(86)嵐の前の静けさ
思ってた展開にならぬ?
審判の日々の始まりは、思いの外に静かな立ち上がりだった。
と言うのも、王都教会からの一行が、峠の砦で一泊せずに、無理矢理二日で山を越えて来たからだ。
如何に豪奢な馬車が来たと言っても、とっぷり日が暮れた中なら住人達もそんな事には気付かない。
朝になってから、教会に停めてあるあの立派な馬車は何だろうねと、噂になるだけだ。
ただ、そんな一行の動向を全て承知の領主一同としては、苦い思いばかりが募る。
「結局、教会からは何の通達も無く大司教が到着したな」
既に朝を迎えた会議の席で、イルカサルはそう言い捨てた。
「好都合と言えば好都合だぜ? これで此方から訪ねる名目が出来た」
「つまり、私が捕まりそうになったのを見計らって、お父様達が登場するんだよね。――うん、いいと思うよ。ここ暫く下町に部屋を借りて姿を見せたりしておいたし。ちゃんと鳥を飛ばしてから、頑張って表通りまで逃げるよ」
「……頑張らないと逃げられないなら、役目を降りていいんだぞ?」
「あ、言い間違えた。頑張って逃げてる様にして、表通りまで誘導するね?」
既に昨日の内に街には監視網が敷かれていて、教会騎士が只の力自慢ならば到底その眼から逃れられない様に状況が調えられている。
「とは言え、いつ動くかが分からないがな。昨日の今日で働こうとする程に勤勉な奴らなのか、そこが全く分からん」
「時間はあたし達の味方だよぉ? 時間が過ぎる程に噂は広がるもんさぁ」
エルザさんも頼もしい。
実際に私も街で広められた噂を聞いた事が有るけれど、エルザさんが手配した人達は変装した騎士達とは違って、流石のさりげなさで街の噂を操っていた。
「今の所は待つしか無いな。交替しながら務めてくれ。プルーフィアが一番大変だが――」
「うん、大丈夫! どんなに静かにしていても、きっと森の魔獣より騒がしいから、寝てたって気付けるよ!」
街の住人は誰も知らぬままに、教会は既に静かな包囲網の内に在る。
「では、細心の注意を払い、作戦を開始しよう」
その言葉さえも静かに、お父様は宣言する。
~※~※~※~
その頃、教会の中ではアルカネン大司教が、食堂のテーブルで上座に座り、朝食を摂りながらメリカルド司祭と話をしていた。
「ふん、食事はまぁまぁだな。王都には遠く及ばぬが」
「御賞玩頂きまして身に余る光栄で御座います。まさか私の浅学の露れに、大司教様が直々にご教導の為いらして下さるとは。このメリカルド、感激に今も身が震えてございます」
メリカルドのその言葉を聞いて、アルカネンは認識の齟齬に気が付く。
昨晩は疲れのままに久方振りの湯浴みをして寝入ったから何も話せていないが、アルカネンは教導に来たのでは無く断罪の為にグリムフィード領くんだりまで出張って来たのだ。
メリカルド自身が場合によってはその断罪の対象となった可能性も有ったが、この様子ではもう一通有った告発の手紙は、田舎に飽き飽きした教会騎士の悪心が逸ったのだろう。
事実、アルカネンが着いてから百面相に忙しい、卑しい顔付きの騎士が一人居るのに、アルカネンは気が付いていた。
「間違うでは無い。儂が来たのは断罪の為よ。不心得者が居ると聞いて態々出向いたものだが、どうにも行き違いが有る様だの。
儂は貴様が聖神ラーオ様の御威光に疑いを持っていると聞いたのだがな?」
「め、滅相も有りません!! 私の全ては聖神ラーオ様に捧げております!!」
そしてメリカルドが慌てふためいて語った事情。
元々は祝福の儀で聖神ラーオ様に祈りを捧げて祝福を得られなかった子供に、メリカルドが祈りは職業の神に捧げるのだと教えたのに端を発する。
