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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第三章 神罰の雷《いかづち》
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(80)認識の摺り合わせ

 当初の予定通りの流れです。

 私が一応目標としていたタイムリミットは、私が十二歳になるその時だ。


 王都からは殆ど撤収したからと言って、グリムフィード領が教会排斥派に属するのは変わらない。

 教会排斥派なのは、教会が権威を笠に好き勝手に振る舞っている現実が有るからだ。教会の好きにさせていれば、何れ教会にとっての価値が低い存在から、生活の維持も儘ならなくなって、零れ落ちていく事だろう。


 それは前世でも良く見た光景だ。嘗ては賑わっていただろう繁華街は、何時の間にか半分近くの店がシャッターを開けられる事も無くなり、繁盛している様に見えた店が撤退して新しいテナントが入ったかと思えば短時間で入れ替わって、其処もまたシャッター街へと移り変わっていく。

 給料なんて何十年も横這いで、税金ばかりが増えていく。

 その裏に在るのは計画性の無い思い付きでの政治だ。


 密室政治で思い付きの政策を国民に知らせないままに実施する。丸で好き勝手に振る舞う独裁政権かの様に。

 それで何故国民は憤らないのかと思えば、ジャーナリズムとしての正気を疑う偏向報道が蔓延していて、言ってみればカルト宗教か何かの洗脳放送に常に曝されていたのだろう。


 中には与えられた物で満足しろなんて的外れな事を言う人も居たし、悪い事だけ論うのでは無く良い事も取り上げろというこれもおかしな論も出回っていた。

 だが、前者は主権が国民に有る事を見失って衆愚政治に走る責任放棄でしか無く、後者はそもそも不祥事を起こしたならば責任を取るのが筋だ。一体誰が善行を積めば悪行も見逃されるなんて事を言い始めたのだろう。付け加えるならば、概してそれらの善行も彼ら自身の手柄では無い事も多い。

 そうして実質独裁状態が続き、政治が腐敗すれば、行き着く先は革命か暗殺かが待っているのは、多くの前例が存在する事からも少し考えれば分かるのに。

 多くの人が崩れそうな足下から目を逸らして平穏な振りを続けようとしても、既に零れ落ち蔑ろにされて踏み躙られた人々が何時までも従順な筈は無いのだから。


 これは是非や善悪の問題では無く、道理の問題だ。

 政治の失策で落ちぶれた者が、為政者に恨みを抱かない筈が無い。

 疫禍で親兄弟や子供達を失った者が、そんな最中(さなか)に宴会を開いたり、夏休みばかりを気にする政治家に殺意を抱かない訳が無い。

 

 だからこそ政治家には厳しく己を律する事が求められる。

 国民から預かっているお金を、一円たりとも無駄にしない為に計画を練る事が求められる。

 災害に当たっては迅速に対応し、国民の命を何よりも優先する姿勢が求められる。

 身命を賭して問題解決に尽くす事を、言葉では無く行動で求められる。

 汚職などは論外だ。本来なら深く反省し、直ぐ様自ら辞任を申し出るのが筋だ。そして、私が前世での子供の頃は、実際に多くの政治家がそうして議員を辞めていった。


 赤石祥子が死んだ頃は、その辺りがどうにも開き直って腐り果てた政治家ばかりが目に付いたが、そもそも彼らは自分達が憎悪の対象に成り得る事を自覚していたのだろうか。

 既に国民を飼い慣らしたと安心していたのかも、或いは下級市民が何を出来るものかと高を括っていたのかも知れないけど、只でさえ国家元首なんて暗殺を警戒しないといけないと思うのに、平和呆けしていたのだろうなと思う。


 まぁ、そこで私は死んでしまったのだから前世の事はそれまでとして、今はプルーフィアとして生きるこの世界での話だ。


 王国は王政だけど、ゲーム知識で言うなら教会は王家に対してもかなり力を持っていた。

 具体的には、王子王女は一旦教会預かりになって、教会の理念で育てられていたと思う。

 そこで教育されて、ゲームの舞台である学園には教会から通っているという設定が有った憶えが有るから、下手をすると王家は教会の傀儡だ。

 つまり、教会への不満を王家に訴えても、まず取り合っては貰えない。

 それどころか、王家から教会へと告げ口されるまで有ると思わなければならない。


 言ってみれば、教会は表立って(まつりごと)を執り行ってはいないが、実際には王家の上に立って方向性を示している様なものだ。そして指示を出すだけで良きに計らえと丸投げしている。教会関係者が傲慢になる要件は、これ以上無く調っている。

 実際にお兄様達から聞く王都の教会関係者達は選民思想の塊らしいし、私のゲーム知識も馬鹿に出来た物では無い。


 こんな状況下で私達が教会の排斥を訴えるのは、自殺行為に外ならない。しかし過ちを正さず腐臭漂う教会を何時までもそのままにしておくのも、結局の所は緩慢な隷属への道を行く様なものだ。

