ファーストターゲット
安藤紫音と出会ってから十日が過ぎていた。それまで仕事の時間もサボる時間を減らし、休みの日も近隣をブラブラして探し回っているものの緑色以外の炎を灯した人間に遭遇することは出来ていなかった。
その日も一日中外回りをしていたが成果がなく意気消沈して自宅へ戻ることとなった。飲まなきゃやってられない!ビールとつまみを買いに帰り道の途中にあるコンビニに入ろうとしたその時、一人の男が入れ替わるように店から出てきた。
「あ!」
思わず声が出してしまった聡介であったがそれを気にする様子もなく店を後にするその男の頭の上には黄色い炎が灯っていた。遂に発見することが出来たのだった。
すぐに後を追おうとしたがそれこそ怪しい奴以外の何者でもないなと思いとどまり、とりあえずコンビニ入り口横に設置された喫煙スペースで煙草に火を付けた。その男のことを視線から外すことなくとりあえず煙草を1本吸ってはいるがまったく味がしない、、、火を消して男が歩いて行った方向に進みだした聡介はスマホを取り出し安藤紫音に電話を掛ける。
呼び出し音は鳴っているが中々相手は出ない。前回不意打ちで掛けられてきた番号を登録していたのだが違う所から掛けていたのか?そんなことを考えているとようやく繋がった。
「もしもし?何か用?今忙しいんだけど、、、」
ようやく電話に出た死神は相変わらずこちらの感情を逆なでしてくるが今それに突っ込みをいれてもしょうがない。
「見つけたんだよ、黄色い炎を灯した人を!」
「お、見つかった?それは良かった。周りに他の死神たちは居ない?」
、、、、そうだった、すっかりそのことを忘れていた。
男の後を追いながら一通り周囲を見渡して見るが現時点では同業者は見当たらない。
「今のところは居ないみたいだけど、もう少し様子は見てみる。
んで、これからどうすれば良いんだ?今ここは、、、、」
「ゴメン、さっきも言ったけど今ちょっと手が離せなくてそっちに行けそうにないんだよね。
そのままその人のこと見張っててくれない?」
電柱に掛かれた住所を言おうとした矢先にカウンターをもらってしまった。
「じゃあ、よろしく!」
「おい、ちょっと待って。」
聡介がそう言った時には既に電話の先に死神の気配はなくなっていた。
謝罪の言葉があっただけまだましか、そう思って耐えるしかない。
聡介の職業は探偵ではない、当然尾行などやったことがなく相手に見つかってしまうリスクもかなり高いだろう。怪しい人物に追われていますと通報されてしまうのではないかと内心ヒヤヒヤしながらもしょうがなく男の後に続く。
もし見つかってしまったら素直に『もうすぐあなたは死んでしまうので地縛霊にならないように私が見張ってます』と言ってしまおうか、、、いやいや、それこそ怪しい人物だ。
色々と考えを巡らせながらも今の所は何とか見失わず、気付かれず(恐らく)尾行が出来ているようだったが、ここに来て男は電車の駅へと入って行ってしまった。薄々はそうなのではないかと思っていたが聡介は自分の家の最寄駅から遠ざかって行ってしまうことになる。
経費とか死神に請求出来るのかな、、、そんなことを思いながら聡介も駅の中へと向かった。