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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第三章 神罰の雷《いかづち》
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(79)呪われたダンジョン管理地区

想い出の場所へ。

 呪われたダンジョン管理地区と銘打たれたこの場所は、今は三重の外郭を持った城塞の様になっていた。

 最外殻は緩衝地帯、に見せて、実は川縁までの通路だ。

 真正面に在る次の外郭に設けられた門へ進むのは、何も知らない外部の人達。そんな人達は真面にスイラ様の力を受けて、恐怖に身を震わせる事になるのだろう。

 その門を越えた先は屋根付き床付きに調えられていて、倉庫にも宿屋にも使える空間だ。まぁ、グリムフィードの住人全員は収容出来無いだろうけれど。

 そしてその内側の中心部に、此処呪われたダンジョン管理地区をその名に違えぬ場所としている中枢が在る。


 と、まぁそこは話に聞いた感じで、最外殻の内側を川縁に向かう私は想像するしか無いけれど。

 聞いていた手順通りに、突き当たりの柱の陰で隠し扉脇のスリットに手紙を入れて暫し待つ。

 壁にしか見えない隠し扉を開けてくれたのは、イサナさんだった。


「やっほー! 来ちゃった♪」


 明るい乗りでご挨拶。

 イサナさんとは暫く振りだ。魔獣避けのスキルが便利過ぎて、ほぼ常駐に近く此処に勤めているからだ。

 多分、一年以上会ってない。


「来ちゃったって……プルーフィアよね?」

「シーッ! それは内緒だから、この姿の時はショーだよ?」


 そこで漸くイサナさんも破顔して、私を迎え入れてくれた。


「も~、吃驚したよ! こんな夜に一人で来たの?」

「夜の森というのも乙な物だよ?」

「飄々として変わらないね。ほら、こっちにおいで」


 因みに、スイラ様の御力は招き入れられた通路の辺りでもちゃんと感じられた。

 と言っても少しお座なりだ。私が館からいつもスイラ様にはお祈りを捧げているから、私相手には手控えていてくれているのかも知れない。

 それでも一番はスイラ様へのお祈りを捧げる事だと、私はイサナさんに連れられて大河グラウプルの手前に設けられた祭壇へと向かう。

 グラウプルの水を汲んで水の神スイラ様に祈りを捧げると、途端に嫌な圧迫感が消え去った。


 だけど、何だか違和感が残る。

 スイラ様が感情も司るからなのか、ちょっとお願いが有って上目遣いにうるうる見られている感じがする。


「……活性炭かな? あれ、役に立ってるの? 一応ロシュト様から貰った空間に入れて持って来てるから、心配は要らないよ?」


 と、虚空蔵屋敷から活性炭の大袋も取り出して捧げると、それも目の前で消えた。

 イサナさんを見上げて目で問い掛ける。


「いやいや、ちゃんと毎月捧げているからね!?」

「じゃあ、有用性に気が付いて、もっと欲しくなったのかな? ――こぉの、欲しがりさんめぇ~」

「神様にその言葉遣いはどうかと思うよ!?」


 一体神様が何に活性炭を使っているのだろうとは思うけれど、効果が落ちてきた分を復活させるだけで、結構凌げるのでは無いだろうか?


「じゃあ、効きが悪くなった活性炭を出してくれる? ちょっと洗ってみるから」


 そんな言葉を告げると、どさどさっと嫌な臭いを醸し出した活性炭が落ちてきて、慌てて私は虚空蔵屋敷に専用のスペースを創って放り込んだ。

 うん、えぐい匂いがし始めていた。スイラ様が困ってしまう訳だ。


 虚空蔵屋敷に隔離した活性炭を洗う為に、大河の水も少しだけ取り込んで、区切ったスペースを六百度から千度とかそんな高温に熱して、高温高圧の蒸気で洗浄する。

 温度は私の火属性依存だから、活性炭を収めた程度のスペースなら充分灼熱地獄に変える事が出来る。嵐の様に掻き混ぜるのは風属性。何度も水を替えて洗い、汚れた水はまた別のスペースに隔離する。

 何度か洗えばすっきりしたから、最後はからからに乾いた高温の風で攪拌する。


「ほい。ちょっとは復活できたと思うよ? 洗って出た汚れはどうしたらいいかな?」


 喋っている間にも汚れ水は一つに集めて、別のスペースをくっつけて、その間を逆浸透膜的に水だけを透過させて、残ったのが濃縮された汚れ。

 神様が嫌がった汚れというのが無くてもこのまま外には出したくないので、汚れのみ残ったスペースを極低温で凍らせる。

 色々な色が混じって黒くなったソフトボール程の塊が出来た。触りたくは無い。


 水の神スイラ様も嫌がっている様な気がする。

 仕方が無いから虚空蔵屋敷の中に封印だ。その内手に負えない魔獣でも出たら、食べさせてあげようと思う。


 復活させた大量の活性炭については喜んで貰えたのか、何か変な水の玉を貰えた。水の重結合体とか言い出しそうなハンドボール程の大きさをしたジェルみたいなボール。

 何かに使えると言った雰囲気は無くて、面白い物が出来たから上げるって感じで。


「ありがとう♪」


 としか、私には言えない。


「相変わらずね~」


 とイサナさんにも言われたけれど、これは私の所為では無いと思う。


 客室は一杯空いているけれど、イサナさんの部屋で一緒にお休みして、朝を迎えた。



 中央に在る呪われたダンジョンの周りは、石棺に譬えても良い感じにがちがちに石の堂が建てられていて、魔石を流し込む口だけが開けられている。

 そしてその石棺自体大きな部屋の中に封印されていて、厳戒態勢が敷かれていた。


 裏を知っていれば口元が歪む感じだ。

 でも迂闊に話題には出来無いから、さっさとその場を離れた。


 最外郭を迂回しての森の祭壇でグラ森に祈りを捧げ、グラ森の現状を聞く。

 六年前と丸で変わらず、うんうんと相槌を打っている様なグラ森お爺ちゃん。これから更に数百年も年経たら、人の姿をとって会いに来る様になったりするのだろうか?


 まぁ、中心部の郭内は、広さで言えばグラウンドの有る田舎の小学校程度だ。ぐるっと一回りするのにも時間は掛からない。

 中央に呪われたダンジョン。壁際に結構大きな建物郡。幾つかはアクトー侯爵領との交易が始めれば、商館や倉庫になるのだろう。


 でも、特筆すべきはそんな城塞の中身では無く、大河グラウプルに面した岸辺からの眺望。

 なんと対岸まで橋が架かっている。


「吃驚した? 木に隠して探索拠点も準備中よ?」


 大河に架かる橋は流れ橋にせずに、どうやら川底に杭を打ってその上に木の板を渡している。

 ……いや、あれは木の板を渡した様に見えて、そのまま筏になりそうだ。

 増水した時には流れ橋の様になるのかも知れない。


「船もね、川底の測量は終わって突起ももう直ぐ潰し終わるって。早くて今年の間に、遅くても来年には侯爵領まで船が出るかな?」


 お父様達に完全にお任せしていた分、驚きも一入だ。


「他には? 他にはどんな凄い事が起きてるの?」

「んー、他には――」


 私は誇らしげに語られるイサナさんの話を聞く。


 閉ざされていたかも知れなかったグリムフィードの未来。

 今は其処に幾筋もの確かな道が、その先へと続いている。

 なんか、あと十話程度で終わりそう。

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