 どう考えても先が無い。


 そんな問題をどうやって解消するのか。

 何故を繰り返して考えてみる。


 まず、アクトー侯爵領を初めとする東部に多い教会排斥派が、何故教会を認めないのかと言えば、それは教会が()()()()()に無体な要求を通してきたからだ。

 真実平和と安寧を教会が望むなら、恐らく教会は道徳的な事を人々に説くのだろう。

 しかし教会は聖神ラーオの怒りが齎した災いを伝え、聖神ラーオの教えに従わなければ天罰が下るのだと説く。天罰から逃れる為には教会への喜捨が必要なのだと説く。

 当然神の力を借りた治癒を施す場合には、法外な対価を要求した。


 尤も、それだけなら質の悪い宗教に引っ掛かったという所だけど、本当に質が悪いのはこの悪徳宗教が国と密接に結び付いている事だ。

 具体的に言うなら、教会を縛る法が無い。

 いや、民衆を縛る法は有るからそれに準じる筈だが、神の裁き手は教会こそと唱える教会関係者と、それを黙認する王家により有名無実と化している。

 好き勝手放題する教会を誰も止められないのが、この状況を招いた元凶だ。


 これが前世なら、一応憲法も持たない国は近代国家とは認められない風潮が有った。

 憲法が何かと言えば、為政者が守らなければならない規範だ。つまり、為政者が自らを律し縛る為に有るのが憲法だ。

 尤も、前世でもそれを解釈で有名無実化したり、憲法とは何かを全く理解せずに誰を律するのか良く分からないものへと歪めようとする政治家は存在したし、それが何を守る為の物かも理解せずにそんな流れを歓迎する国民も多く居たが。


 少なくとも不祥事を起こして真っ黒にも拘わらず、開き直って議員に居座る政治家がどうにかして変えたいと思う憲法とは、曲がり形にもそれなりに真っ当に役割を果たしていたのだろうし、逆にそんな腐敗政治家による改変案は真面にその役割を果たせない物になるのだろうと私は思う。


 その前世には在りながらも役割を果たしているとも思えなかったが、為政者を裁く司法に相当する何かが王国には無い。それも当然、民主制では無く君主制だからと言えばその通りだ。

 国王に謁見して訴えるのも、前述の通り現実的では無い。事実、アクトー侯爵はもう何年も教会の罪について訴え続けているが、何の変化も無いのだから。

 最後の手段として民衆を動かそうとしても、前世での酷い偏向報道のマスコミと等しく、王国での情報が多く教会から発信されている状況では成功する道筋が見えない。


「ふふ、其処をダイカン様に担って頂きたいと言うのですな?」


 私がそれでも教会に釘を刺したいと思っているのを、家族に加えてジーゴさんも含めて話し合ったその日、教会とは別の情報網を持っていそうなアクトー侯爵様を頼ろうとの私の思いは、ジーゴさんの満足気な頷きによって肯定された。

 教会に情報の発信を頼れないなら、別のルートで発信すれば良い。

 前世でも全国紙より地方紙や週刊誌の方が真面な事を書いていたりする事も有る。喩えはちょっと違うかも知れないが、情報源は複数在って然る可きと思えば、アクトー侯爵様が情報網を持っていないとは思えなかった。

 それを逆に情報を広めるのに使わせて貰うのは、危険を押し付ける事になるのかも知れないけれど、他に執れる手段も無かったのである。


 教会の中をこっそり調べてみたけれど、中央にピラミッドみたいな台が在って、丁度その真上には天井から巨大な針が伸びていた。

 見るからに此処に雷を落とすぞという構造だけれど、肝心の雷を発生させる何かは見当たらなかった。

 お父様もお母様も他の皆もいい顔はしないけれど、それを手に入れて証拠とするのが一番だ。

 その上で、どうやら教会の中に神の名を騙って天罰紛いに人を裁こうとする痴れ者が居るらしいと噂を広めれば、教会の顔を潰さずに釘を刺す事が出来るのではと考えた。


 魔術師である上にも只管に鍛えて位階を上げても、出来る事はこんな物だ。

 本の少し意識を変えられるかどうかだけ。しかもその少しの変化も、教会の洗脳的情報操作で直ぐに元に戻ってしまうかも知れない。

 しかし、教会が領民を勝手に裁く事がちょっとでも難しくなるなら、それはこの上無い成果では無いだろうか。


 権力を持ち情報を支配する組織を相手にする事の、徒労感と虚しさは限りが無いが、動かない事には何も変わらないし変えられない。

 田舎の小中学校で地元の有力者のどら息子が好き勝手放題していて、教師達も有力者に阿ってどら息子の肩を持っていたなら、只の一生徒に何が出来るかという話だ。障害となるのは現実から目を逸らして何も問題は起きていないという風を取る大多数の生徒だ。声を上げる方がおかしいと反発し、修学旅行の為に積み立てていたお金が何時の間にかどら息子に使い込まれていて、行き先が費用の掛からない地元の博物館に変わっていたとしても気にしない振りをする者達を相手取って、穿てる穴なんて僅かでしか無い。


