任務開始
「どうしたんだ?最近眼鏡なんか掛けて、お前視力だけは良いっていつも自慢してたじゃないか。」
仕方なく安藤紫音から渡された眼鏡を身に付けて出社するようになった聡介に同期の出世頭である榎本が声を掛けてきた。事あるごとに何故か絡んでくる面倒な男である。特に入社以来親しくもしていないし営業成績からすれば天と地ほどの差があるため、聡介の存在を気にしているという訳ではなく自分が優越感に浸りたくちょっかいを出してきているのだと聡介は認識している。
「ちょっと、スマホのゲームをやり過ぎて急にね。」
「ったく、お前は気楽で良いよなぁ、俺は来月の本社での営業会議の資料作成で残業続きだってのに。」
はいはい、来た来た。
「まぁ大変そうなことは営業部のエースに任せるとして、俺は地道に頑張りますよ。
ゲームはほどほどにして。」
「ふん、いつもそうやってお前は、、、、」
「お~い榎本、課長が呼んでたぞ。」
長くなるだろうと覚悟した同期からの説教に対して運よく救いの手が差し伸べられた。
「く、とにかく新人にまで抜かれるようなことはないようにしろよ。」
「ほ~い、気を付けます!」
こちらを睨みつけながら立ち去る同期の頭の上にも今職場にいるその他のメンバーの頭の上にも全て緑色の炎が灯っている。ノルマを容易に達成することは出来ないがホッとしてしまう聡介であった。
朝礼も終わり日々の日課を片付けた聡介は黄色い炎探し(兼自分の本来の業務)のため職場を後にした。
死神と出会った日同様に容赦なく降り注ぐ痛い程の日差しの中、道行く人々には例外なく頭の上には緑の炎、足元にはその影がくっきりと見て取れる。比較人口が多い街で午前中歩き回りたくさんの人とすれ違う中で赤い炎はもちろんのこと黄色い炎すら見かけることがない。ここまで来て死神の言い分を信じない訳ではないが半日経って未だにに緑色以外の炎を見かけない訳でこの眼鏡が壊れているのではないかとも思えてしまう。
「はぁ、疲れた。一休みするか、、、、」
今まで通り休憩スポットへと向かおうと思ったが死神と遭遇してしまうリスクを考慮すると思いとどまるしかなかった。
早く変わりの安住の地を探さねば。
その日の業務がほぼ終わる時間となったが炎探しに進展はなかった。これは営業のノルマを達成するよりも困難なのでは、と真剣に思い始めていた矢先に聡介の携帯がなった。画面には普通ではありえない番号が表示されているが何か見覚えがあるような、、、、意を決してその電話に出てみる。
「もしもし、如月です。」
「もしもし、状況はどう?ちゃんと余命が残り少ない人探せてる?」
電話の先から先日出会った安藤紫音の声が聞こえて来たことにより暑さのせいでかいていた汗が急に冷たいものに変わった。
「な、何で電話を?」
「何でって数日経ったけど音沙汰がないから、ちゃんとやることやってるか心配になって。」
「いや、そうじゃなくて!俺の携帯番号教えてなかったよね?」
「あぁ、そんなこと?」
「そんなことって、、、」
「死神舐めてもらっちゃ困るわよ、あんたの個人情報調べるなんてちょちょいのちょいよ。
住んでる住所も言ってあげようか?」
「、、、、いや、いいです、、、、」
一瞬驚いた聡介であったが安藤紫音とやり取りしているうちに何か妙に冷静になってしまい、そんな能力があるのであればさっさと教えておいてくれれば、少なくとも今後の対応を悩むこともお気に入りの休憩スポットを避けて通ることもしなくて済んだのにと腹立たしさを覚え始めた。
「約束の仕事はちゃんとやってるよ!緑色の炎しか見えないんだけどこの眼鏡壊れてるんじゃないか?」
「そんな簡単に見つかる位だったら私一人でなんとかしてるって。あんた今の人間の人口に対する死亡率わかってんの?」
だったら数日で見つけられなくても仕方がないのでは、、、、いちいち理不尽である。
「見つけたら連絡するからもう少し待ってくれよ、じゃあな。」
そう言って乱暴に電話を切った。
とりあえず①当初の思惑通りそのままバックレるという選択肢がなくなり本気でなんとかしなければならなくなった。情報の整理とイライラを解消するために休憩スポットへと向かう聡介であった。
それにしても生きている人間の個人情報を調べ上げることと余命が残り少ない人間を探すこと、死神にとっての難易度の順列が全く理解できない、、、、