たとえ憎い相手であっても……(選択肢あり)
「武雄くんって雨嫌い?」
不意に雪は窓の外を見ながらそう聞いてきた。
確かに梅雨の時期は、ジメジメするし、行動も制限されるからあまり好きではない。
「去年までは好きじゃなかった。外へ出られないし。でも、今年は部屋でゆっくり雪と過ごせるから好き」
そう告げて、雪を背中から抱きしめた。
いつもならこうすると、必ず雪は笑顔を浮かべてくれるのだけど……今日は妙に表情が固い。
「何か悩み事でもある?」
心を見透かされているらしい。
どうやら心と身体が繋がると、自然と分かってしまうようだ。
しかし内容が内容なだけに、素直に相談したら良いか迷う俺がいる。
「そうやってなんでも自分で抱え込もうとするの、武雄くんの悪い癖だって最近分かったんだ」
「……」
「……もしかして、黒井さんのこと?」
「なんで分かったんだ?」
「まぁ、なんとなく……そういう情報は回るの早いから……」
黒井姫子は俺と雪に会ったあの日を境に、大学へ来なくなった。
更に家にも殆ど帰らずの状態が続いているらしい。
もしかすると、あの日、俺と雪がこっ酷くアイツを叩いたのが原因なのだろうか。
とはいえ、一方的に迫って来たのはあっちの方で、俺と雪はそんな黒井姫子を追い返しただけで……それでも心配をしてまうのは、やはり3年という時間を一緒に過ごした記憶があるからだろう。
やはり少しでも身近に感じる人間が、おかしい行動をとっているのは、不安である。
「探したいの?」
突然、雪はそう優しい声音で問いかけてくる。
「別に俺は……」
「……じゃあさ。もしも私が黒井さんを探したいって言ったら、手伝ってくれる?」
「雪も?」
「私も勢いとはいえ、少し言いすぎた気もしてるし……あの時の黒井さん、凄く辛そうに見えて……なんとなく、いじめられてて、八方塞がりだった昔の私を見ているような気がして……」
やっぱり雪は凄く優しくて、良い子なんだと強く感じた。
たとえ相手がどんな奴だろうとも、相手の立場に立って考えられる、凄く優しい人……俺が彼女のことを益々好きになった瞬間だった。
しかし、やはり動き出せない俺がいる。
するとそんな俺の様子を察したのか、雪が手を握ってくる。
「でも最終的な判断は武雄くんに任せるよ。武雄くんが嫌なら、無理にとは言わないし……」
「……」
「決めて。私はそれに従うから」
俺の選択はーー
●黒井姫子を探さない
●黒井姫子を探す




