くなるのを感じた。

まだこの人が自分の父親だと実感がある訳では無いが、ここに来てから私は息がしやすい。自分の住む世界はここだと五感がそう告げている。

私は1度深呼吸をして世界の1部を吸い込む。

まだ何も知らない人だが、何故か安心する。この人を信じたいと思った。

「ねぇ、もういいかなー僕行っていいかなー?いいよねー!」

「ダメに決まってるだろう!バカ!」

「2人とも静かに!バレます!」

「騒々しいな。」

「あの、扉薄いので、もう、バレてますよ。」

「、、、あーちゃちゃ」

当然後方のドアから複数人の声が聞こえる。

お父様が手を振ると突然ドアが開き人々が出てくる。

おそらく7人おり、そこには先程の医者もいる。

お父様の顔を見てみると、疲れたような呆れたような顔をして眉間を抑えている。

「大変申し訳ありません。アレリアム様」

「もう良い。挨拶は済んだ。ここから本題に入るためお前たちも来るが良い。」

「はい!かしこまりました!」

「はい、かしこまりました。」

リーダーらしき人が返事をした後、残りの6人が返事をする。

「彼らと本題を話すため、君はこっちに来なさい。」

そう言うと、階段をのぼりながらまた腕を一振し椅子ごと彼の横に移動して止まる。不思議なことに椅子から落ちない。

私の椅子の移動が終わったあと、彼らは1列に並び出す。それらの動きは洗練されていて、彼らがよく教育されているのがわかる。彼らは胸に手を当て名を名乗り、それぞれの剣を出して地面にたてる。

「水の騎士イフィリカ」

「炎の騎士トレヴァー」

「緑の騎士レミリオ」

「雷の騎士クローダ」

「風の騎士セレンス」

「こ、氷の騎士ギルラ」

「岩の騎士サイラリオン」

『お会い出来るのを心待ちにしておりました。お嬢様。我等一同、貴方様に忠誠を使わせていただく光栄を頂きたく存じます。』

彼らは私の前で跪き、そういった。

「よろしい。表をあげよ。」

「堅苦しい挨拶はこのくらいにして、まずは我々の話を聞いてくれないだろうか?彼らの忠誠を受け入れるかどうかは、その後にゆっくり考えて欲しい。」

話しながら、彼は階段をくだっていく。私は彼らを見下ろす形になってしまった。

「まず初めに、君には2つの選択肢がある。

私たちと共に修羅の道を生き世界を守るか、こことは違う離れたところで安全に人の生を全うするかだ。」

「私の、選択肢?」

「それを考えるために、君には1週間ここで過ごして欲しい。情報はとても機密故、知った時点で君の確実な安全は保証できない。そのため、多くは語れないがこの一週間で君はこの世界を知り、選択をして欲しい。」

「ひとつ言えるのなら、逃げるのは今しかない。」

その言葉に私は少し体が強ばる。

「ここからは簡単にこの世界を説明しよう。」

お父様が手を下げると手に本があり、手を返すと本が広がり中の内容がスクリーンのように映像になっている。

お父様が映像に合わせて内容を話してくれる。

「はるか昔、この世界が生命力に溢れ、常に花が咲き誇っていた頃、そこには女神と2人の幼神がいた。

1人は武の才に恵まれ、1人は知の才に溢れていた。

2人の幼神はお互いの才能を合わせて女神に与えられしそれぞれの国を平和に納めていた。」

「だが、その平和には終わりがあった。女神が何者かに殺されたのだ。女神が消え去ってしまい幼神達は悲しみに暮れ、それぞれの道を行くようになった。

これは人間の原罪となり、世界に魔物が蔓延るようになった。人間達の原罪を洗い流さんとする新たな女神と、人間の心理を見定め原罪を続けんとされし新たな神。醜悪な神殺しの我々は許されるべきか許されんべきか。」

そこでページが無くなり物語は終わる。

「これが、この世界の歴史である。そして、この中の知の神こそがこの私、アレリアムである。」

「人間の原罪を許さない神がお父様なのですか?」

「そうだ、歴史上はそうなっている。だが、私は人間を恨んだことなどない。人間の醜さは嫌という程見てきたつもりだが、それは我々も同じだからだ。」

「では、なぜお父様はこう書かれているのですか?」

「それは、私が私の片割れの女神に負けたからだ。勝者こそが正義になれる。勝者こそが歴史を書く権利を手に入れる。」

「この世界は人間の原罪などで魔物が蔓延り、世界が破滅に向かっているのでは無い。ひとえに、我々が研究した黒魔術が原因である。だから、本当の原罪は神が犯した罪なのだ。」

