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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第三章 神罰の雷《いかづち》
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(84)仄かな不安

 TUEEEになっちゃったなぁ…。

 祝福の儀のその場所に居たのは、ミリアとケニッカ、それにガルダーもだった。

 誕生日が来て直ぐの探索者講習で一緒だったのだから、当然とも言える。


「ショー君、教会に喧嘩売ってたね」

「気付いてる筈なのに、目も合わせてくれなかったわ」

「は! お貴族様だからって気取りやがって!」

「……そうだよね、ショー君、お貴族様だよ。こんな所に祝福を受けに来るのかな?」

「もしかして、教会に喧嘩を売る為だけに来たのかしら?」


 実際は、貴族だからと言っても祝福を受けられるのは教会だけという事になっていたから、皆教会へと祝福を受けに行っている。だが、そんな事は知らないミリアとケニッカは益々嫌な予感を募らせる。


「ショー君、最近は私達の事遠ざけようとしてたわ」

「うん、あれって、私達を巻き込まない様にしてた?」

「後の事は分からないって言ってたわ。この事だったのね……」


 ――ショー君は一体何をしようとしているのだろう?

 それを考えようとしても、結局ミリアとケニッカは、ショーと名乗る少年の事を何も知らない。

 ただ不安な気持ちを抱えて、二人は祈るのだった。



 ~※~※~※~



 アクトー侯爵家からグリムフィード伯爵家に遣わされたジーゴは、老境に差し掛かった執事に見えて、その実、何でも出来た。

 それは見た目の通り執事でも有り、元騎士でも有り、只の趣味だと言いながら料理も熟し、しかしその本務はグリムフィードには居なかった諜報だった。

 かつてアクトー侯爵領の教会から、数々の悪事の証拠を探り出した凄腕だった。


 ジーゴが来てから凡そ七年。今のグリムフィード領には、ジーゴの薫陶を受けて諜報も熟す騎士達が二十人以上居る。

 プルーフィアにとっては雷の神ディーン様へのお供え実験を手伝ってくれるやんちゃなお爺さんでも、ジーゴの訓練を受けた騎士にとっては剃刀の様に鋭く厳しい鬼教官だ。

 グリムフィードがアクトー侯爵より賜った、思わぬ恩恵の一つである。


「中々動きませんな。……しかし、やはりあの司祭はそれ程性質が悪い様には見えませぬな」

「メリカルドは愚かな男だが、確かに悪い性質の者では無い。――先代とは違ったな」

「その先代は?」

「代替わりした途端に王都へ飛んで戻ったらしいな」


 ジーゴが育てた諜報騎士からの報告で、メリカルド司祭が居室で繰り広げている密かな懊悩も、書きかけの手紙の内容までも、既にイルカサル達の知る所となっている。

 それよりも不穏なのは教会騎士の方だ。


「とは言え、王都方面の定期便は二日後には出るとなっては、司祭もそれまでには結論を出すでしょうな。その内容も心配には値しますまい。尤も、お嬢様が期待する囮としての役目は果たせませんでしょうが」

「うむ、奴は自らの疑問として問い合わせようとしているのだったな。それでは王都でも相手にはされるとは思えん」

「儂が知っている教会の者と較べても、かなり真面な部類ですな。その分、教会騎士が不平不満を募らせておりますが、寧ろその御蔭で此方(こちら)の都合良く誘導出来ると思えば、僥倖とも言えましょう」

「――ふん、領の鼻摘まみ者と知らぬ訳でも無いだろうに、素直に密告の手紙を定期便に載せようとはな」

「くく、可愛らしいものでございますなぁ」


 因みにその手紙は、グリムフィードの魔境で様々な固有魔法を手に入れた諜報騎士の手により、封を開けずして検閲された。そこで罵詈雑言が誇張されて書き連ねていたのを確かめた後に、教会騎士に化けた「擬態」の固有魔法持ちが、教会の急所を突きながらも軍勢を向けられない様な内容に書き改めた物と差し替えられている。


