死神との出会い
開口一番でいきなり文句を言われ聡介も流石にムッとして言い返す。
「なんだよノルマって、女の子が飛び降りそうにしてるってのにずっと見てるだけなんてちょっと酷いんじゃないか?」
「それが私の仕事なんだからいいでしょ!、、、って私のこと見えてたの?」
「ん?何言ってんだよ俺がここに来た時から既に居たでしょ?」
「あぁ、あんた見えちゃう人ね。昔から幽霊とか色々見えたりしたでしょ、たまにいるんだよね。」
「確かに霊感は強い方だと思うけど、それと何が関係あるんだよ!」
「私は死神で死んだ人間の霊魂を霊界に送り届けるのが仕事なの、あの子は今日ここで死ぬべき運命だったの。」
話が完全に嚙み合わずに更にイライラを募らせていた聡介に対して予想することすら困難な回答を放り込んできた。ちょっと夢見がちなお方ですね。
これ以上のやり取りは無意味だと判断しその場を立ち去りたい聡介に対して、自称死神はお構いなしに話を続ける。
「あんたが勝手に運命変えちゃったせいで今月私が霊界に送らなければいけない霊魂の総量が目標に達しなくなったらどうすんのよ。」
「死神だったらその辺でサクッとやっちゃえば?大きな鎌とか持ってないの?あ、でも俺は止めてね。」
「死神をなんだと思ってんのよ。確かにそういう階級もあるけど無差別に出来る訳じゃないし、大抵の死神は運命の輪の中で亡くなった人間の霊魂を連れて行くだけの権限しか持ってないのよ。地道に亡くなりそうな人間を探して亡くなったタイミングで寄り添ってね。先週からずっとあの子を追ってたのに、、、」
「それは悪いことしたね。だったら病院とかに詰めていたら?そっちの方が効率良いんじゃない?」
「そういった所はベテラン死神のテリトリーなの!私みたいな下っ端は足使うしかないのよ。」
会話を切り上げるべく適当に話を合わせてはいるが話のスケールが夢見がちとは言えなくなくなってきた。
彼女が信じる世界についてまとめると以下の様になる。
・現世で生を受けると霊魂が霊界から現世に移り、死を迎えと霊魂が霊界に移る
・現世で文明を持った人間やペット化された動物の霊魂は亡くなっても自然に霊界へと戻って行かない
・その為、それらの霊魂を霊界に連れて行くのが死神の仕事でそれぞれの種族の姿形をしている
・霊体だけの死神は通常見ることが出来ないが、死神が波長を合わせれば見ることが出来る。
・現世と霊界との霊魂バランスが崩れると双方の世界で天変地異が発生するため亡くなり次第霊魂を戻す必要がある
「という訳で、ちゃんと責任は取ってもらうからね。代わりもうすぐ亡くなりそうな人を見つけて来て。」
「いやいや、まず俺にそんなこと察する能力ないし。」
変なことに巻き込まれそうになるのを必死に拒否するがそれを見越したように彼女は続ける。
「その辺は大丈夫。ここ最近の死神出生率低下に伴って便利なアイテムが発明されているのよ。はい。」
そう言って手渡して来たのはフレームの所に交差した鎌のマークが入っている眼鏡であった。何となく有名ブランドのマークを模しているような雰囲気がある、、、
「何これ?」
「死神なりきり眼鏡。」
「いや、名前じゃなくて。」
「それを掛けると死神と同じように人間の寿命が大体分かるようになるの。
当面死ぬ予定がない人の頭の上には緑の炎、一ヶ月以内に亡くなる人の頭の上には黄色い炎、そして三日以内に亡くなる人の頭の上には赤い炎が見えるようになるわ。」
「へぇ、、、、それってどういった原理で?」
「、、、、、、、、とりあえず黄色い炎の人であれば三人、赤い炎の人であれば一人。見つけたらここに電話して!
私は安藤紫音、よろしくね。えっと、、、、」
「俺?俺は如月聡介。」
「如月?、、、、、ふぅん。」
そう言って渡された紙には普通の電話番号とは異なる数字が記載されている。名前を聞いた時の反応等いろいろと気になるが、とりあえずこれで解放されるかと思うとそれ以上の突っ込みをせずに見つけ次第電話するとだけ伝えた。
「あ、そうそう。」
「まだ何かあるの?」
「他の死神補佐が追っているターゲットは横取りしないようにね。最近は新聞とかにひっそりと広告だして現世の人間に仕事を手伝ってもらっている死神もいるくらいだから、黄色い炎の人を見かけたら暫く同じ眼鏡を掛けた人間が周りにいないかをチェックしておいて。」
「はいはい。」
もう半ば、とんずらする気になっている聡介は適当に返事をする。
「あんたの場合は死神も見えちゃうみたいだからそっちも注意ね。」
「ん?でも死神はこの眼鏡掛けてないんだろ?どうやって判断するんだ?」
「現世に来る時は霊体だけで来る死神が多いから基本的に影がないわ、今の私の様に。」
そう言われて彼女の足元を見ると燦燦と降り注ぐ夏の日差しの中、そこにはあるべき影がないことに初めて気が付いた。
まじか?どんなトリックだ?意外と本物??
そんな聡介の心理状態を察したのか紫音は追い打ちを掛ける。
「少しは信じる気になった?じゃあもう一つ、進藤明人って知ってる?」
「あぁ、毎朝俺が見ている『お目覚めニュース』のキャスターだよな?」
「今日の朝、彼の頭の上にあった炎の色は赤だったわ。」