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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第三章 神罰の雷《いかづち》
83/95

(83)大根乱

 祝福の儀だ!

 そして、秋一番の祝福の儀がやってきた。

 祝福の儀は、前の月に十二歳の誕生日を迎えた子供達の為に毎月行われるものだから、ほぼ日常に組み込まれた、教会がその威光を示す日だ。

 教会奥の儀式場には、二階建ての家に匹敵するピラミッドが造られていて、その上に聖神ラーオと思われる髭もじゃの像が据えられている。


 子供達はピラミッドの中腹で祝詞を捧げるメリカルド司祭に合わせて、聖神ラーオ様へと祈りを捧げるのだ。


「――今日の佳き日に、また新たに聖神ラーオ様の祝福を得る子らを迎えられた事を喜ばしく思う。

 聖神ラーオ様の御威光は遍く天地に行き渡り、今日も子らに――」


 此処一番の出番だからか、メリカルド司祭の話が長い。

 ここで少しでも良い祝福を貰おうと気合いを入れている子供達には有り難い話かも知れないけれど、色々と知っている私には退屈に過ぎる。

 祝福の儀は公開されていて、子供達の親戚一同に友人達が、此方(こちら)も熱心に祈りを捧げているのを見て、却って私は冷静になれた。


「――では、聖神ラーオ様に職業の祝福を願うが良い。但し、聖神ラーオ様はその名を呼ばれる事を厭う。聖神ラーオ様と喚び掛けるのでは無く、職業の神と喚び掛けよ」


 散々ラーオ様と呼ばわっておいてからのこの言葉だから、本当なら何を言っているのかと疑問に思ってもおかしくない。

 でも、ずっとそれが続いていると、そういう物だとでも思ってしまうのだろうか。


 何処の世界でも祈りのポーズは似通った物になるのか、胸の前で掌を組んで祈りを捧げる子供達から、少しずつ淡い光を放つ子供達が現れてくる。

 十二歳での祝福だけの、ちょっと特別な演出だ。

 光は次々と灯り、また消えていくけれど、私にそんな光は灯らない。


「ん? 其処の少年、もっと真剣に祈りを捧げなさい」

「やってるよ!? でも、さっきからラーオ様にずっと祈りを捧げているのに、応えてくれないんだ!!」

「……先程私が述べた通り、喚び掛けるのは職業の神としてですよ?」

「あ! そうか! ――ラーオ様では無い職業の神様! 私に職の祝福を授けて下さい。宜しくお願い致します。

 ――ああ! 貰えたよ! 祝福を貰えた! 職業の神様はラーオ様じゃ無かったんだね!」


 この場合は、あざといぐらいに態とらしい方がいい。

 それを聞いて、見学者に紛れたさくら達も動き出す。


「え――ちょっと待て!? それは大問題じゃ無いのか?」

「違う神様に祈っていたのが本当なら、職業の神様から見放されてもおかしくないぞ!?」

「待って!? それって今の職業の力も取り上げられてしまうかもっていう事!?」


 ヘイト(憎悪)が見学者に向かってしまうのは、グリムフィード領自体を敵視されそうで都合が悪い。

 だから私は、扮装した騎士達が張り切る所為で分散しそうなヘイトを、しっかり私へと向けさせる。


「あ、でもラーオ様の名前を言っちゃ駄目って、治癒をお願いする時もだっけ? ――え!? もしかして教会って名前も知らない神様の手柄を、ラーオ様の施しだとか言って掠め取ったりしてない!? それって本当の神様に知られたら、とんでもない事になっちゃうんじゃ無いの!?」


