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ホワイトデー


 てな事がほぼひと月前にありまして、お返し、お返しねぇ。


 ここはやっぱりご本人様のご意思が一番大事なところだろう。

 こっちが良かれと思って用意したサプライズプレゼントが、あっても困るようなものだったらあげたほうとしてもいかんともしがたい訳で。


 それなら最初から聞いてしまった方が、あっちは望みの物を、こっちは相手の喜ぶ姿と。双方ともに欲しい物が手に入るっていうなんて素晴らしき神考察。


 これは決して考えるのが面倒とか、下手なもの贈って怒られたくないから、とかでは決してない。

 そう、決してないのだ!


 と、念には念を押しておく。


 まぁそんな建前はどうでもいいとして。


「なっちゃん、なっちゃん、」


 移動教室の帰り道。廊下で都合よく見かけたなっちゃんの後ろ姿に声をかけて、ちょうどいいから希望を聞こうと呼び止める。

 ただ呼び止めただけなのだけれど、なっちゃんはお怒りの様子で見ための通りに声を荒げた。


「それ辞めて!」

「それ?」

「それ!」

「どれ?」

「それ!」

「それって?」


 ただ僕はなっちゃんと言葉遊びでもしたかっただけなのに、なっちゃんはもっとお怒りになられ、顔を真っ赤に染めて。


「なっちゃんって呼ぶの! あたしなっちゃんじゃないし!」 

「えぇー」


 めいいっぱい、力強くなっちゃんは叫ばれたけれど、それ、今更ですか? と僕は思うわけで。


「なんで? おっちゃんは嫌だろうから、幼馴染のなをとってなっちゃんにしたじゃん。これ以上ない配慮したじゃないさ」


 ぷくーと頬に空気をためて、かわい子ぶってどういうこったいと抗議しておくと、


「音葉のおとでいいじゃないの! だれがそんな配慮してって言ったのよ!」


 なんて、返されたものだから。

 あぁ、はいはい、分かりましたよ、音葉のおとちゃん、とご希望通りに返したら、また怒られて。


「もぅ。わがまま何だから。そんな子に育てた覚えはありません!」


 きりっと、めっと、腰に左手を当て、右手は人差し指だけぴんと立てるのが僕の美学でございます。


「己はおかんか」

「んー性別的にはおとんだろうけど、悩みますねぇ」


 のほほんと頬に手を当てて悩んでみせよう。


 うーむ。


 なんて思考をしていると、ため息をなっちゃん……おっと、音ちゃんに吐かれてしまい。


「それで? 何の用よ」


 そこでようやく本題を思い出す僕でありました。


「ほら、この前真っ赤な顔した」

「おい」

「うん?」

「余計なことは言わなくていいから」


 よく分からないけれど、注文が多いなぁ。とぼやきながらも先を進めましょう。


「音ちゃんからチョコ貰ったでしょう?」

「あげたわね」

「それでお返し、何がいい?」


 ストレートに聞いてみたところ、何でもいいと。

 何でもいいといいやがりましたよ、この子。


 それが一番困るんだって、お母さん何回言った事か!

 それでアレでしょ? いざ出したらえぇー? あれとか、あれが良かった! とか言うんでしょ?

 じゃあ初めっから言っときなさい!

 

 と、僕の中でイマジナリーおかんが爆発中です。


「ほ、ん、と、だ、な、」


 ぎりぎりと圧力をかけて、念を押しておきましょう。言い逃れはできないように。

 すると音ちゃんは怯みながらも、しっかりと頷いてくれたので、そうか分かった。覚悟しておけよ、と別れたのが先週の話。



 そしてホワイトデー当日、お昼を過ぎて、三時のおやつも少し過ぎたころ。

 今現在、僕は音ちゃんちの台所に立っている。


 我が家から歩いて二分かかるかかからないか、という所にある音ちゃんちに三時少し過ぎたころにお邪魔させていただいて。


 音ちゃんのお母さんに、


 お姉さんこんにちはー、ちょっと台所お借りしますねー。

 はいどうぞー。好きに使ってちょうだいねー。


 とつーかーの仲で快くご快諾いただいて。勝手知ったる音ちゃんち。

 ちゃんと手を洗って、お邪魔させていただくお詫びにと昨日の内に家で作ってきた三時のおやつのホットビスケットを少し温めなおし、お姉さんにお出しする。

 お好みでおかけくださいと、メープルシロップを添えて。


「んー、流石。やっぱり美味しい」


 事前連絡の結果、三時過ぎでも待ってるわと言ってくださったご期待に、応えられたと分かる満面の笑みでお褒め下さるマダムに気をよくさせていただきながら。


「さてさて」


 邪魔にならないように、腕をきちんとこうがーっと押し上げるのではなく、きちんと袖を折りたたんであげて。


 いざ、夕食の準備に参らん!



***



 ということで。


「音ちゃん、どうぞ召し上がれ」

「どういう事?」


 友達と放課後遊んできたーという音ちゃんに、おかえりーと返事を返してあんたなんでいんのよと、いぶかしげに眉を寄せ僕を見てくる音ちゃんに、今回の意図をご説明いたしましょう。


「音ちゃんがバレンタインのお返し何でも良いって言ったから。三倍返しをさせていただきました」


 古来からの掟に従い、バレンタインへのお返しは三倍返しでございます。

 それによってホワイトデーである今日この頃、ちょうど音パパもお帰りになられた、ただいま夕飯時。


 今年は月曜日だからして、学校の行く前の朝はちょっとご遠慮させていただき、お昼も同様に学校にいる関係上不可能であるからして。

 一番の現実的である学校が終わった放課後、時は三時を少し過ぎたころ。

 晩御飯の準備にお邪魔したのである。


「まず一つ、用力としてスーパーへ買い物に行き、レシピを考えて、調理する。これでチョコを買うという行動分」

「そして二つ目、材料費はきっちりチョコレートの三倍分のお値段に抑えまして」

「最後に一つ。いつもお世話になっている音ママと音パパと、音ちゃんの三人分へのプレゼントという事で」


「ホワイトデーの三倍返しでございます。いかがでしょう?」


 可愛く首をかしげて見たところ、パパさんママさんは大喜びしてくださって、音ちゃんは少し不満げ。


 もーしょうがないなぁ、と分かっていたことだったので特別だよと、音ちゃんにだけもう一皿追加する。


「はい、音ちゃんの好きな紅茶のドーナッツ」


 昔から音ちゃんが気に入ってくれている、手作りドーナッツを差し上げた。


 すると、あれまぁ。


 音ちゃんは、純真無垢に可愛く笑って喜んでくれました。


 これだから、料理するのが好きになるってものなのだ、と。

 趣味を料理にした切っ掛けである音ちゃんの笑顔にこっそり見惚れて。


 将来、壊滅的に家事ができない音ちゃんの代わりにお家の事は任せてもらう気バリバリで。


 下心ばりばりに、音ママと仲良くさせていただいております、気持ちもたっぷり三倍返しの今日この頃今年のホワイトデーなのでありました。



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