 民主制の、選挙によって首長が決まる前世でも、そうなのだ。

 君主制の今世では尚更、情報を支配された中で強大な権力を持つ相手に立ち向かうのは、並大抵の事では無い。


 東部を取り纏めるアクトー侯爵という強大な力と情報網が無ければ成り立たない作戦なのである。


 行き過ぎればクーデター。寧ろ教皇を暗殺した方が穏便なのかも知れない。多分魔術師だろう教皇を暗殺だなんて出来無いだろうけれど。

 しかし安易な武力やテロルでの解決は、より大きな混乱を招く間違った方法だ。その事実を教会の都合の良い様に言い広められて、見せしめの体を取って教会に都合の悪い者達が多く処刑されるだろう。王都のダンジョンに裏付けされた武力で以て、内乱にまで発展するかも知れない。

 まずは教会の過ちを知らしめて、教会と民衆の間に楔を打ち込む。それが手始め。

 その為に、私が囮となって教会の急所とも言える天罰の絡繰りを手に入れる。


「ダイカン様もお嬢様の言葉に否やは言いますまい。いや、寧ろその時には援軍も出しかねませんな。アクトー領との遣り取りもお嬢様が教えて下さったルーナ様の御力に縋れば、誰にも知られずに手紙の遣り取りが出来ますし、――おお! お嬢様が祝福を授かる頃には船も行き来出来てましょうから、こっそり援軍を忍ばせる事も出来ますぞ!」


 月神ルーナ様の御力とは、まぁ、手紙を届けてくれるのだ。

 近場だと次の日になってしまうから却って時間が掛かるし、西から東へも同じく次の日になるけれど、酷い曇りで無い限り次の日には手紙を届けてくれるのだから、私は兎も角ジーゴさんは随分と助かっているらしい。

 私の「司書」の力で、前世の原作本を読み返して見付けた恩寵だけどね。


 兎に角、認識の摺り合わせが終わったなら、後は再び大人に任せる所は任せてしまって、私は万が一の失敗も起こらない様に、楽しみながらも自分を律して鍛えるだけ。


 でもそろそろ私の知名度も上げていかないと、いざその時になっても見知らぬ誰かが騒いでいるとしか思われなかったら、ちょっと色々拙いかなと、そんな事を考えていた。

 ……不謹慎という人も居るかも知れませんけどね。

 何処かで爆発する人は出てくるのだろうとは思っていました。

 それがカルト絡みとは思いませんでしたが。真面目に職務を果たして、国民が災禍に苦しんでいるとなれば連日国会を開いて問題解決を図って、身を粉にして働く人だったなら起きなかったのではとも思います。この人に手を出したら駄目だと思わせられなかったのでしょう。

 偉い人は悪い事も少しはやっていて当然とか思っている人は、そんな感覚を持たされている時点でおかしくなっていると思います。上がそんな妄言を垂れ流すのは有るかも知れないが、民衆がそんな戯れ言を支持するのは本当に訳が分からない。

 大体コロナに対する政策が国民が死ぬ事を何とも思っていない、或いは或る程度死ぬ事を見込んだものばかりっていうのはどう考えてもおかしい。間接的に何万人も殺しているし、これからもそれが続く。作品始めに書いたままに、何度も流行を招いてその度に規模が大きくなる。根絶しようとしていない。風邪と同じだから気にせず出社しろみたいなことを言い出す人も居る。狂っているとしか思えない。

 そんな中で事件が起きた。

 その恐ろしい所は、「何だ、こんな事で世の中は変えられるんだ」と思ってしまう人達が続いたりしないかという事ではないでしょうか。

 そんな事が許されるはずが無いと言われても、作中で書いた様に善悪や是非の問題では無く、道理の話です。それに、仇討ち物が流行ったり、大義の上での世直し物が持て囃されるのも、日本の国民性でしょう。

 嗚呼、嫌だ嫌だ。そんな流れが来る前に、世直しするならしっかり考えて投票しろよと、そういうのもこの作品を書き始めた動機の一つだったのに、嫌な前例が出来てしまった。


 まず疑って掛かれ。そして良く考えよ。諦めて傍観しても何も変わらない。

 そういうのもこの作品のテーマなのです。

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[気になる点] あくまでも一読者としての感想ですが、 リアルの政治とかの批判部分でただただ実例も出さずこき下ろしていて読むのがきつかったです。 主人公にこのように思うきっかけやバックストーリーとかがな…
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