霊魂との会話
霊魂と目が合ってしまい声を掛けられてしまった現状、見えないふり聞こえないふりをして乗り切るのには多少無理がある。
周囲に気を配りながら小声で会話に応じる。
「死んでしまわれたみたいですね。」
「、、、やっぱりそうなんですね、、、」
「ご愁傷さまです。」
亡くなった当人にどういった言葉を掛ければ良いのか見当がつかずその文言を口にしてしまった。
「あなたは、私のことを認識できるんですよね、、、、って昨日から何度かお会いしてませんか?」
「え?そ、そうですか?」
「今日も家の近くですれ違って何か驚いたような顔されてましたよね?」
あぁ、やっぱりバレバレだったか、、、
「た、他人のそら似じゃないですかね?よく会社の先輩にどこにでもいる顔だよなって、、、言われますけど。」
霊魂は無言でこちらを見ている。
「、、、、、、、、、、、、、、、」
「、、、、、、、、、、、、、、、」
「すいません、あなたが近々お亡くなりになることは分かってました。信じてもらえないかもしれませんがこの眼鏡、死神から預かっていてもうすぐ亡くなりそうな人が分かるようになるんです。大体しか分からないんですけどね。」
「酷いじゃないですか!私のこと死にそうだと分かっていて、教えてくれなかったんですか?」
「あ、いや、、、そのどうやら運命というものがあって、、、いきなり知らない人にそう言われて信じられるかという問題も、、、」
「見殺しにしたってことですよね?」
「、、、はい、結果として。」
「悔しい、もうすぐ子供の誕生日だったのにどうしてこんなことに、、、、」
「、、、、すいません。」
自分でも自覚していたのだが、当人から見殺しにされたと言われるとその破壊力は比べ物にならない。こうなってしまうと聡介は謝ることしか出来ない。
「もし本当に悪いと思っているんだったら、、、寝室のクローゼットの右上に妻と子供へのプレゼントを隠しあるんでそのことを伝えてください、、、、そして、、、、、、すまないと、、、、」
肩を揺らしている霊魂の脇に寄り添い死神の到着を待つ。実際の時間はそんなに経っていないはずなのにもう何時間もそこにいる様に感じられる。
早く来てくれ!
電話を切った15分後から更に15分経ってからようやく紫音が現れた。
「遅いよ!なにが後15分だ!」
責める聡介は完全無視で紫音は霊魂に話掛ける。
「お待たせしました。非常に残念なことですが、あなたはお亡くなりになりました。そのことはお分かりですか?」
「はい。」
「あなたの魂がここに留まり人々に悪さする悪霊にならない様、私があなたを霊界までお連れします。」
「、、、分かりました。」
一通りの説明が終わった後、ようやく紫音はこちらに向き直し一言。
「お疲れ様、じゃあ後二人よろしくね。」
「は?今回のは赤一件だからもうおしまいだろ?」
思わず大きな声が出てしまった。周りにいた人たちが一斉に何だ?という感じでこちらを見て来る。当然聡介以外には霊魂はもちろん紫音の姿も見えていないためこのままでは変な奴となってしまう。咄嗟に耳に手をやりヘッドセットで電話をしている風に装いトーンを落として会話を続ける。
「赤い炎なら一件、黄色い炎だったら三件って約束だったよな?」
「まぁ今回は私が来れなかっただけで、すぐに来れたら黄色い炎のままだったわけだし。判定は発見時でしょ、やっぱり。」
安定の理不尽。
「けどなぁ、、、」
「それでは、いろいろと未練あるかとは思いますが行きましょうか。」
食い下がろうとする聡介をまたも完全無視で霊魂と共に立ち去ろうとする。もうきっと何を言っても譲る気はないのだろう。
「くそっ、けどよぉ霊魂の声まで聞こえるようになるんだったら先に言っとけよ、ホント驚いちゃったじゃないか。」
「は?何言ってんの?それ眼鏡だよ、波長を合わせた死神じゃないんだから霊魂の声まで聞こえる訳ないでしょ?」