(76)ピーキールーキー
ぽんぽん時間が進んで行く。
更に一年が過ぎた。
管理ダンジョンは、どれも最深部までの攻略が完了している。
「鳥の洞窟」は全二十階層、「犀の河原」は全二十四階層、「樹海」は全三十階層。これらは一年前の時点で攻略済み。
「アスレチック」も、百階層で一月も過ごせば位階も上がり止まる様になった。
「スピンボール・ルーレット」は全七十二階層。管理ダンジョンとする際に調査に入った人も、六十階層迄は潜っていないらしいから、その昔に攻略されていなければ私が最下層に一番乗りだ。
けれどそれも分からない話では無い。手を伸ばせば触れる場所を、何十台ものダンプトラックが猛スピードで走り抜けている様な現場だ。しかも平然と接触事故や玉突き事故を起こして、その軌道を暴れさせる。
それが攻略では無く調査に入った斥候なら、これ以上深部の調査は危険と判断して引き上げもするだろう。
其処から先へ進むのは、しっかりと魔物を斃して攻略している探索者に任せればいい。
ただ、そんな事情だから、六十階層より深い場所がどうなっているのかは、誰にも知られていなかった。
結論として言うなら、鳥の洞窟と同じ様に、最深部が近くなる程に変化が現れた。
転がるダンゴムシの中に、淡い色付きが混じり始めた。
色付きが現れる様になってから、ダンゴムシの巨大化も鳴りを潜め、寧ろ色付きになると小さくなった。
七十階層を超えたら、転がるダンゴムシは全て濃い色付きだ。しかも、広場毎に色が分かれている。大きさも三十階層レベルに戻っている感じだ。
因みに、広場の数も二十を超えた辺りからは増えたり減ったり安定していない。
そのそれぞれが違う色のダンゴムシで満ちていた。
推測で述べるなら、恐らく魔力溜まりを作る様な魔力は、ダンジョンの奥深くに溜まっていくのでは無いかと思う。
そして、大量に集まった魔力は、それぞれの属性毎に集まろうとする性質が有るのだと思う。
そう思うのは、私がアスレチックで大量の無属性魔力を手に入れた結果、その無属性魔力が他の属性魔力を追い出して、純化しようとする動きを感じたからだ。
幸い私は魔術師で、魔力を制御する力がそれなりに有ったから防げたけれど、そうで無ければ単一の無属性魔力だけを持つ、妖精の様な妙な生き物に成っていたのでは無いかと思う。
アスレチックには強い土属性も有ったのと、このスピンボール・ルーレット下層で手に入る各種属性魔力が楔に成ってくれたのも助けになったに違い無い。
アスレチックと並行して攻略していたから、その後の二ヶ月で攻略完了だ。
そんな訳で、諸々の属性を強化しつつの次はジュエルスター洞窟。
全六十階層の内、四十階層辺りまでは、何故だか不気味で怖い探索者達で一杯だった。
そして、四十階層より先まで一気に潜って、何故其処から先には探索者達が居ないのかが分かった。
深層のジュエルスターが繰り出してくる反撃の熱線は、結構な威力だ。
と言っても、人目が有る時に長柄の鎚で試した時にしか、私は見ていない。
大体魔石を打ち込めば、それで斃す事が出来ている。
手が空いたなら、光の神ジラー様と闇の神ロアン様に貰った「操幻」で、光を屈折させる練習をするのに丁度良さそうな場所だったけれど、何事も無く半月も過ごせば、此処で得られる位階も飽和した。
その次は「真ん丸スライム」だ。クリアしてみれば、五十階層まで在った。
スライムの核目掛けて、銃弾も斯くやな礫を撃ち込むだけ。半月ばかりで位階も軽く飽和する。
此処まで硬い魔物が続いたから分かるかも知れないけど、位階を百迄上げた魔術師が放つ礫はえげつない。
途中からジャンプ台も轢き壊す様になったダンゴムシも弾け飛んだし、魔石では無く石を弾にしてもジュエルスターを砕いた。きっと「巣穴」に行った所で、急所を狙わなくても弾け飛んでしまうのだろう。
