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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第三章 神罰の雷《いかづち》
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(88)説破!

 説破什麽生なのか、什麽生説破なのか。

 私は説破什麽生で憶えてました。

 説破で何でも言ってこいから始まる問答も有るんですかね?

 その人は、大司教という肩書きにしては、何て言うか普通の人に見えた。

 身形とかじゃ無くて、立ち姿とかが元騎士とも思えず、戦いを知らない人と感じた。

 きっとその感覚は間違っていなくて、お父様の予想通りに護衛を連れて位階を上げた人なのだろう。


 そしてもう一つ。

 多分魔術師だけど、練度が全然足りてない。

 位階を上げている分、魔量はそれなりだし、魔力もそこそこ強め。でもそれだけ。統魔力は全然っぽいし、そもそも親魔率が低そうだ。

 こうして私が探っているのにも気が付いて無い。


 これなら教会騎士達の方が怖いけれど、ありんこを弄ぶ幼児の様にコントロールが効いていないと思えばそれはそれで厄介だし、位階を上げていない民衆にとっては大虐殺だって出来る絶対強者だ。

 緩み掛けた気持ちを引き締め直す。表情には出さないけど。


 興奮した振りのまま、私は最後の詰めに入る。


「出て来たね! あなたが教会のお偉いさんなんだろ!? グリムフィードにはあなたが来ないといけない様な罪人なんて居やしないよ!!」


 先に来ていた教会騎士から経緯を聞く暇を与えないのが肝要だ。

 教会に断罪の為の魔導具が仕込まれているだろうという話が出て来ていたと知れれば、この後の展開が崩れてしまう。


「こんな田舎に見る物なんて無いんだから、早く王都に帰ったらいいよ! そうだよ、それがいいよ!!」


 畳み掛ける様に、そして相手からは取るに足らない小僧に見える様に振る舞う。

 直前で教導へと方針を切り替えたと聞いたから、これ以外の策を思い付けなかった。

 この大司教は、何も為さないままに王都へ帰るのを、恐らくは良しとしない。

 そして聞いた話から考えると、何らかの手柄を上げて王都に凱旋したいと思っている。

 目の前には愚かな小僧。言い込めるのは簡単だ。

 周りには田舎者とは雖も観衆は十分。

 今こそ大司教の威光を見せ付けてくれよう。

 そう考えてくれたなら勝機は有る。


 それでも方向性を微調整は必要だろうと思っていたけれど、この大司教、何も言わずとも期待に応えてくれたのである。


「ふむ、何を勘違いしているのか分からぬが、儂は此処の司祭では分からぬ秘蹟の深奥についてを伝えに寄らせてもろうただけよ。お前達も下がれ。まずは切っ掛けとなった子供と話をせねばと教会騎士を向かわせたが、何やら行き違いが有った様だの。

 王都聖教会のアルカネンだ。大司教の位に在る。

 大司教と話を出来る機会など孫の代に至ってもそうは無かろう。遠慮せずに聞きたい事を聞くが良い」


 吃驚する程に真正面から仕掛けた罠に踏み入って来たから、或いは罠と承知で逆に何かが仕掛けられているのではと疑ってしまったくらいだ。

 でも、罠だろうと何だろうと、こんな都合のいい展開は乗るしか無い。


 ならば什麽生! 甘い答えを返すなら、それが破滅を招くと知るがいい。

 私は下がった教会騎士達にほっと息を吐いた様子を見せながら、大司教に問い掛けた。


「祝福や治癒の奇跡を願うのに、ラーオ様に祈りを捧げてはいけないのはどうして?」

「聖神ラーオ様は王よりも較べる事も出来無い程に遥かに上の御方である。其方(そなた)はそんな聖神ラーオ様に名前で呼び掛けるのを不敬とは思わぬのか?」


「でも、普段はラーオ様って言ってるよね?」

「下々の間で話に上る分には構わぬよ。聖神ラーオ様の御慈悲だの。しかし、直接喚び掛ける時は別よ」


「じゃあ、私がラーオ様では無い職業の神様にと願っても、祝福を授かったのはどうして?」

「それよ。其方は怖ろしい事を招く所だったのだぞ? 聖神ラーオ様とは違う神に縋って、悪神の祝福を得てしまったなら何とする?」


「え!? それってラーオ様に匹敵する様な神様が他にも居るっていう事!?」

「――!? 滅多な事を申すでないわ!! 此の世に神は御座す聖神ラーオ様のみ! 他の神など存在せぬ!!

