駅前の惨事
すぐにでも引き返して追いかけようとも思ったのだが、流石にまずい。少し冷静さを取り戻した聡介はターゲットは十中八九駅に向かうに違いないと判断し今来たのとは別の道でグルっと遠回りして駅へと戻ることにした。
その決断は残念なことに間違いであったようで複雑に入り組んでいる住宅地を速足で歩くこと30分、いくら遠回りしているからと言ってもそろそろ駅に辿り着いても良さそうなものであるがそのような雰囲気が全くない。そこで初めてスマホの地図アプリを開くという考えに至ったのであるが、、、現在地が駅から随分と離れているという悲しい事実を知る羽目になってしまった。
あぁ、やっちまった、ターゲットは電車に乗ってしまったかな?
スマホを片手にアプリで確認した駅の方向に向かって走り出す。聡介の家の付近を散策しよう、昨日近くのコンビニで遭遇したことを考えれば闇雲に探し回るよりは再会出来る可能性は高いであろう、もし駅でターゲットを再発見出来ないという事態になった場合の対応案もいくつか考えながら必死に走り続ける。
しかし考え付いた対応案を実行に移すことはなかった。
息を切らせながらようやく駅前のロータリーに辿り着いた聡介はそこに人集りが出来ていることに気付いた。通勤時間帯に差し掛かっているということもあり人の数が多くその先で何が起こっているかまでは分からないが、群衆が向かう先で『頭打っているみたいだから動かさないで』とか『救急車を呼んで!』という怒号が飛んでいることから何かしらの事故が起こったのだと推測出来る。
今はそれどころではない、ターゲットを探して追わなければと思いその人集りを迂回しようとした聡介だったが一つの考えに至る。
事故?赤い炎?まさか!
すいません、すいませんと謝りながら前に立ち並ぶ人々をかき分けながら中心部へと向かって行く、睨んでくる輩も当然いるが今はそんなことを気にしている場合ではない。そして視界が開けた先に見えたのは今朝がた見かけた赤い炎を頭に灯した男が仰向けに横たわっている姿であった。
懸命な救命処置がとられている間も、救急車が到着しその男が搬送される時も聡介は呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。救急車がその場を去り、人もまばらになって来た今でもその状態から抜け出すことが出来ないでいた。
俺が見殺しにしたんだよな、、、、
色々な思考が頭の中を巡る。黄色い炎を灯した人間をターゲットと呼んだり、ノルマの1/3と捉えたていた自分自身をしかりつける。そんな自己嫌悪に陥ていた聡介は今日何度目であろうか、再び衝撃を受ける。
先ほど搬送されたはずの男が少し離れた所で聡介と同じ所、そう自分が横たわっていた場所を見つめていたのだった。更に驚いたことにその男には人であれば当然あるものが無かった。一つは頭の上にあるはずの炎でもう一つは、、、、足だ。
あれが先日死神が言っていた霊魂というものであろうか?これも眼鏡の効果なのであろう、しっかりと見えてしまっている。つま先から(実際にはないが)頭まで何度も見返してしているが足の先がないこと以外はほぼ生前と見分けがつかない。
事実確認と報告のため安藤紫音にあわてて電話を掛けると、やはり目の前に漂うのが霊魂であり死の直後は元の姿に近く時間が経つほどに球体に近づいていくとの説明があり、更に後15分ほどで現場に到着するとのことだった。
紫音の到着までの間も霊魂から目を離すことが出来ないでいた聡介であったが、そのことが思わぬ事態を招いてしまう。
あまりにそちらの方を見つめ過ぎていたため霊魂と目が合ってしまったのだ。向こうも当然気付いたようでなんとこちらに向かってくる。そして、、、
「あなた、私のこと見えるんですか?私はどうなったんです?まさか死んだんですか?」
え~?これも眼鏡の効果??