メリカルドの言葉を短絡的に捉えた子供は、そこで聖神ラーオ様では無い職業の神様に祝福を願い、そしてそれは受け入れられてしまった。
メリカルドはそれが聖神ラーオ様による奇跡と知っているから疑う事は無いが、聖神ラーオ様では無い職業の神様から祝福を得られたなら、職業の神は聖神ラーオ様では無かったと思うのも当然だ。
そして民衆は田舎司祭の言葉よりも、目の前で実際にみせられた神の奇跡を信じるものである。
「こうなると、私がどれだけ祝福が与えられたのは聖神ラーオ様の慈悲だと伝えても、私目の言葉には耳を傾けては貰えません。聖神ラーオ様に関わる事ですから私の適当な推測を述べる事も出来ず、聖教会のお知恵をお借りしようとした次第。
しかし話はこれだけに収まらず、ここ数日に分かった事では御座いますが、どうやら噂では現場に旅人や商人達も居たらしく、余所の領にも噂が広がっているらしいのです。
しかもどんどん話が膨らんで、治癒の奇跡でも聖神ラーオ様に祈りを捧げてはならないというのが、どういう訳か治癒の奇跡も聖神ラーオ様とは別の神からの施しではと噂されているのを聞きました。
これはとんでもない事になると思い、答えを催促する様で見苦しいとは思いつつも再び王都へ手紙を出そうとしていた所でしたが、そこへ大司教様がいらしてくれましたのはこれぞ聖神ラーオ様のお導き。私では同じ言葉の繰り返ししか出来ませんが、どうか大司教様のお知恵によってこの事態を鎮めて頂く事は出来ませんでしょうか。
伏してお願い申し上げます」
実際にメリカルドが語る経緯を聞いたアルカネンは、これは厄介な所に飛び込んでしまったと表情を消して考えた。
貧乏籤もいい所だ。
だがしかし、そこでアルカネンに欲が出て来てしまった。
只田舎の不心得者を断罪するのでは無く、騒乱の兆しを収めたというならば、それは名声にも繋がるだろう。
ふっ、と傲岸な笑みを浮かべて、アルカネンは告げる。
「それは確かに只の司祭には荷が重かろう。儂が来たのは幸運だったな。
そうよな。まずは切っ掛けとなったその子供を連れてくるが良い。この手の話は、既にその者から手が離れている様に思えても、切っ掛けとなった者が得心しているかが大きく係わって来るものよ」
「おお! 大司教様、誠に有り難う御座います!
既にその子供の住まいも突き止めております。探索者をしている都合上、留守にしているかも知れませぬが、必ずや今日明日の内に大司教様の前まで連れて参りましょう!」
「うむ――いや、話を聞いた限り、どうにもその子供は聖神ラーオ様への信心が薄い様だ。儂が連れて来た教会騎士を二人程連れて行け。また思い違いをされて取り逃がしては面倒だぞ?」
「確かに、確かに。此処の教会騎士にも手伝わせて、決して間違いは起こさせませんとも!」
~※~※~※~
当然この時、物陰には隠れ潜んだグリムフィードの騎士が居て、全ては領主の下へと知らされたのである。
PC壊れた。バッテリーがいかれたから、使い続けるのも怖くて、こんな時の為に確保していた新PC出して来たら、全く使わずとも6年が過ぎたPCだとこれもバッテリーが寿命だった(液漏れしてた)。バッテリー外せるタイプだったから、外してデスクトップみたいに使ってるけどさ、何故か画面が薄らセピア色で凄く目が疲れる。当時の最新鋭ゲームパソコンだったんだけどなぁ(結局PCでゲームしない事が分かったし、4万円の安物で充分と分かってしまったけど。キー配置とか右シフトキーが小さくて遣い辛いのなんの)。
で、新PC使える様になるまでに4日掛かってしまった。更新落とすところだったよ。
四日有ればやりたい事が有ったのに~、と思いつつ、なんとかラストまでペース落とさず頑張りたいところです。
ではでは~♪




