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第05話、巫女の少女は実家の神社を助けたい

「お話し中、失礼いたします――」


 透明感のある声に振り返ると、巫女(みこ)装束(しょうぞく)を身にまとった少女が立っていた。黒い瞳に漆黒の絹のごとき髪、すいつくようになめらかな肌に(あか)い唇が()え、名匠(めいしょう)が完成させた人形のようだ。


「天の気をあやつるとは、(たちばな)さま。あなたは龍神さまの化身(けしん)なのではありますまいか?」


 俺の前に歩み出ると、いきなり手を合わせた。


「いや、そんな大層なもんじゃねえよ、あははっ」


 困った俺が口を開けて笑うと、


「まあ、なんてかわいらしい牙!」


 と声を高くして両手で口元をおおった。「龍神さま、そのような大切なものを(おが)ませていただき、このさかき惠簾(エレン)、大変しあわせにござります!!」


「だから俺は龍神さまじゃねえって」


「いいえ、空に語りかけて雨を降らせ、呪文詠唱もなく結界を張り、井戸の水を意のままにあやつる―― これらはまさに龍神さまのお力!」


 早口でまくし立てた少女は、はっとした。「あっ、ご紹介が遅れました! わたくし高山(たかやま)神社の巫女をつとめておりますさかき惠簾(エレン)と申します。こちらの学院では回復術と防御術を学んでおります」


 あわてて深々と頭を下げる。


「おいおいやめてくんねえ、そんなかしこまるこたぁねえよ」


 俺は惠簾(エレン)の両肩にそっと手を添え、顔を上げてもらった。


「あ~、高山神社って五穀豊穣・子孫繁栄・子宝祈願で有名な――」


 玲萌(レモ)が口をはさんだ。「高台に建ってるぼろっちい神社ね!」


 失礼なこと言うなよ、とたしなめる前に惠簾(エレン)がうなずいた。「はい、現在の宮司(ぐうじ)はわたくしの父なのですが、おやしろを修繕する金子(きんす)もなく……」


 悲しげにうつむいていた惠簾(エレン)は、また俺に向かって手を合わせる。「ああっ龍神さま、どうかわが社のご本尊となって信者さまを集めてはくださいませぬか」


「いや――」


 反論しかけた俺をさえぎって玲萌(レモ)が、


「いいわねそれ! あたしが教祖やるわ。がっぽりもうけるわよっ」


「あんたがもうけてどうすんだ」


 つっこむ俺に、


惠簾(エレン)と山分けすんのよ」


 しれっと言いやがる。俺の取り分なしかよ。


 惠簾(エレン)はなおも手を合わせ、うるむ瞳で俺を見上げている。


「そんな困ってるんなら、なんとかしてやりてぇな……」


「学園祭で稼いだらどうです?」


 口をはさんだのは瀬良師匠。魔力の使い過ぎで倒れた地獄斬じごくざんの持ち主を救護のに運ぶよう学生たちに指示していたが、こっちの話も聞いていたようだ。


玲萌(レモ)さんなら何かずる賢い金もうけの方法を思いつきそうなもんです」


 ……仮にも教師がそれを言うか!?


「そうね! この玲萌(レモ)ちゃんに任せてちょーだいっ」


 玲萌(レモ)は自信たっぷりである。やしろの修繕ってかなりの金子(きんす)が必要だと思うのだが、彼女の才覚なら不可能はないのかもしれない。


「じゃ、頭を使うとこは任せたぜ、玲萌(レモ)


 それから祈り続けている惠簾(エレン)の両手をにぎり、


「心配すんな。俺らがなんとかしてやるからな」


「龍神さま、この榊惠簾(エレン)ご恩に着ます!」


 彼女の頬に笑みが戻った。


「だからその龍神さまってぇのはよしてくんな」


「でしたら―― 神様?」


 きょとんと首をかしげる。さらりと肩をすべる黒髪が美しい。


「悪化してるじゃねえか……」


 龍神さまのほうがまだマシである。


「お礼のしるしに祝詞のりとを奏上させてくださいまし」


「は? いや――」


 止めるもなく、


高天原たかまがはらして、天と地に御働みはたらきを現したまう龍王は――」


 うわーなんか始まった!


「ちょっ、やめ―― 惠簾(エレン)っ」


 玲萌(レモ)をはじめ周囲の学生たちがあっけにとられる中、瀬良師匠だけはさも楽しそうに顔を輝かせて事の成り行きをながめていやがる。惠簾(エレン)は俺の反応に驚いた様子で、


「龍神さまは祝詞のりとを奏上されると気持ちよくなるわけではないのでしょうか?」


 そんなん知らねえって。


「ではお神酒みきでもおそなえしたら喜んでもらえ――」


「俺まだ未成年だから酒飲まないよ」


「えーっとじゃあお米!」


生米なまごめもらってもなあ」


「もーう! じゃあわたくしを捧げますわ! 感謝のしるしです!」


 さけぶやいなや惠簾(エレン)は俺の胸の中に飛び込んできた。「受け取ってくださいまし!」


「うわぁっ!」


 俺はたたらを踏んで惠簾(エレン)を抱きとめる。巫女装束の白衣びゃくえをへだて、彼女の身体のやわらかさが両腕に伝わってきてドキッとする。内心の動揺を隠すように、


「捧げものなんか必要ねぇよ。俺は友人としてあんたを助けるんだから」


 つややかな黒髪をなでながら笑いかけると、彼女の顔がぱーっと明るくなった。 


(たちばな)さまはお優しいかたなのですね。お姿は神々しくても、あたたかい人の心を感じますわ」


 近づきがたい美人かと思いきや、笑えば年相応にかわいいじゃねえか。


「頼りにさせてくださいまし」


 上目づかいに俺をみつめ、少し甘えた声を出す。蠱惑こわく的な黒い瞳に吸い込まれそうだ。


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