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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第三章 神罰の雷《いかづち》
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(78)呪われたダンジョン管理地区へ

 あの場所の今。

 非管理ダンジョンに行ける様になったという事は、呪われたダンジョンにも自力で行く事が出来る様になったという事である。

 尤も、私の場合はお父様達の許可と、アロンド叔父様の許可が必要だけれど。

 どうしても泊まり掛けになるし、そもそも立ち入り禁止地域となっている。


「……よく兄が許したな。まぁ、外泊の許可が有るなら俺がとやかく言う物でも無いが」


 アロンド叔父様が言う兄は、つまりはお父様の事だ。

 正直私もそこは首を傾げたけれど、どうにもお父様からの信頼が(あつ)過ぎる様な気はしている。

 だからと言って反対されていたなら説得するだけの話だけれど、ちょっと拍子抜けするのも事実だ。


「昔の様に格好を付けているだけじゃ無ければいいんだけどね。何か変な信頼のされ方とは思ってるよ?」

「……まぁ、元々はお前の発案だ。それを今迄口出しもせずに俺達に任せてくれたのだから、それだけの筋は通すだろうよ。

 一応物資の運搬として指名依頼を出したものとする。いいな?」

「直接祭壇に回ってもいいの?」

「大丈夫だが、今の場所は分かるか? ランクも本当ならAに上げてしまいたいんだがなぁ」

「それをしたら流石に不自然だよ。地図は有るの? 祭壇の場所とかは地図で確かめて行くね」

「地図? 地図は無いから、手書きだねぇ」


 勝手知ったるギルド長室。

 エルザさんも私が潜り込んでいる事に、既に疑問も抱いていない様子だ。

 そして地図が無いと言うのは、極秘情報が何処からも漏れない様に気を付けての事なのだろう。


 尤も、呪われたダンジョン管理地区までの道程の二割も行けば木道が設けられているらしいから、管理ダンジョンを卒業した上位の探索者にとっては公然の秘密だ。とは言っても、呪われたダンジョンが在るという意味での秘密だけれど。

 そして、今回私はそういう上位の探索者が指名依頼されている、物資の運搬を請け負う形で現地へ赴く事になる。


 誰がその仕組みの全てが、教会や王都を(たばか)る為に計画されたと思えるだろう。

 いや、そんな人は居ない。アロンド叔父様達が徹底しているからこそ、秘密は今も秘密のままに保たれている。


「じゃあ、行って来るね~!」


 ばいばいと元気に手を振って、私は探索者ギルドを飛び出した。

 これから私が行くのは、六年前に何度か通った想い出の道。

 そこを今度は一人で行く。

 何も彼もが懐かしくて、どきどきとわくわくが収まらなかった。



 森の中を歩く。

 身体強化は使っていない。

 それなのに跳ねる様に体が進むのは、位階が上がると肉体の質も変化しているのだろうか?

 ずっと位階が上がっての強化は、身体強化の為せる業だと思っていたけれど、身体強化を切る様になってからそれだけでは無いと気が付いた。


 丁度身体強化をした魔術師では無い位階三十の探索者と同じ程度の身体能力。とても都合のいい事に、身体強化を切った状態でなら気を遣わずに動いても、はしっこい探索者として通じる範囲だ。

 それを良い事に、私は身の熟しを研ぎ澄ます事に最近は注力している。


 これが身体強化も加えた全力になると、また動きは違ってしまうんだけどね。

 地面を蹴る時にはもっと体を倒して横に蹴らないと跳び上がってしまうし、蹴るのも岩や木で無いと足下が滑って意味が無い。

 そういう動きも確かに訓練しないといけないけれど、それは散々アスレチックでやって来た事だから今更だ。


 足音を立てない様に、気配を出来るだけ隠す様にと前へ進むけれど、どうしても落ち葉や下生えや行く手を邪魔する枝が鳴る。

 それを避けるルート取り。

 忍者の訓練でもしている気持ちで、森の中を駆け抜ける。


 アロンド叔父様が使っていた森での索敵も、イサナさんが使っていた森の魔獣避けも、元を辿ればどちらも同じ。樹海のダンジョンで手に入る固有魔法の本質は、森の木々によるネットワークの利用だ。

 電気信号やら匂い物質やらで森の木々は結構な情報を遣り取りして、樹海ネットワークを創り上げている。そこから情報を拾えるなら索敵だって出来るし、魔獣の嫌がる匂いを放出させての獣除けだってお手の物だ。

 逆にそれらの力は此処グラ森でしか効果が無いかも知れないのかも知れないけれど、グラ森の中でならこれ程頼れる力も無い。


 ぱっと見では分からない、森が教えてくれる獣道。そんな場所を通りながら、しかし何処か浮かれたその時間も、思いの外早くに終わりを告げる。


 森の中に設けられた広場から、木道が真っ直ぐに伸びている。

 そうなると話が変わる。六年前と同じ様に森の中で一泊して、出来れば蛇のスープを作って、そして明日呪われたダンジョン管理地区に到着の予定だったけれど、どうも今日中に着きそうだ。


 いや、私を抱えていたとは言っても、森に慣れたアロンド叔父様がそれなりに飛ばしていたのだから、木道が在っても時間は掛かるのかな?


 そんな事を考えながら、私は木道を直走る。

 ……うん、昔の記憶と照らし合わせても、木々が後ろに飛び過ぎて行くのはもっと遅かった様な気がする。


 結局行く手に高い木塀が見えてきた時には、すっかり日は沈んでしまっていた。


「おいおい……こんな遅くに命知らずな」


 見張り台から見下ろしてくる見知らぬ探索者?

 もしかしたら騎士かも知れないけれど、私は物資の運搬を依頼された普通の探索者として応じるまで。


「物資の運搬で来ました! それとイサナさんにお手紙です!」


 因みに、私の背中には結構な――そう、私の体が隠れそうに大きなリュックが背負われている。

 前世での山登りとは違い、しっかり重い荷物ばかりでも疲れないのは、位階が上がった恩恵だ。


 序でに言うと、この木塀は水の神スイラ様の影響が出ない場所に設けられている。

 この中に入ってから、ぞわぞわする恐怖を感じる様になるのだろう。

 きっと六年も過ぎたのだから、この中も見違えているに違い無い。


 軋みを上げて門が開く。

 私は気持ちを浮き立たせながら、その隙間にするりと体を滑り込ませるのだった。

 想い出の場所に行こうとしてわくわくする事って有りますよね?

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