(85)動き
王都側の動きは想像で補って下さい(^^;)
祝福を受けて一月ばかりが過ぎたその日、私は珍しくお父様達の会合に呼ばれた。
「王都の教会が見事に釣れたらしいぞ。馬車が三台の騎士が十二名に召し使い付きで大司教が来る」
そこで聞かされた情報に呆けると、呆れた顔を向けられた。
「え!? どうしてそんな事が分かるの? 王都までは一ヶ月掛かるのに」
「……ルーナ様が手紙を配達してくれるというのは、プルーフィアが教えてくれたのでは無かったか? ダイカン殿の部下が知らせてくれたのだよ」
「あ! ――諜報に使われると、ルーナ様の御力って怖いね。う~ん……余りそういうのにルーナ様が協力してくれる様には思えなかったんだけど」
「それは儂にも分かりませぬが、神々もこの現状を憂いているのかも知れませんな」
ジーゴさんの言葉を聞いて、確かに今の教会は神々の意に添う物では無いだろうと考える。
それでも納得出来ない気持ちを感じていたら、
「もしかしたら、お嬢様が関わるからこそ、神々の協力を得られているのやも知れませんな」
それは――うん、それぐらいの融通を利かせてくれそうな程には、この七年、神々に祈りを捧げてきたとは思う。
「何れにせよ、六人居る大司教の一人が来るのは確定だ。馬車が三台ならどれだけ急いでも二十日は掛かるだろう。連れている騎士も十二と少ない。
私は今でもプルーフィアが囮をするのには反対だが、結局誰も追い付けなかったからな。魔術師かも知れない大司教を抑えられるのは、同じ魔術師のプルーフィア以外には居ないと痛い程に理解している。
……只、もしもその大司教がプルーフィアだったなら、一月も掛けて馬車で来るなどとても想像が出来ん。そんな時間が有るならば、鍛錬に費やしているだろうからな。
だから私はその大司教とやらの実力は、大した物では無いのではと予想している。私達が護衛を連れてスピンボール・ルーレットの六十階層に籠もった様に、自らは戦う事無く位階だけは上げてきたのでは無いかとな。
ならば私達で如何様にもフォロー出来る。プルーフィアはプルーフィアの思う通りに動いてみなさい。何が有っても、私達で後の事は引き受けよう」
そしてお父様のこの言葉だ。
私は不覚にも涙を溢してしまった。
ほわほわと胸が温まるのを感じながら、何度も頷きを返した。
話が通じなかったお父様が、今は確かに私を見て、そして認めてくれている。
遊び倒していたというのも一面だけれど、領の未来を考えて只管に鍛練を重ねていたのも本当で、その努力を讃えてくれている。
前世の赤石祥子も、今世のプルーフィアも、親が認めてくれているという只それだけの根拠の無い自信には縁遠かった。
赤石祥子の記憶が有るからこそ、その根拠の無い自信こそが子供にとっては大切と理解していたけれど、その実感は伴っていなかった。
でもどうした事だろう――これだけで体に熱が入った様な気がする。足下が定まった様に感じる。
ふわふわとした浮き雲の様に行方が知れなかった立ち位置が、しっかりグリムフィードに根差した物だと信じれる様になっていた。
だからだろうか。
この日からのダンジョンの攻略は、益々その精度を高め、失敗らしい失敗一つしないまま順調に進んでいった。
今迄よりも二割増しで良く視えて、今迄よりも五割増しで正確に体が動く。
三日ダンジョンに籠もる度に新たな手札を手に入れて、六つのダンジョンを踏破した頃に、王都からの馬車が御山の向こうにそろそろ到着する頃と聞いた。
もうダンジョンに潜る余裕は無いだろう。
「あれ? そう言えば、どういう名目で来てるのか、聞いたっけ?」
ふと心に浮かんだその疑問。
全部大人に任せてしまっていたからか、どうにも聞いた覚えが無い。
それは当然、罰当たりな事を口走った私を懲らしめる名目で処分して、教会に対する恐怖を植え付けに来たのだとは思うけれど……。
一応そこはお父様達に確認しておこうと、今更ながらに思うのだった。
~※~※~※~
その頃、御山を挟んだクルムヴァレー領の登山口に在る町に、見るからに重厚で豪奢な馬車が一台と、それに付き従う様な二台の馬車がやって来た。
先触れも無い恐らくは高官の訪れに、慌てて町を治める男爵が出迎えるが、それが大司教と告げられては真っ青になって震え上がるばかり。
直ぐ様、一番の宿を貸し切りにと人を走らせて、男爵邸でも歓待の準備を進めさせる。
山沿いのこんな田舎町にとって、大司教の訪れなどというのは、只々怖ろしいものだったのである。
そんな喧噪を余所にして、重厚な見た目の割に中身はクッションで埋め尽くされた様な馬車の中では、一人の老人が不満顔を隠そうともせず、延々と愚痴を溢していた。
「ふん……シュティオン師の足跡を辿ろうと思うたが、とんだ貧乏籤を引いて仕舞うたわ。
宿は狭い。飯は不味い。果物はと思えば渋い。王都から運んできた物もいい加減尽きるぞ?
神の威光を示してこその大司教とは教えられたが、下らん、詰まらん、割に合わん。
何が本懐か。こんな物、文の一つも出して現地の司祭に処理させれば良かろう。好き好んで態々糞田舎へ行く奴の気が知れぬ。
嗚呼、嫌だ嫌だ。帰りも有ると思えば気が滅入るわ」
しかし、外へ聞かせるつもりは無いのか呟く様なぼやき声で、只一人の馬車の中、盆に盛られたドライフルーツを摘まみながらの愚痴だ。
馬車の扉が開けられた途端に、その口は閉ざしている。
「アルカネン様。本日の宿に到着致しました。明日は朝からの出発になりますが、何、聖騎士のダンジョンで我らと共に鍛えた聖馬ならば、平地と変わらず脚を進めましょうから何の心配も御座いません」
「うむ、任せたぞ。案内せい」
譬え胸の内には不平不満が渦巻いていても、それを見せる事無くアルカネンは理想の大司教を体現して振る舞う。
彼らがグリムフィードに着いた時に何が起こるのか、今はまだ誰にも分からなかった。
ええ……誰にも分かりません。
大司教のキャラを書いてしまったら、本当にどうなるのか作者でさえも分からなくなってしまいました。(私の場合、キャラに動いて貰わないと書けない作者なので。思っていた動きと違ってしまったら、初登場からキャラを創り直しになってしまいそう)
本気で嫌なだけのキャラって、書こうとしても難しい。悪役にも事情を考えてしまうから、どうにもこうにも自縛自縄なのさw




