表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/84

第40話、宝物殿にて神剣探し

 土蔵の入り口で立ったまま寝ていた夕露(ユーロ)桐箪笥きりだんすのわきに座らせて、俺たちは三人で神剣・雲斬くもぎりを探すことにした。


 俺は魔力光を頭上に放り投げると、もろ肌脱ぎになる。胸の真ん中に埋め込まれた龍の眼を使うためだ。


「まぁ素敵!」


 半分くらい予想はしていたが、惠簾(エレン)が黄色い声をあげた。わざわざ俺の前に回り込んで腰をかがめてのぞきこむと、両手を頬にあてる。


「目があってしまいましたわ! 恥ずかしいっ!!」


 俺本人と目が合ったときに欲しかったわ。その反応。


樹葵(ジュキ)、なにか特別な気を感じる?」


 玲萌(レモ)はいたって冷静だ。惠簾(エレン)にツッコミも入れなければ、この胸に張り付いた金色に光るこぶし大の目玉を恐れることもない。


「この建物全体に清くて澄んだ気がただよっているんだが、すごく濃くて――」


 俺は軽いめまいを起こして、すぐ横に積み上げられたつづらに右手をついた。


「あたしに寄りかかっていいわよ」


 玲萌(レモ)は水浅葱色の外套マントの中に素早く入ってくると、俺の左腕を自分の左肩に乗せた。しっかりと手をにぎって支えてくれる。


  ――俺が上半身裸でも気にしねぇんだな、と思いつつ、密着されて俺の方が鼓動早くなってきたぞ……


「古いものほど奥にあるはずです」


 積み上げられた木箱や棚の間を進んでいく惠簾(エレン)を、魔力光をともした俺と玲萌(レモ)が追う。ざまざまな色を帯びた気の中からひときわ強い何かをみつけようと、俺は第三の目の感覚に意識を集める。


(たちばな)さま、純粋な興味なのですが―― 古代の水龍王の瞳が木乃伊みいらにならずに保管されていたのですか?」


 集中しようとしてんのに惠簾(エレン)が質問を投げかける。


「え、ああ。特殊な術をかけた魔法薬の中にひたされてたんだよ」


「なかなか興味深い術ですわね。でもせめて、たおされてしまった水龍王の命がこうした形で引き継がれたことはうれしく思いますわ」


 俺が龍神さまじゃないってこと理解してなきゃ出てこない感想をのたまう惠簾(エレン)。このも内心では何を思っているのか謎ではある。


 奥に進むにしたがって明らかに気が強く濃くなる。それはいやな感じではなく、気分のあがる音楽を聴いて高揚するときに近い。


樹葵(ジュキ)、暑いの? 具合わるいわけじゃないよね?」


 玲萌(レモ)が俺の横顔を心配そうに見上げる。ふところから手ぬぐいを出すと、手をのばして俺のこめかみを流れる汗をぬぐってくれた。うわわ、そんなことされたら余計に意識しちまう! って今はそんなこと考えてる場合じゃねえ!


「集中しようとしてたから……」


 玲萌(レモ)を安心させようと笑顔を向ける。あんたがくっつくから集中できねえなんて、情けなくて言えたもんじゃない。


 俺は自分の両眼を閉じて、においをかぐように顔を上に向ける。


「なんか、上の方に感じるような――」


 少しかすれた声でつぶやいたら、


「屋根裏があります!」


 惠簾(エレン)がすぐに案内してくれた。箪笥を積み重ねたような箱階段のうえに、中二階ともいえる空間が広がっている。その最奥から強い引力を感じた。たとえるなら、さんざん歩いて疲れはて、汗とほこりにまみれたとき、山奥に湧く天然の温泉をみつけたような感じ。すぐさま飛び込んで気分よくなりたいみたいな――


「呼ばれてる気がする」


 俺はふらふらと古びた刀箪笥へ近付いていった。俺の腕をにぎる玲萌(レモ)の力が強くなる。きっとまた心配させてるな……


「ここにはなにが入ってるんだ?」


 俺は桐箪笥の前に倒れ込むように右手をついた。玲萌(レモ)も床にひざをついて、右腕で俺を抱きかかえるようにしてくれる。支えてくれる彼女のやさしさがうれしくて、こんなときなのに腰のあたりがそわそわしちまう。


「一番下の段ですか?」


 俺の視線の先を追って尋ねる惠簾(エレン)


「うん、その中からすがすがしい、とても強い気を感じるんだ」


 惠簾(エレン)はうなずくと、魔力光に照らされた金属の取っ手を両手で引こうとしたが、


「鍵がかかってますわ。すぐ兄さまに――」


「開けていいか?」


「ですから鍵が――」


 言いかけた惠簾(エレン)玲萌(レモ)が、


樹葵(ジュキ)は鍵開けとかいう怪しい術が使えるのよ」


 と説明する。


「さすが龍神さま! 得体が知れなくて本当にかっこいいですわ!!」


 惠簾(エレン)は胸の前で両手を組んで目を輝かせた。普通人をほめるとき、得体の知れないって言い回し使わないからな?


「ぜひ鍵開けの術、見せてくださいまし!」


 惠簾(エレン)の承諾を得たので、俺は右手の人差し指を鍵穴に向けた。鉤爪かぎつめの先に光がともり、あっけなく鍵がはずれた音がする。


「まあ! 本当に鍵が開いた……?」


 半信半疑のまま惠簾(エレン)は刀箪笥の前にひざまずき、一番下の段を重そうに引き出した。木の仕切りの上に乗せられていたのは、古い布に包まれた長い棒状のもの。刀かつるぎであることは確かだが、これが雲斬くもぎりである確証はまだない。


「開けますわよ」


 と言って手早く布を結んだ紐をほどく。彼女が真剣に作業をしているうしろで、玲萌(レモ)が俺の耳の下に頭をすりよせてくる。なにを考えてるのか全然分からねえが、猫みてぇでかわいいしまったく嫌じゃないので指摘しないでおこう。


「当たり、ですわ……」


 惠簾(エレン)が震える声で言った。

ブックマークや評価を入れて下さる方、いつもありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