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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第三章 神罰の雷《いかづち》
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(77)非管理ダンジョン

 そして新たなステージへ。

 そんな事を思い返しながら、私は初めて木道を大きく外れた森の中へと足を進める。

 当然この一年の間は、この日有るを見越してダンジョンへの行き帰りは、森の中での採取も行っていた。

 だから不安なんて感じる必要は無い筈なのに、どうにも木道を外れて歩く森の中は、心持ちが頼り無い。

 木道の意外な副作用だと思いながら、昔アロンド叔父様に連れられてきた時にはそんな不安を覚えなかった森の中を行く。


 この向かう先に在るのは、「大空洞」と呼ばれる非管理ダンジョンだ。今迄の管理ダンジョンも大空洞には間違い無いと思うけれど、非管理ダンジョン初心者にお勧めと有ったから素直に此処を選んでいる。

 やがて見付けた洞穴の入り口には、「大空洞」の看板さえ立てられてはいるけれど、今迄の管理ダンジョンとは違って小屋らしき物は一つも無い。

 胸の内に「お邪魔します」の言葉を思い浮かべながら洞穴の入り口を潜り抜ければ、見慣れたダンジョンの傾斜が私を出迎えた。


 でも、違う。長い傾斜を降りていくと、丸で自然の地下空洞に迷い込んだ様な光景が辺りに広がり始める。

 石筍が柱になって水の無い地底湖の天井を支えているかの様な、そんな光景だ。

 床に平坦な場所は無く、天井は所々抜けているのか光が差し込み、其処彼処に陰が出来て、魔物が隠れる場所にも事欠かない。

 自然と身と心が引き締まる。


 実際に、此処は自然の地下空間と較べても、何も変わりは無いのだろう。

 今迄管理ダンジョンに慣らされてしまっていたけれど、外から潜り込んできた魔物ならぬ魔獣だって居る筈である。

 寧ろ、それら強化された魔獣素材の方が、買い取りも高額だったりする。

 或る意味ここからが探索者にとっての本番だった。


 腕が鳴る。

 そんな感覚だ。


 確かにこんなダンジョンなら、管理ダンジョンには出来無い筈だ。

 アスレチックで鍛えた身の熟しと、犀の河原や迷宮洞窟で研ぎ澄ました気配の掴み方、更に巣穴や魔罠で学んだ事も活かさなければならないかも知れない。

 入り口入って直ぐにこれだけの課題が有るのだ。


 それでいて初心者向けと言うのだから、素直な性質の方なのだろう。

 翻って言えば、他の非管理ダンジョンには、もっと嫌らしい性質のダンジョンも在るに違い無い。


 因みに、広々とした大空洞だが一階層しか無いらしい。

 採れる魔石もレベル一。固有魔法を覚える見込みも無いなら、今日一日で攻略を済ませてしまうつもりだ。

 そんな大空洞の特産物は、寧ろ入り込んだ魔獣や植物の素材になる。虚空蔵屋敷は表に出せなくても、アロンド叔父様経由で卸す事は出来るから、気にせず虚空蔵屋敷に仕舞い込んでいく。


 因みに虚空蔵屋敷はその名に違わぬ広さとなり、私が潜り込む事も出来る様になった。泊まり掛けの探索でも、ちょっとした休憩でも、中に入ってのんびり休憩出来るなんて最高では無かろうか。


 まぁ、そんな人前で使えない切り札なんて置いといて、私はアスレチックで鍛えた身の熟しを駆使しながら、大空洞の中を駆け巡る。

 瓦礫の下に次の階層への入り口が無いか。地上へ抜ける穴に横道が開いて無いか。そんな事にも気を巡らせながら。


 うん、天井の穴が滅茶苦茶怖い。誰かが落ちてきたら数十メートル下に真っ逆さまだ。まず助からない。

 森の下はダンジョンの空洞だらけと思うと、森を歩くのにも慎重になる。

 確かに此処は、一番始めに訪れるべき非管理ダンジョンかも知れなかった。


 それで得た結論として、此処は確かに一階層しか無いダンジョンと分かった。

 場所によって得られる魔石のレベルが違うなんて事も無く、全てレベル一魔石ばかり。

 素材も其処まで高価な物が無いとなると、見掛けたのが二パーティ程度というのも頷ける。


 私は人目に付かない隅っこで、恒例の魔石砕きを終えてから、大空洞を後にしたのである。



「ふ~ん、到頭ショー君も非管理ダンジョンデビューかぁ。――今更感が凄いねぇ?」


 と、私が虚空蔵屋敷から取り出していく素材を見ながら、副ギルド長のエルザさんが呆れている。

 何もおかしな事はしていない。管理ダンジョンを完全制覇してから非管理ダンジョンへと進むのは、ソロ故に慎重派なのだと言って欲しい。


「ショー君……はぁ、ショー君呼びも慣れさせられたけど、この特別納品室もショー君の為だけに調えたみたいなぁ?」


 エルザさんの言葉通り、虚空蔵屋敷なんてスキルからぽいぽい戦利品を取り出すのは、とても人には見せられないからこの部屋を設えて貰っている。

 それがまたコネでいい目を見ている様に思われていい感じ?

 一時期尾鰭の付きまくった不都合な噂が、この怪しい関係を見せ付ける事で少し落ち着いてきたのは僥倖だ。

 今なら私の素性を聞き込みしても、ギルド長の身内でコネを使って調子に乗っているといった評判を聞く事が出来るだろう。

 そんな悪意の混じった噂を散蒔く探索者を窘める人も居るかも知れないけれど、不満を持った人の方が声が大きいのは何処の世界でも変わらない事実だ。


「まぁ、これからは素材の納品が増えるかもね?」


 それは非管理ダンジョンをメインに攻略を進めるから。

 それを言うと、エルザさんも少し微妙な表情をする。

 でも、正直言ってメリットしか無いのだから、ここは畳み掛けるべき――


「……レベル二十四魔石とか持ち込まれるよりましだけどさ」

「鑑定持ちが探索に出るんだから、特産物もきっと増えるよ?」

「――それはいいかも? あ、ちょっとアロンドと相談――」

「――は、査定が終わってからにしてね?」

「……はぁい」


 ――なんて思っていたのに、呆気無く納得したから、今度は私が呆れながらも戦利品を並べ終えるのだった。


 グリムフィード領の特産品が増えれば、それはグリムフィード領の力に成る。

 その為に私が非管理ダンジョンを渡り歩けば、私の手札もそれだけ増える。

 一挙両得で素晴らしい、と自画自賛しながら、私は思いを巡らすのだった。

 非管理ダンジョンも色々有りますよ? ちゃんと深いのも、色々と。

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