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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第一章 神の名前と祈りの作法
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(9)熱が下がって

第一部 王国記篇  第一章 神の名前と祈りの作法

 お母様との和解から十日が過ぎて、気が付けばお母様が旧礼拝堂の使用許可を取り付けてくれていた。

 そして、何処まで気が早いのかと思うけれど、今日から荷物の運び出しが始められている。

 その様子を、旧礼拝堂の入り口が見える場所で体を揺らしながら見ていると、荷物を運んでいるメイドやボーイが(にこ)やかに笑顔を見せてから、代わりに倉庫となる空き部屋へと運んでいく。

 お母様に笑顔が戻ってから、館の使用人達も何処か明るかった。


「がらくたばっかりね?」

「入り口が狭いし、余り良い保管場所でも無かったからな。何か欲しい物が有っても、後にしてくれな!」


 そんな中で、ちょっと気になる物が見えた気がして近寄ってみたけれど、元気のいいボーイににべも無く断られた。

 仕方が無いから、彼らの仕事振りを見ながら、ちょっと思いを巡らせてみよう。



 私の思考を千々に乱れさせた熱は、丁度十日目の日にすっと治まった。

 それはもう、何十何百のプルーフィアや赤石祥子が、てんでばらばらに私の中で騒いでいたのが、或る時を境にしてすんなり一つに統合された様な感じで。

 でもその時の割合が、どうやら赤石祥子が二十に対してプルーフィアが五程度だったのか、頭の中で考える時の言葉が前世寄りになっている。

 具体的に言うなら、前世の言葉と今世の言葉がちゃんぽんされて、何処とも付かない言葉に成っている。

 確か昔、そんな芸人が居た。横文字を多用する大袈裟なリアクションの芸人が。

 でも、よくよく考えると、私が死ぬ前の頃の日本は何処も彼所も横文字だらけで、辞書を引かないと何を言いたいのかも分からない事が良く有った。

 逆に言えばそれだけ外国語に寛容な言語だったから、今のちゃんぽんな状態でも混乱せずに済んでいるのだろう。

 そういう言語的な事を除けば、例えば「だわ」とか、そんな言葉遣いが内面からは無くなって、性差が無い、或いはこの世界だと男言葉にも聞こえるかも知れない思考になっている感じだ。


 基本はプルーフィアだと思うんだけどね。と言うよりも、私が生まれる前の記憶を辿って赤石祥子に行き着いた様に、今と地続きの昔に赤石祥子が居るだけで現在の私がプルーフィアなのは確かだ。

 でも、もしかしたら長い記憶喪失に掛かっていた人が、昔の記憶を取り戻したなら、こんな感じにも成るのかも知れないとは思う。


 メタな言い方をすれば、賢くてニューゲーム状態。でも、これは余り良い状態でも無い。

 五歳児的に言うなら、挑戦心や好奇心の芽が育つ前に摘み取られている様な気がして、発達的に宜しく無い様な気がする。

 だから私は、挑戦心や好奇心を、前世のOL的には遣り過ぎなくらいに発揮して、全力でこの世界と向き合わなければならない。

 それが私の課題だ。


 尤も、魔法の有る世界だから、そこまで気負う必要も無いのかも知れないけどね。

 魂との合一を果たした私だからか、気が付けば前とは比べ物にならない程滑らかに魔力を動かす事が出来ている。

 多分魂の分だけ魔量も増えているだろう。

 親魔率は魂との合一の割合だから、これだってきっと高い。

 総じて言えば、私はこの剣と魔法の世界に於いて、五歳にしてかなりの魔法の才能を手に入れた。

 大人だった私の記憶を持ってしまっているからって、これでわくわくしない方がどうかしてる。

 いや、寧ろ創作に溢れていた前世だからこそ、今わくわくが溢れている様な気がする。


 そんな事を思ってむにむにと口元を緩めていると、メイド達から微笑まれてしまった。

 不覚だ。


 ただ、そんな風に思い掛けない幸運により魔術師として得難い才能を得たとしても、「王国記」で語られた王国の状況を考えると、私の未来は楽観出来ない。

 一番有り得そうな未来として、戦争が起きるだろう。

 内戦か、もしくは独立戦争か。

 王都の状況を考えると、聖神ラーオを否定しているというそれだけで、制圧部隊が寄越されかねないと思うから。


 グリムフィード領はかなり奥まった場所に在るけれど、それは戦争となった時に逃げ場が無いという事だ。

 私がこの世界で生き残る事を考えるなら、きっとこれを何とかしないと何処かで詰んでしまうだろう。


 そうと分かれば考えよう。お母様と和解した時の様に。

 深く深く考えてそれで選んだ道ならば、きっと後悔も少ないのだから。



 そう思いながら始めた思索だったけれど、グリムフィード領の未来は中々厳しそうだ。

 まずは前提として現状を纏めてみる。


 王国の上層部は教会派が牛耳っていて、教会に逆らうだけでも神敵にされかねない。

 グリムフィード伯爵である父イルカサルの寄親アクトー侯爵は、急進的な教会排斥派。

 父イルカサルがアクトー侯爵と袂を分かち、教会派に擦り寄るのは有り得ないし、それをしても多分教会派から見下され続けるのは変わらないと思うから、心情的にも嫌。


 流石に政治的な事は分からないけれど、粛清の標的とされかねない条件は整っている。

 教会の失態だとかで勢力を削ぐ事も出来るかも知れないけれど、戦争は起こるとして準備を進めておくのが無難だ。


 王国騎士団は精強だ。それこそ並の武芸者が歯が立たないくらいに。何故なら王都の騎士団は、騎士団専用のダンジョンで訓練をしているから。

 王都の学園生も、かなり強い筈だ。何故なら学園の単位に学園ダンジョンの踏破が含まれているから。

 グリムフィード侯爵領も魔境に隣接しているから、同じ様にダンジョンで兵の訓練が出来る筈だけれど、今どうしているのか私は知らない。


 そう、ダンジョンだ。この世界にはダンジョンが有る。

 そして原作を読み込む程に、どうやらこの世界で強くなりたいと思うなら、ダンジョンこそがその鍵だった。

 コンセプトから何か外れていく。

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