第48話、帰還
浮かんでいたはずの両足に突如、重力がかかった。耳には激しい水音が戻ってくる。誰かが左手を引いた。
「樹葵! どうしたの!?」
玲萌の声だ。滝の水に打たれていることに気付いたときには、玲萌が手を引っ張って俺をそこから引きずり出していた。たたらをふんで体勢を立て直すと、
「橘さま、どこか具合でも悪いのですか?」
うしろから惠簾の声が聞こえて、彼女に支えられているのが分かった。目を開けると右手にしっかりと神剣・雲斬を握っていた。
「いや……」
振り返ると羽は消えているし髪の長さも元通りだ。「帰ってきたんだ」
「帰ってきたってなによ?」
玲萌が怪訝な顔で俺をみつめる。「樹葵はずっとここにいたじゃない。いまほんの一瞬、意識を失っていたのよ」
「俺、滝の中から出てきたんじゃないのか?」
「いえ、滝の裏に歩いて行かれたと思ったら、うしろ向きのまま倒れたんです。わたくしがとっさに支えたところに玲萌さんも駆け寄ってきてくださって」
「そうよ、そこで見てたら樹葵がいきなり立ちくらみ起こすんだもん!」
玲萌が池の端に立つ夕露の方を振り返る。
「樹葵くん、ずぶぬれで寒くないのぉ?」
夕露に言われて俺は、思い出したように身震いした。泉を囲む木々はすっかり色づいて、濡れた肩に秋風が冷たい。
「俺は洞窟を通って精神世界に行ったんじゃなかったのか?」
確かめなきゃ気がすまない。
「ちょっと樹葵、動いて大丈夫なの!?」
俺がめまいを起こしたと思い込んでいる玲萌は、体調を気にかけてついてくる。
「ない…… 隧道がなくなってる――」
上から伸びる植物のつるはさきほどと変わらない。だがそれはただの岩壁。洞窟も隧道もなかった。
「いったいなにがあったの?」
不思議そうに問いながら、玲萌はふところから手ぬぐいを出した。手を伸ばすと、俺の頬や肩にしずくを落とす髪をぬぐってくれた。こうやって玲萌にかいがいしく世話焼いてもらうと、帰ってきた実感がわくなあ―― あぁしあわせ……
話の区切りの関係で短くてすみません!
今日中にもう1話アップします。