 ……其方が祝福されたその様子は、他と変わりが無かったと聞く。恐らくは聖神ラーオ様の御慈悲だったのであろう。聖神ラーオ様に善く善く感謝するが良い」


「ふ~ん……でも、ラーオ様にと祈っても応えてくれないのに、ラーオ様じゃ無いって祈ると応えてくれるのは、何だかおかしな感じがするよね」

「聖神ラーオ様の御心は徒人には推し量る事も難しいのであろうな」


「そう言えば、祝福も奇跡も教会でしか授かる事は出来無いの?」

「いや? 教会が貸し出している聖神ラーオ様の神像を聖堂に祀れるならば、其処も教会と同じく聖域となろう。司祭を招いて儀式を執り行う事も出来ような」


「聖域? 聖域って何?」

「聖域とは聖神ラーオ様の御力で満たされた聖なる領域の事よ」


 ちょっと沈黙。

 そして再開。


「じゃあ、話は変わるけど、聖神ラーオ様の奇跡って、罪人に雷を落とすとかいうのも聞いた事が有るけど、それも教会だけじゃ無くて聖堂でも構わないの?」

「いや、神問裁判は聖神ラーオ様の奇跡の中でも、多大なる御力を使われる大儀式だ。聖神ラーオ様の御力がより強く満たされている教会の中でしか行えぬ。それもより御力の強い祭壇で執り行われる事になるだろう。

 そんな機会に恵まれない方が幸せだろうが、聖神ラーオ様の偉大なる御力をその眼で見る事の出来る数少ない奇跡だの」


「裁きの雷を落とされるとどうなっちゃうの!?」

「見た目にはそれ程変わらぬかも知れぬが、罪人の体には聖神ラーオ様の御力が通り抜けた痕が残され、そして罪人が二度と目醒める事は無いな」


「神問裁判で罪科(つみとが)が無いってなったら何が起こるの?」

「――その時には何も起こらないであろうな」


「その時には罪を犯してなかったとして赦されるんだね?」

「その通りだ」


「神問裁判に教会のお偉いさんが来るのはどうして?」

「ふむ、先程も言うた通り、神問裁判は大儀式だからの。司祭では手に負えぬのよ。故に、神問裁判が執り行われる際には大司教を遣わすのだな」


「ん~? つまり纏めると、ラーオ様はその御力で満たした教会だとかの聖域の中でしか奇跡を起こせなくて、教会が無ければ何も出来無いって事でいい?

 でも、外に出れば嵐の日に真っ黒な雲から落ちてくる雷は一瞬で大木を真っ二つにした上で炭にしちゃうし、大岩にその雷が落ちれば簡単に砕くし、建物に落ちれば大穴を開けるよね? 今の話だと、それってラーオ様がした事じゃ無いって事だよね?

 それでラーオ様はラーオ様の力で満たした教会の中で、そんな雷をちょろっとだけ真似た雷擬きを落とせるだけで、しかも大司教とかの教会のお偉いさんの力を借りないとそれも出来無いって言うんなら、それって随分力の弱い神様に思えるけど。

 何だか聞いてると、人間と多少の遣り取りが出来るだけで大した力の無い大法螺吹きの神様擬きに騙されてるんじゃ無いかって心配になるね。自分の起こした奇跡じゃ無いのに、あれもこれも自分の力だって言い触らしてる感じ。

 そう考えると、祝福や奇跡を願うのにラーオ様の名前を出してはいけないのにも筋が通っちゃうよね。祝福も奇跡も授けてくれているのはラーオ様とは違う神様だから、ラーオ様に願ったって何も授からないけど、ラーオ様じゃ無い神様に願えばちゃんと授けてくれるんだよ。

 それでも教会の中で暮らしている人達にとっては十分なのかも知れないけど、殆ど教会の外で生きている私達がラーオ様に祈る意味って無いかな。だって、これが当たっていればラーオ様って嘘吐きの詐欺師だよ?

 それを確かめるのは簡単に出来るし。教会の外でラーオ様では無い神様に願って、祝福や奇跡を授かればそれはもう決まりだよね。そして治癒の奇跡を授かったっていう噂はもう聞いた事が有るから、殆ど決まりと言ってもいいよね?

 ねぇ、どう思う? 何かおかしい事言ってるかな?」


 さて、什麽生。


「…………こ、この!? 大人しく聞いておれば何たる不敬!! もう我慢出来ん!!

 即刻此奴を縛り上げろ! 神問裁判を執り行うっっ!!!」


 そして説破ならず。

 抵抗虚しく私は教会騎士達に捕まって、茶番は一転教会の中へと舞台を移す。

 説破するまでも無く穴だらけでお話に成らない様な物を出して来て什麽生! と言ったりだとか、説破するのでは無くのらりくらりと答えに成ってない妄言を繰り返したりするのは論外です。

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