第40話、宝物殿にて神剣探し
土蔵の入り口で立ったまま寝ていた夕露は桐箪笥のわきに座らせて、俺たちは三人で神剣・雲斬を探すことにした。
俺は魔力光を頭上に放り投げると、もろ肌脱ぎになる。胸の真ん中に埋め込まれた龍の眼を使うためだ。
「まぁ素敵!」
半分くらい予想はしていたが、惠簾が黄色い声をあげた。わざわざ俺の前に回り込んで腰をかがめてのぞきこむと、両手を頬にあてる。
「目があってしまいましたわ! 恥ずかしいっ!!」
俺本人と目が合ったときに欲しかったわ。その反応。
「樹葵、なにか特別な気を感じる?」
玲萌はいたって冷静だ。惠簾にツッコミも入れなければ、この胸に張り付いた金色に光るこぶし大の目玉を恐れることもない。
「この建物全体に清くて澄んだ気がただよっているんだが、すごく濃くて――」
俺は軽いめまいを起こして、すぐ横に積み上げられたつづらに右手をついた。
「あたしに寄りかかっていいわよ」
玲萌は水浅葱色の外套の中に素早く入ってくると、俺の左腕を自分の左肩に乗せた。しっかりと手をにぎって支えてくれる。
――俺が上半身裸でも気にしねぇんだな、と思いつつ、密着されて俺の方が鼓動早くなってきたぞ……
「古いものほど奥にあるはずです」
積み上げられた木箱や棚の間を進んでいく惠簾を、魔力光をともした俺と玲萌が追う。ざまざまな色を帯びた気の中からひときわ強い何かをみつけようと、俺は第三の目の感覚に意識を集める。
「橘さま、純粋な興味なのですが―― 古代の水龍王の瞳が木乃伊にならずに保管されていたのですか?」
集中しようとしてんのに惠簾が質問を投げかける。
「え、ああ。特殊な術をかけた魔法薬の中に浸されてたんだよ」
「なかなか興味深い術ですわね。でもせめて、斃されてしまった水龍王の命がこうした形で引き継がれたことはうれしく思いますわ」
俺が龍神さまじゃないってこと理解してなきゃ出てこない感想をのたまう惠簾。この娘も内心では何を思っているのか謎ではある。
奥に進むにしたがって明らかに気が強く濃くなる。それはいやな感じではなく、気分のあがる音楽を聴いて高揚するときに近い。
「樹葵、暑いの? 具合わるいわけじゃないよね?」
玲萌が俺の横顔を心配そうに見上げる。ふところから手ぬぐいを出すと、手をのばして俺のこめかみを流れる汗をぬぐってくれた。うわわ、そんなことされたら余計に意識しちまう! って今はそんなこと考えてる場合じゃねえ!
「集中しようとしてたから……」
玲萌を安心させようと笑顔を向ける。あんたがくっつくから集中できねえなんて、情けなくて言えたもんじゃない。
俺は自分の両眼を閉じて、においをかぐように顔を上に向ける。
「なんか、上の方に感じるような――」
少しかすれた声でつぶやいたら、
「屋根裏があります!」
惠簾がすぐに案内してくれた。箪笥を積み重ねたような箱階段のうえに、中二階ともいえる空間が広がっている。その最奥から強い引力を感じた。たとえるなら、さんざん歩いて疲れはて、汗とほこりにまみれたとき、山奥に湧く天然の温泉をみつけたような感じ。すぐさま飛び込んで気分よくなりたいみたいな――
「呼ばれてる気がする」
俺はふらふらと古びた刀箪笥へ近付いていった。俺の腕をにぎる玲萌の力が強くなる。きっとまた心配させてるな……
「ここにはなにが入ってるんだ?」
俺は桐箪笥の前に倒れ込むように右手をついた。玲萌も床にひざをついて、右腕で俺を抱きかかえるようにしてくれる。支えてくれる彼女のやさしさがうれしくて、こんなときなのに腰のあたりがそわそわしちまう。
「一番下の段ですか?」
俺の視線の先を追って尋ねる惠簾。
「うん、その中からすがすがしい、とても強い気を感じるんだ」
惠簾はうなずくと、魔力光に照らされた金属の取っ手を両手で引こうとしたが、
「鍵がかかってますわ。すぐ兄さまに――」
「開けていいか?」
「ですから鍵が――」
言いかけた惠簾に玲萌が、
「樹葵は鍵開けとかいう怪しい術が使えるのよ」
と説明する。
「さすが龍神さま! 得体が知れなくて本当にかっこいいですわ!!」
惠簾は胸の前で両手を組んで目を輝かせた。普通人をほめるとき、得体の知れないって言い回し使わないからな?
「ぜひ鍵開けの術、見せてくださいまし!」
惠簾の承諾を得たので、俺は右手の人差し指を鍵穴に向けた。鉤爪の先に光がともり、あっけなく鍵がはずれた音がする。
「まあ! 本当に鍵が開いた……?」
半信半疑のまま惠簾は刀箪笥の前にひざまずき、一番下の段を重そうに引き出した。木の仕切りの上に乗せられていたのは、古い布に包まれた長い棒状のもの。刀かつるぎであることは確かだが、これが雲斬である確証はまだない。
「開けますわよ」
と言って手早く布を結んだ紐をほどく。彼女が真剣に作業をしているうしろで、玲萌が俺の耳の下に頭をすりよせてくる。なにを考えてるのか全然分からねえが、猫みてぇでかわいいしまったく嫌じゃないので指摘しないでおこう。
「当たり、ですわ……」
惠簾が震える声で言った。
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