 筆跡を真似ただけの「模写」では、「鑑定」に見破られてしまうが、書いた人間其の物を偽る「擬態」は「鑑定」でも見破る事は困難なのだそうだ。

 そんな固有魔法の宝庫でも有る魔境の実態を知ったジーゴは、呆れと共に一頻り笑った後に、諜報騎士の育成に手を付けたのである。


 そして当然の様に、船が行き来出来無い頃から探索者に扮した嘗ての部下をアクトー領から呼び寄せて、研修の名目でグリムフィードのダンジョンへと潜らせている。

 密かに船が行き来し始めた数年前からは、その数も増えて百人を越える騎士や諜報員がグリムフィードの騎士達と交流を深めている。


「儂が知る限り、王都で最も深いダンジョンが五十階層有る聖騎士のダンジョンですな。それも奴らが聖属性と呼ぶ無属性のダンジョン。五十階層を超えるダンジョンなどこれまでは然う然う見付かる物ではございませんでしたが、蓋を開けてみればグリムフィード領がこれ程までのダンジョンの宝庫でしたとは。しかも攻略方法まで確立されて、数多くの騎士達が位階七十に至るとは。

 最早聖騎士共は打ち壊せない壁には非ず、ですな」

「それが全て娘の働き掛けに因るものと思えば複雑だが、私に有り勝ちな愚かな楽観では無く、仄かな不安も何とかなると思えてくる。

 確かにプルーフィアの功績は大きいが、ジーゴ殿が来てくれなければ、これだけ万全の態勢を調える事は出来無かっただろう。

 ジーゴ殿には大変感謝している」

「ふふ、気が早いですな。それに礼など不要ですぞ? そもそもはダイカン様の悲願なれば」

「そうかも知れんが、それとこれとは話が別だ。

 ――おっと、時間か? そろそろ皆集まってくるだろうから、会合の準備を始めるとしよう」


 イルカサルはそう言うと、メイドに何事かを申し付ける。

 己に自信を持てず虚勢を張っていた男は、既にもう此処には居ない。

 未来を見据えて淡々と手を打つ領主が、此処には居るのだった。



 ~※~※~※~



 さて。

 大義を得たなら遠慮も無用にダンジョン攻略と決め込んで、やって来たのは水流窟のダンジョン。

 でも、私ならウォータースライダーと名付けたい。

 いやいや、水竜窟の方が格好いいかも、と思考を二転三転させながら、私はビート板の様な軽いボードに上体を預けて、きゃほーとばかりに激しい水の流れを滑り落ちる。


 水の流れは途中幾つも分岐して、間違ったルートに入ってしまえば、直ぐに入り口近くに戻される。

 魔物は出ない。

 謂わばアスレチックと同系統のダンジョンだ。


 只、殺意は高い。降りるのは水面も有って息が出来るけれど、時々水中トンネルになるし、入り口まで逆しまに昇るルートはほぼ水没して息が出来ない。分岐点の突端に衝突しても、きっと無事では済まないだろう。

 入り口まで戻された後で、水の流れから抜け出して外に飛び出すのにもこつが要るから、迂闊に入ってしまえば死ぬまで――いや、死んでも流され続ける事になるかも知れない。


 それでいて、水はとても澄んでいる。

 所々に不純物が打ち上げられたゴミ溜まりが出来ているから、このダンジョンの固有魔法は「水流」と「分離」? そして宝物を探すならゴミ溜まりの中だろうか?

 でも、そんな事なんて関係無く、エンドレスウォータースライダーが滅茶苦茶楽しい!


「うひゃあ~~♪♪」


 え? そんなに遊んでいて不安は無いのかって?

 ノンノン♪ これだって鍛錬。不安なんて感じている暇は無いんだよ♪

作者の苦悶:プルーフィアが中々友達と一緒に遊ぼうとしない。

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