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第45話、つるぎの精と剣術修行

 俺のまわりに風が起こり、銀髪がなびく。ん……? なんか髪、長くなってね? と思ったときには、つるぎが虹色に輝きだした。


「おいでなさいませ、ぬしさま!」


 声の方を見れば、少女が両手につるぎを手にしている。おそらく新たに水からつくりだしたのだろう。


「おいでなさらぬなら、こちらから行かせてもらいますぞ!」


 威勢よくさけぶと、淡い水色の髪をなびかせ二刀流で向かってくる。


 ――斬られる!


 と思った瞬間、


 ばしゃぁぁぁん!


 俺は頭から水をかぶっていた―― 当たったら水に戻るのかよ……


「ああ、日差しがあったかいなあ……」


 全身からぽたぽたとしずくを落としながら現実逃避する俺。


「なぜ応じてくれぬのじゃ! ぬしさまの腕前が分からぬではないか!」


 少女はすっかりふくれている。


「きみみたいな小さい子に武器を向けるなんて、できるわけないだろ」


「なにを言っておるのじゃ」


 少女は心底、驚いた顔で俺を見上げた。「わらわはそなたの何十倍、いや何百倍も生きておるのじゃぞ!? いや、生きておるは違うのぅ…… この地に存在しておる、かの」


 なにやらぶつぶつ言っている。


「やっぱりかなりご高齢の精霊さんなんだよな」


 納得する俺に、


「ご高齢はやめてたもれ」


「年配の女性に斬りかかるなんて俺にはできないよ。魔術剣の師範とか、大悪党だとかいうならべつだけど――」


「年配はやめてたもれと」


 いや、事実だと思うんだが――


「そもそもなんで、きみは小さな女の子の姿をしてるんだ?」


 どういうわけか無駄に伸びた髪をかきあげながらたずねる。季節も変わってるし、時空がゆがんでいるのだろうか。


「この姿はのぅ、いままでのあるじたちにもっとも受けがよかったのじゃ」


 そこはかとなく闇を感じるのだが……


「大人の女性じゃだめなの?」


「坊さんやさむらいという種族は、女性にょしょうにはれられぬそうじゃて」


 そういう時代もあったよな。


「そうじゃ、時おり男子おのこの姿を所望する男たちもおったのう」


 さらに闇を感じるぞ。


「ともかくわらわはまこと女子おなごではないのじゃから、優男やさおとこぶってないでかかってくるのじゃ!」


 くっ、子供らしい声でズバっと言いやがって。ンなこと言ったってあんたは実際、絶世の美幼女に見えるんだよ! こんな子に斬りかかるなんて、俺の流儀スタイルじゃねぇ! ――などと伝えて、きたないオッサンに変化へんげされたら嫌だしなあ。


 うつむいて思索にふけっていたら、なにを誤解したのかくもぎりちゃんが心配そうに下からのぞきこんだ。


「何やら落ち込んで―― はっ! もしや、ぬしさま実は女子おなごじゃったとか!?」


 ……なぜそうなる!?


「わらわはまたやってしもうたのか! ごめんなさ――」


「うわー、待った待った。ごめんなさいなのじゃぁぁ、はもういいから!」


 みなまで言わせぬうちに、しゃがんだ俺はくもぎりちゃんを抱きしめて黙らせる。


「こっ、子供扱いしないでほしいのじゃ!」


 数千年存在している精霊が幼女になる精神世界なら、俺も魂の状態としては性別も年齢も関係ないか? 前世や来世は女性かもしれないし、思い描いたものがすぐに実体化するこの空間ではこまけぇこだわりは野暮かもしれねえ――って、いいこと思いついたぞ。


「あんたが水でなんでも作れるってんなら、でっかい蜘蛛の形にできねえか? 予行演習がしてぇんだ」


「おっ、わらわがむかし斬った土蜘蛛じゃの? おやすいご用じゃ。しかしこの泉では少々手狭てぜまじゃの。移動するぞ」


 くもぎりちゃんは池を囲む森の中に入ると、一本の大木たいぼくの前で立ち止まった。


「この木のほらに入るのじゃ」


 と言うと、するりと樹洞じゅどうの中にすべりこんだ。俺もあとへ続いて――


「うわ! えっ!?」


 いったん穴から戻ってあたりを見回すと、さきほどと変わらぬ森の中。しかし樹洞じゅどうの向こうは――


「雲の上!?」


「飛ぶのじゃ」


 空に浮かぶ少女はき通る衣をたなびかせ、まるで本物の天女のようだ。


「これ、想像すりゃあ飛べるんだよな?」


 おそるおそる見回すと、上も下も果てなき青空が広がるばかり。ところどころ白い雲が浮かぶ虚空こくうに足を浮かべようとすると、股間のものが縮みあがる。


「ぬしさまの背に応龍おうりゅうのような翼が見えるのじゃが?」


「応龍の翼!?」


 肩越しに背中を振り返ると羽織っていた水浅葱の布のかわりに、真っ白い羽が目に入った。


「これ、半纏のうしろ身頃みごろつきやぶってんのか? 夢見てるみてぇだな……」


 髪が伸びてるくらいで驚いてる場合じゃなかったのだ。とりあえず肩甲骨のあたりに意識を向けてみると―― 動かせた!


「ぬしさま、お手を」


 くもぎりちゃんが伸ばしてくれた人形のようにかわいらしい手をにぎって、雲の上を羽ばたく。


「あの水の城が目的地?」


「そうじゃ。あれだけ豊富な水があれば、どんな大きさの蜘蛛でもつくり放題なのじゃ」


 雲海の上に建つその城は巨大な噴水でできていた。城の前に広がる堀は、湖と呼ぶべき大きさだ。城の正門へと架けられた雲のつり橋に、俺たちはふわりと舞い降りた。

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