(89)大神問の儀
アクションの無いクライマックス擬き。
でもその前に、既に観衆達の中に紛れていたお父様達の出番だ。
「待て! 狼藉は許さんぞ!!」
ただ、初めの段取り通りとは言え、今となってはそれは悪手。
私はスイラ様から頂いた祝福の思念波で、お父様と念話を繋ぐ。
――大司教、魔術師、本物。
余り多くの言葉はまだ伝えられない。
それでもお父様は諒解し、矛の向かう先を改めてくれたから、私はほっと息を吐いた。
魔術師がその気になれば、此処に居る観衆全員が人質だ。
怒り狂った大司教が衝動的に手を出す事も無いとは言えず、それが何よりも怖ろしかった。
「私はグリムフィード領主のイルカサルだ。大司教との事だが、私の下へそんな知らせは来ておらぬ。身の保証を示す物を見せて貰いたい。
グリムフィードと教会との微妙な関係は存じているだろう。身分の保証も無い者に引っ掻き回されるのは絶対に避けねばならぬのだ」
そんなお父様を見下し鼻で嗤う大司教。
執拗にぐるぐる巻きの蓑虫にされて運ばれて行く私。
そんな私は一旦教会の中に在るピラミッドの下に放置されたけれど、何が起きているかは監視の鳥が伝えてくれる。
召し使いが持って来た手紙が一旦大司教の手に渡り、再び召し使いを介してお父様に渡される。
「ば……馬鹿な!? これでは元からあの子を罪人と決め付けて、処刑しに来た様な物では無いか!!」
「現地に着いて善く善く聞いてみれば、子供の愚かな思い違いと慈悲を見せてはみたものの、そんな価値も無い悪童の極み。聖神を畏れぬ者には聖神の御力で思い知らせるしか無かろう」
「馬鹿な! あの子は疑問を呈しただけだ! 教会と名乗るならば、教えで諭すべきでは無いか!!」
「うむ、聖神ラーオ様の御力で分からせるのだ。――くっくっくっ……」
そんな会話が続いている間にも、私は蓑虫ムーブで必死に逃げる。そうで無いと不自然だから。
でも敢え無く捕まって、私はピラミッドの頂点へと運ばれた。
教会の入り口から入ってくる大司教と、お父様の会話が続いている。
そしてその後に続いて、グリムフィード領の騎士達が、更には見せしめに公開でも決めたのか見守っていた街の住人達もが入って来た。
「――何のつもりかな? 騎士など入れて、儀式の邪魔をすると言うなら、それは聖教会への叛逆と受け取るが。其方にとっては面白く無い事になるだろうの」
「ぐ……それは……しない。だが、雷を受けてもあの子が生きていたなら、それが神の思し召しだ! 救助に駆け付けるのを邪魔立てなどはするまいな!」
「ふむ、良かろう。それは確かに聖神ラーオ様の思し召し。神問の結果が全てよの」
私がこの茶番の協力者を挙げるとするなら、この大司教を一番に推すだろう。
自分で勝手に罠の真ん中まで歩いて来てくれるのだ。
そしてその危うさに気が付かない教会騎士達。
格下の田舎者と思って舐めているが故の油断だ。
或いは王都のダンジョンが、管理ダンジョンの様に素直な性質の物ばかりで、搦め手には縁が無かったのかも知れないが。
そして私には容赦をするつもりが欠片も無い。
彼らの様な人達を擁護する時に出る言葉。愚かだけど頑張っている、詐欺みたいだとしても頑張っている、懸命に頑張っている、というその頑張っているは、願望で在って現実を見ていない。もっと言うなら、愚か者が懸命に詐欺行為を頑張っているのだから、救い様が無い。
「口枷は取ってやるが良い。喋る事が出来無ければ命乞いも出来無かろう」
私の左足に足枷を着けて、それを鎖でピラミッド頂点に設けられた鉄輪と繋げていた教会騎士が、大司教の言葉に私の口を塞いでいたロープをずらす。
因みに足枷はがばがばで、布を詰めて誤魔化しているから、頑張れば足を引っこ抜けるかも知れない。
まぁ、しないけど。
折角口が利ける様にして貰ったのだから、何か皮肉でもと思ったけれど、その大司教が姿を消して見える範囲に居ない。
ピラミッドの上から教会騎士も引き上げた時、私にとっても予想外に、大司教は天井から吊り下がった籠の中に姿を現した。
正直、壁の中腹に設けられた演台みたいな所に現れるのかと思っていた。
でも、よくよく考えるとそれではピラミッドが邪魔になって、観衆から大司教の姿が見えない。
成る程と納得しつつも、パフォーマンスばかりの大司教にげんなりする。
「ふん、罪深き咎人よ! これより神問裁判を執り行う!! 立つが良い!」
偉そうに何か言っているけど、立ち上がる筈が無い。
「は? 何言ってんの? 雷を落とすと言われてんのに立つ訳無いよ? 神鳴りが鳴ったら体を低くして高い木には近付かないっていうのは常識だよ?
それより此処はそんな話とも違うじゃ無いか! 天井から伸びてきている針と、私が居るこの場所との間に火花が飛ぶのが目に見えてるよ! 冬場に金物を触った時にバチッと言うのと同じさ。これは罪人を裁く祭壇じゃ無くて、単に私の居る場所と針の間に火花を飛ばす仕掛けだよ!
だから私は寝転んで足枷を着けられた片足だけ上げてるんだよ! そうすれば落ちてきた雷はまず私の足に落ちて、それから直ぐに足枷を繋いでる鎖に流れるだろうからね! 私には雷は流れないって寸法さ!
こんな仕掛けを用意しないと何も出来無いラーオって何!? 寧ろラーオなんて神は居なくて、この針の根っこに雷の魔石が――」
「だ、黙れーーー!!!! 聖神ラーオ様の裁きを受けるが良い!!!!」
そして雷は落ちた。
天井から下りてる針の先端から、私が創ったイオンの道を通って、突き出された大司教の腕に雷は落ちた。
其処から更に大電流は、天井裏を伝って隠された雷の装置へと舞い戻る。
通常なら単なる電荷の移動で一瞬の筈の雷は、円環を為したが為に数秒継続し、天井から吊り下げられていた籠が焼き切れて落ちるまで続いた。
閃光が目を灼き、観衆達から悲鳴が上がった。
落下した籠を呆然と見ていた王都教会騎士の隊長が、顔を凶相に染め上げて、高々と跳び上がった。
「貴様ぁあああ!!! 何をしたぁあああ!!!」
空中で振り上げられていた剣に、天井の針から雷が落ちる。雷は其処で枝分かれして、待機していた王都の教会騎士達に落ちる。
お父様が声を張り上げる。
「雷に打たれた者共は全員罪人だ!! 捕縛しろ!! 教会の奴らもその仲間だ!! 容赦するな!!」
グリムフィード領の騎士達が動く。
それを私はピラミッドの上から、ずっと静かに見下ろしている。
アルカネンを存命にするかをちょっと迷っている。




