第一部 エピローグ 「神々の歓談」
プロローグ
遠い遠い世界のあるところ、ある女神とその眷属である2人の半神がいました。彼らは自分達の思うまま、大陸や海を作り、あらゆる生物を創造しました。そして、最後に人間を作ったのです。女神達は人間達に知識を与え、2つの国を作って半神にそれぞれ治めさせました。時に介入しながらもその平和は長く続き、常に花と笑顔が咲き誇るその世界は常春の世と呼ばれました。2人の半神が神になる日は近いでしょう。
パラパラとめくられて絵本のページが終わる。
「あーあ。つまらない、つまらなすぎるよ。」
うす暗い場所の中、声の主はチェス盤の上のクイーンをポーンで盤外に弾き飛ばし、とても傲慢な口ぶりでそう言い放った。
その少年の白銀の髪の上に輝く王冠を乗せた様子は、まるで世界のすべてを手に入れた王様のようだ。
そして、さらにこう続ける。
「あの彼女が育てるのだから、少しは楽しめるかと思っていたのに、まるで普通だ。平和すぎる。
争いや飢餓、疫病の一つもまともに起こらない。僕は退屈だ!全く、どのようにしてくれようか。」
すると、先程まで読まれていたであろう本を持っている、近くのテーブルにいた礼儀正しそうな黒髪の美しい女性が、少年に話しかける。本は宙を舞いスクリーンに戻っていく。
「まあまあ、そうおっしゃらないであげてくださいませ。数千年余りもそれを保つことがどれほど大変かあなた様もわからないわけではないでしょう。それができていることこそ、平和主義で優しいあの子の真価が見えたというもの。2人の半神も優秀に育っていて優しい心を持っていますわ。」
中心の木に映る3人のことを話し合っているようだ。
どうやら彼女というのは一目置かれている存在らしい。
「ふん。我とて本気で言ったわけではない。彼女がこちらに正式に序列を慣並べた際には、この我の下となるのだからな。存分にかわいがってやるつもりだ。」
夜空のような髪をなびかせながら、女性は困ったように笑う。
「そんなことよりも、奴は未だに見つからんのか。いったい何千年かかっておるのだ。」
少年はある人を睨みつけた。
「申し訳ございません、ルミナス様。我々としましても全身全霊をかけて探しているのですが、恥ずかしい話、足取りすらつかめておりません。おそらく、どの時空にも入らず、亜空間を転々としているのではないかと思われます。」
知的そうなメガネを付けた青年が数人の部下からの報告を受けて、少年を『ルミナス』と呼び、現状の報告をする。どうやら、探している人がいるようだ。
「この様子だと一体何万年かかることやら、、、。
今は奴が何もせず大人しいから良いものの、いつ何をまたしでかすかわからん。あの子には策があるようだが、それに頼ってばかりではいかん。我は、、、」
そのような会話を繰り返していると、突然重たい時計の鐘が鳴り響く。
一同は驚いた様子でその時計をじっと眺める。
「この鐘は物語の転換点の合図のはずだ。」
「そんな、何事もないことを祈りますわ。」
その音を聞いてルミナスは先ほどまで触っていたチェスをどかし飛び上がり、先ほどまでの退屈そうな表情は消え、顔と目を輝かせながらこういう。
「この平和すぎる世界に、一体どんな悲劇が起こるというのかね!あともうすぐに神修は終わるはずだったというのに、このようなギリギリで問題が起こるとは。さあ、我を楽しませてみよ!!」
ルミナスの反応に一部の人は頭を抱えこういう。
「我々に関係がなくとも、一つの世界の危機をそう喜ぶものじゃありませんよ。」
「そういうな、彼女ならどんな手を使ってでも守り切るとわかっているから申すのだ。」
「はあ。彼女を認めているからと言って、、、。まあ仕方がありませんわね。結局は見守ることしか、我々にはできないのですもの。結局、神も万能ではないですものね」
「力のあるものには、それ相応の義務や制約が必要というだけだ。仕方ないことであろう。」
会話をひと段落し、彼らはテーブル中央に映っているある時空の映像に目を落としていったのだった。
そして本のページはめくられた。