 悲鳴の様な私の叫びが、その場に居た人々へと感染していく。

 そしてきっと明日には、街中が知る事になるだろう。


 大根役者の乱。略して大根乱。

 いやいや、馬鹿な名前を考えるより、今は教会の反応をしっかりと探るべき時。


 ピラミッドの中腹に立つメリカルド司祭は、私の想像と違って呆然とした顔で立ち尽くしている。

 ピラミッドの周りに居る教会騎士達には、詰まらなそうな表情の人も居るのに。

 もしかしたらメリカルド司祭はカルトの信者側に居る人なのかも知れないと思いつつ、それならば猶の事期待通りに動いてくれるだろうとの予感を強くする。


 そして儀式場の異様な雰囲気に子供達が親元へ駆け戻るのに紛れて、私も教会を後にした。


 魔術も使って直ぐに姿を隠して館へ戻る。

 さくらに入っていた人達も館に戻ってくる。

 何とも言えない視線で見られる私。彼らはグリムフィードに身を捧げる事を誓った騎士達で、姫である私が矢面に立つ事を良しとしていない。況してや囮なんて。

 それでも実際に手合わせをして、幾つもの秘密を打ち明けられて、無理矢理納得して貰った。

 私が書いた攻略手引き書によって、位階も六十を超えている彼らは、譬えグリムフィードを戦場にしても後れを取るつもりは無いのだろう。


 でも、私が選択したのは王都や教会と敵対する事では無い。飽く迄、釘を刺す為に動いている。

 それをお父様達も支持しての今が有る。


「何だか司祭さんは何も知らない感じだったね。起こった事をそのまま王都の教会に伝えて指示を仰ぎそうな気がするよ?」


 私がそう言うと、お父様も頷く。


「私もそう思う――が、お前達、プルーフィアに鉾先を向けたく無かったのだろうが、盛り上げ過ぎだ。その所為でプルーフィアが余計に煽らなければならなかったのだぞ? 話が大きく成り過ぎればどう転ぶか分からんな」


 アロンド叔父様とエルザさんも加わる。


「港は完成したし、商船はまだだが侯爵領との行き来も出来る様に成った。寧ろ早い所けりを付けて交易に乗り出したい気持ちも有る」

「ちょくちょく噂を流したり、小芝居させたりしたからねぇ? 好んでグリムフィードに来たがるとは思いたくないねぇ」


 エルザさんに聞いてみると、五十代の男を三十代の男と組ませて、「おいおい、領都に来た途端苦労してんのけ? 偉い歳食ってんぞ? 同級生とは思えねぇ」みたいな小芝居を時々繰り広げさせているのだとか。

 そこから領都住みは肌艶が悪くなったなんて噂も、教会の近くを通る時にだけ溢したりしているらしい。


 ちょっと笑ってしまいそうになるけれど、今日見た司祭さんの様子だと信じていそうで余計におかしい。


「王都がどう動くかは予想が付かないけれど、出来る事はしないとね。予定通り私はダンジョンに籠もるけど、三日毎に帰って来るから」


 王都に手紙が届けられて、そして王都の反応が有るまでには、少なくとも一月は掛かるだろう。

 その間私は万が一も起こらない様に、鍛錬に鍛練を重ねる予定だ。


 でも、それを聞いてさくらをしていた騎士達は顔を歪めて――


「我々が姫様の為されてきた事を聞いたのはつい最近です。それだけの積み重ねが有り、今更それを否定するのは姫様を侮辱する事だとは理解出来ます。しかし――」

「ええ、それでも私達は姫様には穏やかに過ごして頂きたかった!」

「全てが無事に終わった暁には、姫様にはずっと好きな事をして過ごして貰う所存。その為の協力は惜しみません!」


 と、男前な事を言ってくれる。

 だから私も思わず本音を溢したのだ。


「え? え? それって二ヶ月くらいダンジョンを梯子しての攻略旅行に行ってもいいって事?」


 でもそれを聞いた騎士達。「いや、いや……それは!?」と要領を得ないのはどうした事か。

 ぶぅ、と(むく)れる私を宥める家族の言葉がまた酷くて、しかしこんな時にも拘わらず、自然と笑いが零れるのだった。

 何を祝福に貰ったのかは別途ね。

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