「私は世界を正し、自分の行動に責任を取る。知力は武力に劣らない。だが、あの時の私には仲間がいなかった。そして、君と集めたのが彼等である。」

「実際には君が集めたので、忠誠を受け取らなくても君の騎士なので、好きに使って構わない。」

「さて、今の君に説明できるのはここまでだ。先程も言ったように1週間この屋敷でゆっくり考えて欲しい。何か、聞きたいことはあるか?何か望みがあればできる限り聞くので、遠慮せずに行ってくれ。」

聞きたいこと、私の望み。

「もし、私が協力したくないと言ったらお父様たちは困りますか?」

(私が何かを望んでもいいのなら、私は必要とされたい。私の生きている理由が欲しい。私の居場所が欲しい。私は、家族が欲しい。)

お父様の顔が少し険しくなり、その顔には怒りが滲んでいた。だが、少し悲しそうな顔にも見えた。

「、、、、困ると言ったら、君は何も知らないのにすぐにこの道を選ぶというのか?この道はとても辛く、果てしなく、想像を絶する苦しみが伴う。なんのために私が1週間与えたと思う?君は、自分の意思で選ぶんだ。」

「ご、ごめんなさい。ただ、気になっただけです。」

怒られてしまった、嫌われただろうか?

全身に一気に寒気が走り、『怖い』その1文字に頭が犯される。

「僕は、君が必要だよ!!」

「え?」

顔を上げると先程の騎士の1人、レミリオがそういったようだった。

「聞こえなかった?僕たちは君が必要なんだよ。君とずっと一緒に居たい。僕のご主人様。」

彼はそう言いながら、私の目の前に来て跪く。

驚いた顔をしていた他の騎士たちもハッとしたようにこちらに向かって来て跪く。

そして、私に手を差し伸べた。

「この一週間、ご主人様はどうしたいのか、どうなりたいのか、僕たちと一緒に考えてよ。」

「すまない。君を怒りたかった訳じゃないんだ。君に自分で考えて欲しかったんだ。自分の意思を持ってしっかりと生きて欲しい。もちろん私にとっても君は必要だ。だが、この件は何も知らない今の君には関係の無いことなんだ。」

「もし君が私の意に沿わないことをしたとしても、君は私の家族であることに変わりはない。」

お父様は私に怒っただけど、それは私の為。

『家族』その言葉が私の心に火を灯す。

ふと、私の中で昔の記憶が蘇る。

青い地球の島国である[日本]に生まれた私は、少し裕福な家に生まれて両親からの愛を一身に受け誰から見ても幸せな子供だったと思う。

だけど、いつからだろうか、初めは些細な違和感だった。些細なことで起こる喧嘩だったり、一方的に叱られる。ただその程度だった。だけど、その違和感は次第に大きく、確信に代わり始めた。

徐々に私は、人々から嫌悪などの負の表情を向けられるようになり、触るのを嫌がられ、罵られ、果ては存在を無いものと扱わられるようになった。

「怒られるうちが花」という言葉がある。初めは確かにそうだった。無視されるよりは怒られている方が幾分か良かった。例え、何も悪くなくても怒られていた時の方が良かった。だから、初めのうちは存在を無きものとなってからは苦しかった。だけど、そんなものはすぐに慣れた。テーブルに毎日置いてある1000円で私は十分生活には困らなかった。学費などの必要最低限も出して貰えたし、例え誰にも相手にされなくても学校には通えたからだ。

そして、私はとっくに気づいていた事実を自覚する、

[この世界に自分の居場所はない]ということを。

私はこの世界の異物、はみ出しものなのだ。

そこからの私は、諦めた。全てを諦めた。家族を含めた人との交流を、ただ時が過ぎるだけ。いつか自分の人生が幕を下ろすその時まで。そう、ただそれだけだと思っていたのに。なぜ私は、彼らの手を取ろうとしているのだろう。

ただ、あの人たちは私を必要だと言ってくれた。

どうしてあの人たちは私を必要としてくれるのだろう。私がずっと欲しかった言葉をこんなにも簡単にくれるのだろう。

もしかしたら、私はこの選択を後悔する時が来るのかもしれない。だけど、私は騙されてもいい。何をされてもいい。この人たちのそばにいたい。その手を取りたい。ここに、私の居場所があるのなら。私の生まれた意味があるなら。

空っぽだった心を埋めた言葉に涙が溢れ、私は彼らの手を取り、その場に崩れ落ちた。

そこで意識は暗転した。

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