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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第三章 神罰の雷《いかづち》
90/95

(90)後始末

 エレ! エレ!

 事件と言うか作戦の三日後だ。

 領館の大会議室には、西都リンシャのゴリュウお爺様みたいな、どういう関わり方をしたのか私が詳しく知らない人も含めて、殆どの関係者が集まっていた。


「――アルカネン大司教は持ち直したか。どちらでも構わないけれど、生きていた方が交渉の幅も広がるね。孫に妙な物を背負わさずにも済むよ」


 爽やかにゴリュウお爺様が言うけれど、元から面倒な物を背負うつもりなんて無い。


「こんな事で一々何かを背負ってたら、探索者なんて出来無いよ?」

「ははは、そうかも知れないね」


 と、ゴリュウお爺様は王都方面への関所を管理しているのも関係しているのか、王都との関わりが気になる模様。


「しかし、教会騎士達の扱いが面倒だな。今回は正面から当たらずに済んだが、位階五十の教会騎士が十二となっては、いつまでも抑えておけるものでは無い」

「こちらで持て余しているのでしたら、侯爵様にお伺いしても構いませぬが」

「いや、それをすると話が大きく成り過ぎる。出来れば彼ら自身で大人しく帰って欲しいんだがな」


 お父様とジーゴさん、それからネイサン叔父様は、教会騎士が今も留まっているのに頭を抱えている。下手にグリムフィードの騎士に力が有る事は見せられず、だからと言って無罪放免とするのは怖い。

 あの時一糸乱れず教会騎士達を捕縛したのは領民の事を思えばこそと言えても、牢に入れるのも憚られれば、何も無しでは済まされない。

 出来れば一刻も早く帰って欲しいというのが本音だった。


 幸い、聖神ラーオか或いは他の真実の神かに目を付けられたという教会騎士達に取っての真実が、今は教会騎士達を混乱させ、また大人しくさせている。

 それ故にグリムフィードの騎士を監視に付けての出歩きも認めているが、結局の所、居るだけでグリムフィードの負担になっている。


「峠は越えたと言ってもまだ意識も戻らんが、アルカネン大司教を奴らの護衛で送り返すか。グリムフィードの冬は御山からの吹き下ろしで厳しいと伝えれば嘘では無いだろう」

「山越えなどとても出来ぬと居座られそうで、憂鬱ですなぁ」


 溜め息の深さと比例するかの様に、深い悩みが此処に有る。


 そして王都教会勢が残る事で、グリムフィードでの教会改革も進まない。今回の事でメリカルド司祭の性質がそこまで悪い物では無いと判明した為、グリムフィード領側へ取り込む事も考えていた。勿論聖神ラーオを祀る教会としてでは無く、太陽神ララィラーラ様を筆頭とした神々を祀る神殿としての再出発だが。

 それをメリカルド司祭が望まなければ王都へ帰す事も含め、諸々考えていた事の動きが取れない。

 更に言うならば、同じく王都教会勢が居るが為に、腹を割っての領民達への説明も出来ていない。

 頭が痛い話である。


 実際に私が聞いてきた範囲でも、領民の不満が高まってきている。


「街の様子を見てきたけど、ショーの格好でもう彷徨けないね。悲劇の英雄に祭り上げられちゃってたよ。どうとでもあしらえる自信が有ったなんて王都の人達が居る間はまだ言えないし。私への心配からなんだろうけど、不満を募らせてるみたいだから、早く王都に帰って欲しいよね」

「ああ、上の方の探索者は多少は察しているがな。それ以外は好き勝手に想像してその内暴走しそうだ」

「ショー君があっけらかんと出歩いてたから気持ちを収めた子達も居るけどねぇ、逆に余計な事をしたとショー君を見付け次第とっちめようとしている人達も居るよぉ?」

「へ? 何でそんな事になるの?」

「気にしない、気にしな~い。ショー君の活躍を妬んだり嫉んだりに忙しい人達には、ショー君が捕まったのが失態にでも見えたんじゃない? 自分勝手に都合良く解釈して、今ならいちゃもん付けて叩けるとでも考えてんのね。質の悪い探索者が浮き彫りになって、すっごい助かってる♪」

