(82)最後の一時
プルーフィアの友達。
「ショー君、ありがとう! 助かったわ!」
ダンジョンから一緒に戻って来たギルドでお礼を言われて、私は微笑みで返した。
指名依頼での助っ人は今も続いていて、今日は二人の少女、ケニッカとミリアと一緒に巣穴のダンジョンへに潜った。
大物を相手にした時の立ち回りについて、見て欲しいと言われての同行だ。
この二人は始めにアスレチックの攻略を突き進んでいたからか、中々面白い探索者に成長している。
つまり、どちらも得意不得意は有るとは言え、管理ダンジョンで学べる一通りの事を二人共が身に付けて、良く跳んで跳ねるスタイルだ。
二人だけでも二十階層までは危なげが無いし、慎重に進むなら三十階層も行けるだろう。
実際に普段は学校の仲間達と誘い合わせて、都合が付いた三から四人の仲間とパーティを組み、三十階層辺りを狩り場にしているのだとか。
そのパーティでの二人の役割は、スタイル通りの斥候兼遊撃。既にランクCの御墨付きを得ながらも、こうして管理ダンジョンの攻略を進めているのは私の助言に従ったもの。
これ迄にも何度かこうして一緒にダンジョンへと潜ったが、若手の中での注目株との評判に間違いは無い。
まぁ、私は別格とされているけど、それを知っているのは一部の人間だけだ。
「はぁ……これで出来る事は遣り切ったと思うけど」
「管理されてない場所は、まだ怖いよね?」
「ん~、樹海のダンジョンで森の索敵とか魔物避けとか手に入れなかった? あれって森の木々から情報貰って、森の木々に魔物や魔獣が嫌がる何かを漂わせて貰ってるみたいな物だから、持っていると森の中でなら少しは安心だよ?」
「……持ってるわ。私とミリアで一つずつ」
「……そっか。あれ、外の森でも使えるんだ」
「後は、ダンジョンへの行き帰りを木道の外を歩いて練習するとか? この辺りでも各種薬草とか生えてるよ?」
「「あ、じゃあ、次はそれで!」」
声を揃えてのそんな二人の言葉に、少し本気で噴き出した。
何を名残惜しそうにしているのかと思ったら、これで私との探索も最後とでも思っていたみたいだ。
「そうは言っても、私が指名依頼を受けるのもそろそろ終わりかな? 来月には十二歳になるから色々と準備が有るし、十二歳になったらその後の事は予定が見えていないからね」
それを寂しく思ってくれたのなら、私みたいに好き勝手している相手でも友達の様に思ってくれていたのだと、ちょっと胸が温かくなる。
でも、私の計画が成就するだろう十二歳になった次の儀式の日からその後については、今はまだ何も分からない。
大体、私の知名度を上げるのも、探索者達に斥候の重要性を認識させるのもそれなりの成果を得た今となっては、いつまでもこの指名依頼を続けるのも私にメリットが無さ過ぎる。
まぁ、友達なら一緒に探索するのもおかしな話では無い。
二人が非管理ダンジョンに乗り出すその時が楽しみだった。
「で、でも、じゃあ、今日はまだ早いし!」
「そうだよ! 連携の仕方について教えて!?」
それにしても、何でそんなに焦っているのだろうと思いつつも、暫くダンジョンに潜る機会も無いだろうと思うと、私もちょっと名残惜しい。
「ソロの私に聞く話でも無いと思うけど、それならキックとかも訓練になるんじゃ無いかな?」
でも、一旦ギルドの外に出てから、そう言って私が二人と手を繋いで輪になったなら、顔を赤らめる二人に、ちょっとそれは違うのではと思ってしまった。
うん。そういう目で見られているなんて、ちょっと気が付かなかった。
鈍感系主人公じゃ無いつもりだったけれどね?
「じゃあ、誰から、どちら周りにする?」
特に気にした様子を見せずにそう言うと、きゅっと唇を噛み締める二人。
「わ、私、ケニッカ、ショー君の順番で!」
「そ、そうね! それがいいと思うわ!」
そして始まるキックのリズム。
「ショー君と♪ 一緒のね♪ 時間はとっても楽しいの♪」
「これからも♪ 三人で♪ 一緒にダンジョン潜りたい♪」
「それは光栄、嬉しいよ♪ でも御免ね未来は分からない♪」
キックの力を借りて気持ちを伝える二人の少女に、笑いかけながら同じ言葉を繰り返す。
「それでも一緒に遊びたい♪ もう会う事も出来無いの♪」
「時々でいいわ誘ってよ♪ もう会えないのは悲しいわ♪」
切なげに目に力の入った二人。
キックのリズムでは答えられないと、私は笑いながら流れを止めた。
「ん~、御免ね? 指名依頼って形で指導してるのも思惑が有っての事でね、本当ならもっと探索を進めたかったりするんだよ。今、私の抱えている心配事を解決するには、力が必要なんだ。
それが解決したら、魔境の果てや海の彼方を旅してみたいと思ってる。それが私の夢かなぁ?
だから、私が引き上げないといけない人は付いて来れないね。友達だとは思っているから、会いに来る事は有ると思うけど、君達が思っているのとは何か違うかも知れないよ?」
今はまだ打ち明けない方がいいと思うから、言葉を濁して二人と見詰め合う私。
割り込んできたのは、子供ながら耳に付く濁声だ。
「ああ!? こんな所でいちゃついてんじゃねぇぞごらぁ!!」
「五月蠅いわね! 連携の練習よ! お互いの呼吸も読めなくて連携出来ると思ってるの!?」
「ガルダーの盾はすっごい邪魔よ? 盾役が居ない方が安全なんて、安心出来ないし」
直ちに遣り込められていて、調教の成果が見えている感じ。
余り詳しくは聞いてないけれど、ずっと前にガルダーの挑発に苛立っていた少女達に、直ぐ死んじゃう人にむきになっても大怪我するだけと釘を刺したら、それから本格的にガルダーの教育に乗り出したのだとか。
嫌っていても助け合えるのは素直に素敵だと思う。
今ではその流れで、都合が付く学校の級友達が待ち合わせてダンジョンに潜っているらしい。偉そうな割に物凄く不器用で、でも力が強いガルダーは盾役を任されている。
でも、ガルダーも居る時に一緒に潜った事は有るけれど、下手。リズム感が悪いのか、足が動いていないから、指示を出されても対応出来ていなかった。
「ガルダーも入れば? ガルダーの駄目な足捌き含めて連携の練習になるよ?」
その言葉に動きを止めるガルダー。
渋々ながら私と繋いでいた方とは逆の手を放して、ガルダーに手を差し伸べるミリアとケニッカ。
益々挙動不審になるガルダー。
ガルダーの視線は現れた時から私と繋がれたその手を見ていたし、滅多打ちにされていたとしても親身に心配されていたなら、気になってくるものだろう。
青春してるね~って思う。
キモイって感想が出て来そうになるかも知れないけど、それは流石に残酷だと思うんだ。
「俺様は♪ ダンジョンで♪ 最強の探索者になるんだぞ♪」
「それならね♪ もう少し♪ がさつな所を直しましょ♪」
「乱暴駄目だぞ紳士にね♪ 女子供には優しくね♪」
「言葉遣いも直しましょ♪ 今はまだ♪ 乱暴者♪」
耳まで真っ赤にしたガルダーが、ぎこちなく下手糞に踊っている。
夏はもう直ぐ終わろうとしていた。
まぁ、友達の定義次第?




