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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第三章 神罰の雷《いかづち》
92/95

(92)行商

暗躍する人達

 王国の西部耕作地帯に在るちっぽけな村コルハ。

 そこに住む農夫の男は、村の一角に停められた馬車を頻りに覗き込んでは首を振った。

 五年前からこの辺りを巡回する様になった馴染みの行商は、他の行商が塩や魔石を売りに来るのとは違って、主に水飴を、それ以外にもこの辺りでは獲れる筈の無い魚介類の類を扱っている。

 今日も獲れたてに見える魚が鎮座して、虫除けに団扇で扇がれているから、時々思い出した様に気になってしまうのだ。


「おう、そんなに気になんなら、一つ買ってくかい?」

「いやぁ、買ってくって言っても、麦八杯はなぁ。祝い事でも有れば別だがなぁ」

「じゃ、いつも通り水飴だけかい。ああ、勿体ねぇ。魚なんてこんな所じゃ食えんのによぉ」

「じゃあ、あたいが買うよ! 序でに、その小鍋も付けとくれ」

「小鍋は高いぜ? 麦二十杯の合わせて二十八杯、二十五杯におまけしてやらぁ!」

「ま、男前!」


 言ってみれば嗜好品で、それが麦との物々交換で手に入るのは有り難い。水飴も初めはちびちび舐めていたが、肉に塗って焼くのを教えられてからはちょっとそれに嵌まってしまった。


「そう言やさ、うちの娘が言われた通り土を捏ねて造った像に祈ったらさ、教会にも行かないのに十二歳の祝福を貰っちゃったよ。でも、何の祝福を貰ったんだろうねぇ? パンを美味しく焼けそうとしか言わないのさね」

「お? そんなら俺が見てやろうか? 行商人だからな、鑑定はお手の物だぜ?」

「え!? 本当にかい? ちょっと待っておくれ!」


 それに、この行商はこういった有用な情報も持って来てくれる。


「なぁ、この前言ってたが、教会も十二歳の祝福では本当なら金を取らないってのは確かなのか?」

「あ~、この辺りだと教会が在るのはホリストの町だっけか? 祝福一回二千マルってのは業突く張りも酷いもんだ。だが本当だぜ? 他の教会なら一人一人に祝福なんて面倒な事もしないな。子供らを詰め込んで、一遍に祈らせてお終いさ」

「……俺も自分で捏ねた像で構わないと知ってればなぁ」

「あ、何だ? もしかして金が掛かると聞いて諦めた口か? なら、今からでも祈ってみろよ。十二歳以上ってだけで、十二歳じゃ無いと駄目なんて決まりはねぇんだからよ」

「え……まじか!?」


 行商の言葉に反応したのは、その男だけでは無かった。

 行商は少し声を潜めて告げる。


「此処だけの話だがよ、教会の言ってんのは全部嘘っぱちだぜ? 教会の奴らは職業の祝福を与えてくれるのも聖神ラーオだとか言ってるがな、俺が聞いた所には本当は職能の神エリーン様らしいぜ? 教会じゃあラーオ様にと祈るんじゃ無く職業の神にと祈れと言われるらしいけどよ、エリーン様は職業の神と祈ってもエリーン様と祈ってもどちらでもちゃんと祝福をくれるらしいわ。

 あんたらも祝福がまだならエリーン様に祈って見たらどうだい。別嬪さんの女神様らしいぜ?」


 集まっていた村人達は、ぶんぶんと首を振って頷いた。


「それとよ、流石に大嘘つきの教会に釘を刺そうってんで、本当の神様にお願いしようってな話が出て来てんだ。教会の奴らに知られたら大事になるから内緒だぜ? まぁ、一人二人で祈っても何も起きんだろうが、皆で祈れば何か起こんだろうってなもんだな。その日の朝には音玉を喧しく空に打ち上げる予定だから、そんな音が聞こえてきた日にはちょっと試してくれや。

 まずはな、太陽の神ララィラーラ様に、これからの祈りで起こす事に力を貸してくれる様に祈りを捧げんだ。ララィラーラ様は太陽が一番高く昇った時にしか祈りを受けてくれんらしいから間違えんなよ? 捧げ物に太陽の様に丸い物を望むらしいわ。

 その次に祈るのが水の神スイラ様だ。もくもくと湧き起こる雷雲を創ってくれと祈るんだ。悪い事をしている教会の偉いさんに雷を落とす為の雲だな。知ってるか? 教会がやる神問裁判ってな、教会の中に雷を落とす仕掛けを作って神様なんて関係ねぇって噂があるんだぜ? ま、音玉を鳴らす時ってのは、それが噂じゃないって分かった時だな。綺麗な水を捧げ物にするのがいいらしいぜ。

 そして次に商売の神シムビス様に祈りを捧げる。商売の神ってのは正しい商いを見守ってっからな。神様を騙る詐欺師に罰を与える為に、そういう奴らを見分けてくれって祈るんだ。シムビス様に捧げるのは自分で造った道具だとかの売り物だ。ま、商売の神だからな。

 最後に雷の神ディーン様だな。商売の神シムビス様が見付けた悪い奴らに、その悪い分だけの雷を落としてくれって祈るんだ。捧げ物は――良く分からんが、茸料理がいいらしい。好きなのかね? 間違っても毒茸なんて混ぜるなよ?

 まぁ、今言った事はここに絵にも描いといた。茸もな、無いかも知れんからこれをやるわ。

 音玉が鳴った日だ。間違えんなよ?」


 始めて見せる行商のそんな様子に息を飲みながらも、その日、村人達は集まって、村の小さな女の子監修の泥人形に祈りを捧げた。

 そして行商の言葉通りに祝福を得る。

 感動が冷めやらぬ内に、その三日後の朝、遠くから音玉の音が鳴り響いてきた。

 村人達は頷いて、丸い饅頭や、井戸から汲み上げてきた綺麗な水、自作の草鞋に、幾つかの茸料理の用意を始めるのだった。

 只、黙々と。

麦を買う→麦で水飴を作る→売る 永久機関完成

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