「……プルーフィアのままお出掛けした方がいいっぽいね」


 アロンド叔父様とエルザさんから探索者ギルドでの様子を聞くと、ここでも説明がされていないで、勝手な想像を膨らませている人達が居るみたいだ。

 因みに、殆どの人が集まっていると言っても、イサナさんは隠された港の責任者だし、オルカスさんやザメルさんはアロンド叔父様達が会議に出ている間の代理として探索者ギルドに控えている。


「ふふ、それにしてもプルーフィアが三日も居着くなんて久し振りね。ユイリもロジアもたっぷり遊んで貰ってご機嫌よ?」

「流石に今は館を離れられないでしょ? 皆来るから、寧ろダンジョンに潜ってる時よりも忙しいよ」


 お母様がこんな雑談を口にし始めたら、もう会議も終盤の合図だ。

 結局王都勢が帰ってくれないと動くに動けない事が分かった。

 そしてグリムフィードでの話題が終われば、協力してくれているアクトー侯爵の状況の確認になる。


「それにしても、予想を外さず魔導具が出て来たな。雷属性のレベル十一魔石が詰め込まれていたからには、教会は雷のダンジョンを秘匿しているって事か。流石に俺達で確保しても手に負えないから、アクトー侯爵様に引き受けて貰えるのは助かるぜ」

「いえ、構いませんよ。寧ろあれは侯爵様こそが待ち望まれていた物ですから。寧ろグリムフィードだけで対処しようとしたなら、乗り込んで来てでも介入しようとしたでしょうな」

「魔導具だけでは無いぞ? これから後の教会との交渉は全て任せてしまっている。尤もそこは甘えてしまっても良いところだとは分かっているが、ダイカン殿には借りばかり増えていくな」

「くっくっくっ、恐らくは侯爵様の方でもグリムフィードへの借りばかりが増えていると思っているでしょうな。神々の真実に始まり、ダンジョンでの訓練に、教会の魔導具。何れも侯爵様を悩ませていた問題を解決する、切り札と成り得る物ばかりです。

 ここまでお膳立てをされて、それ以上もと言われては、侯爵様の立つ瀬が有りませぬ」


 ジーゴの言葉に笑いが零れるが、その視線がどれも私に向いている。


「私じゃ無いよ!? 私は全部大人に任せて、遊んでただけなんだから」


 その私の言葉にも、笑い声が響くのだった。


「その魔導具も明日には港に着くとなると、兎に角これで教会の事を除けば、グリムフィードとして残っているのは防衛を固めるのみか」

「そうですな。後々の事を考えれば騎士は全員位階を七十以上まで上げるなどした方が良いでしょう。

 グリムフィードの至宝はダンジョンです。百階層迄在るダンジョンを擁していると知れれば、それだけで王都の横槍が入る可能性は十分に有りますからな。何処よりも強い騎士団は王都に在らねばならぬと考える者は数多く居ましょう」

「ははは、そんな話が出た時には、魔境を開拓し位階百の勇士を抱えるグリムフィードを敵に回すつもりか聞いてみる事にしよう」


 お父様は冗談のように言っているが、もしもそんな事態になれば私も出陣は吝かでは無い。

 でも、今はまだその時を、上手く想像出来なかった。


「おや? そろそろお昼のようですな。

 おっと、そう言えばお嬢様へとお預かりしていた手紙が有るのでした。

 ――どうぞ、こちらを」

「え? 私? 侯爵様から?」


 ジーゴさんが渡してくれた手紙の封を開けて中身を取り出す。

 数枚の便箋にざっと目を通す。

 頭に入って来ない。

 もう一度しっかり読む。

 書いていたのはどうにも強引な力業だ。


「――ええっ!?」


 多分驚愕の表情を顔に貼り付けて椅子から立ち上がった私は、会議テーブルにお腹を打った。

 痛い。

 倒れそうになった椅子はジーゴさんが確保している。

 つまり、ジーゴさんは知っていたんだと、信じられない思いで目を向けたけれど、それよりも先に確かめないとと、私は廊下に飛び出て東側の窓へと駆け寄った。


 窓から見える東の空は、丸で空に直線を引いた様に奥と手前で二分されて、その奥側には真っ黒な雷雲が湧き上がっていたのである。

 完結してから一気に読み返した時の印象とか、どんな風になってしまってるんだろ。

 そういうの、まだやってないのですよ。

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