表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/84

第37話、神剣は宝物殿に?

 魔道学院の教授棟にある瀬良師匠のせまっくるしい研究室には、ところせましと魔術書が積みあがっていた。座布団にきちっと正座した師匠は、書きかけの論文や手紙が散乱する文卓に『白草國魔獣討伐記』を置いて目を通すと、


「素晴らしい!」


 と俺たちを絶賛した。「こんな短時間で、土蜘蛛の治癒能力を無効化する武器の情報をつかむとは、さすが私の弟子ですね!」


 どことなく自分をほめてないか?


奈楠(ナナン)さんってぇ司書さんが、この本をみつけてくれたんだ」


 俺が照れ笑いしながら答えると、


「そっ! 樹葵(ジュキ)奈楠(ナナン)さんに気に入られたおかげで、頼みを聞いて文献に探索魔術をかけてくれたの」


 ことばとはうらはらに、玲萌(レモ)はつんけんしている。「聞いてよ師匠! 奈楠(ナナン)さんったら樹葵(ジュキ)のこと、『樹葵(ジュキ)ちゃん』なんて呼んでさ!」


「ぷっ、この目つきの悪いガキにちゃん付けとか」


「ちょっと師匠、心の声がだだ漏れよ。ぷぷっ」


 二人して笑いをこらえやがって。いまでも家族からときどき樹葵(ジュキ)ちゃん呼びされるから違和感なかったんだが、おかしいのか。


「それで師匠、あたしたちの学園祭企画、許可してくれるわね?」


 師匠の文卓に両ひじを乗せて頬杖をついていた玲萌(レモ)が、ずいっと身を乗り出した。


「私は構いませんが、準備なんて手伝いませんよ?」


 『白草國魔獣討伐記』をぱらぱらとめくりながら、師匠は興味なさそうに答える。「学園祭来月なのに演劇なんて仕上がるんですか? 衣装とか小道具とか考えてます?」


「だいじょぶよ、あたしと生徒会長の凪留(ナギル)は単位取り終わってるし」


「じゃ、なんでかよってるんだよ?」


 物好きな、とあきれつつ尋ねる俺に、


「学院側の過失ミスで卒業試験がちゃんとできなかったから、卒業試験受けるまで追加の学費なしで在籍してていいって言われたのよ。なら授業に出た方がお得じゃないっ タダで学べるんだから!」


 さすが学問大好きな玲萌(レモ)。ぎりぎりの単位数で卒業試験を受ける権利を手に入れたい俺とは大違いだ。 


「できるならよいのでは」


師匠はそっけなく言い放つと、すくっと立ち上がって窓ぎわにつるした竹細工の虫かごをのぞく。


「やってみせるわ! 台本はほとんど完成させたし。師匠も役者に使うかもしれないからよろしくね!」


 かごの中の鈴虫をめでていた師匠は慌てて振り返った。「ちょっ…… 私はたったいま手伝わないと――」


 と、そのとき――


 コンコン


 と部屋の戸をたたく音。


「どうぞ」


 と答えた師匠の声に入ってきたのは惠簾(エレン)だった。


「失礼いたします、お師匠さま」


 律儀にも、旅館の女将さんのように正座して入ってくる惠簾(エレン)。顔を上げた途端とたんひとこと、


「あらかわいらしい」


 ともらして玲萌(レモ)に、


「しーっ」


 と合図される。人差し指を唇に押し当てる玲萌(レモ)に、


「どうしたんだ?」


 と尋ねる俺。それには答えず、


惠簾(エレン)ちゃん、ちょうどよかったわ! 話したいことがあったの」


「やはりそうなんですね! いま、彼らが重要な情報を得たからすぐにここへ行くようにっていうお告げが下りてきたんです。彼らって(たちばな)さまと玲萌(レモ)さんかしら、でもならどうしてお師匠さまの部屋へ? と思っていたんですが」


 わけを話す惠簾(エレン)。便利すぎだろ、ご神託。


 俺と玲萌(レモ)の説明を聞き終えた惠簾(エレン)は、


「わたくしも昨夜、兄さまたちに過去の封印儀式を知る方法はないのかうかがいました」


 惠簾(エレン)、兄貴が複数いたのか。しとやかに見えるのに強いのはそのせいか?


「わたくしたちの先祖であるめぐみ御前ごぜんがおこなった七日七晩の祈祷について、少しでも知りたかったのですが――」


 土蜘蛛を封印した巫女はめぐみ御前ごぜんといったのか。もしかしたら惠簾(エレン)の名前は彼女にちなんでいるのかな。


「日常的に学んだり参考にしたりしていた書物はくらに入れていなかったから、戦乱の世に燃えてしまった――」


惠簾(エレン)ちゃんち、商家しょうかでもないのに蔵なんてあるの?」


宝物ほうもつ収蔵庫として使っているのです。かつては信仰のあつい方々がさまざまな宝物たからものを奉納してくださったそうでして。そんなうらやましい時代があったとは」


 惠簾(エレン)はため息をついた。


「じゃあ結局、封印術を取り戻すのは不可能ってぇわけか?」


 俺の質問に、


「そのようです。が、蔵の入り口につるされていた『宝物殿目録』なら残っていたのです。祈祷方法は書かれていませんが、なにか参考になる情報はないかと土蜘蛛が倒されたころの記録を父と読んでみました。そうしたら――」


 そこで惠簾(エレン)は言葉を区切ると、心を落ち着けるように深呼吸した。


「『雲斬クモキリ、土蜘蛛ヲ斬リシツルギ』という一文をみつけたのです」


「でかしたっ!」


 とさけんで玲萌(レモ)が立ち上がった。


 俺も興奮がおさえきれない。「高山神社の宝物殿に雲斬くもぎりが眠ってるってぇわけか」 


「目録にしるされていただけですから! これから探しませんと――」


 焦る惠簾(エレン)に、


「俺にまかしとけって! 神剣ならきっと特別な気をはなってるはずさ。魔力がえるこの第三の瞳ですぐにみつけてやらぁ!」


 と、胸に手を当てる。


「ほほーう、第三の瞳ですか。(たちばな)くんの身体はいろいろと多機能ですねぇ」


 うしろから聞こえる師匠の声。しまった、この人には教えてなかったんだ…… 恐る恐る振り返ると、いつもと変わらぬ笑みを絶やさぬ師匠。


(たちばな)くんが神剣を探しておいてくれると私も学院長も安心です。それで惠簾(エレン)さん、『宝物殿目録』にっている物品は、ほぼ確実に宝物殿に保管されていると考えてよろしいわけですね?」


「はい、理論的には―― ただなにぶん年代が古いものですから……」


 うなずいたものの、確信が持てないようで視線が宙を泳ぐ惠簾(エレン)


「目録には宝物殿内の正確な保管場所は記されていないのですか」


「ここ三百年ほどは蔵の中をイロハで区分けして、目録に場所をしるしているのですが――」


 また気まずそうにする惠簾(エレン)を、師匠の鷹揚おうような笑みが包み込んだ。


「では(たちばな)くんの魔力をる瞳が大活躍ですね」

ブックマークや評価を入れて下さる方、いつもありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