それもその筈、百階層で過ごして位階が百に成った私の魔力は、魔石と同じ様に三階層潜れば三倍になっていると考えると、三の百割る三乗倍で約二千兆倍は有る事になる。
小さなコップ一杯の水を出すのがやっとだったのが、辺りを押し流す濁流を何度も呼び出す事が出来る様に成るのがその辺り。
小さな種火を数秒出せたら良かったのが、街を火の海に沈める業火を呼び出せる様になるのがその辺り。
無茶な倍率と思うけれど、出来る事で考えてみればその辺りかなとも思っている。
ちょっと、処では無く遣り過ぎた。それは確かな事なのだろう。
復活の呪文にゆうていみやおうきむこうと打ち込んでしまった様なものだ。途中でシナリオがバグってしまう、禁断の呪文に手を出してしまったのだ。
そして、誰も居ないアスレチックの深層や、スピンボール・ルーレットから、人の多いジュエルスターに攻略を進めた時に、自重をしないとという気持ちを覚えた。
アスレチックを全力疾走している間は良かった。身軽という言葉で誤魔化せた。
スピンボール・ルーレットでダンゴムシを殲滅している時も良かった。見ている人なんて誰も居なかった。
でも、巣穴で必殺の射撃なんて披露したら多分もう駄目だ。囮になれるのは、調子に乗っている子供まで。得体の知れない凄腕は、とても囮になんてなれない。
幸い魔術師だから、そうでは無い人とは違って自分に掛かっている身体強化を切る事が出来る。でも、切った状態では見た目相応に非力だ。
その時、暫く考えて出した答えが、身体強化を切った非力な状態で探索を進める事だった。
勿論能力全開での訓練も必要だけど、それは時々アスレチックやスピンボール・ルーレットに潜ればいい。
身体強化を切っての探索でも、身の熟しはそれ程衰えはしないし、無茶な機動が出来無くなるだけだ。
そして替わりに私は掛け替えの無い技術を手に入れ、囮に相応しい評価も得る事が出来るだろう。
そうして乗り込んだのが、「土」のダンジョン。どれだけ姿を変えようと、どれだけ動きが鋭くなろうと、結局は核が剥き出しのゴーレムだから、立ち回り次第で何とかなる。
どうしても動きは遅くなるから、先読みと足捌きが鍛えられる。
きっと身体強化をそのままにしていたなら、何の学びも無いままに呆気なく終わっていただろう事を思えば、私の選択は正解と言えた。
全四十階層に二ヶ月掛けた。
その次は「巣穴」のダンジョン。全四十二階層。
二十階層まではランク試験の時にも潜っているから、三十階層までなら何とかなる。
三十階層を超えたら、落下の勢いも利用しないと急所に届かなかったりしたけれど、何とかぎりぎり届かせる事が出来た。
でも、四十階層を超えたらもう駄目だ。レイドボスと言ってもいい巨体に、中々有効な一撃が入れられない。
身体強化を解禁しても、まだ得物の長さが足りてない。
魔術まで解禁して、高速の魔石弾丸を撃ち込んで、それで漸く急所に届いた。
こんなのを他の探索者はどうやって倒しているのかと、聞いた時のアロンド叔父様の言葉が忘れられない。
『それは当然上げた位階での強化も技もフルに使って仕留めるのだろうな。お前とは違って。寧ろ何故お前はそんな縛りを設けているのだ?』
全く以て仰せの通り。
目的と手段がごっちゃになって、前提を見失っていた恥ずかしい記憶である。
何日も急所を探るだけに費やしたりした三ヶ月。大変だったけれど満足した。
そんな事が有りつつ、自分で決めた決まり事に自縄自縛になりながらも、鍛錬の為と割り切って管理ダンジョンを攻略していった。
とは言っても、「迷宮洞窟」全四十二階層、「腐葉土」全四十階層、「魔罠」全三十階層は、最下層に辿り着くだけなら数日で済んで、後はそれぞれ一ヶ月の間、位階を飽和させる為だけに費やした。
既に曲がり角の先も見えてしまう迷宮洞窟も、身に纏う無属性魔力で状態異常を殆ど防げる腐葉土も、そもそも初めから魔力が見えていた魔罠も、攻略の妨げには成らなかったのである。
こうして私が管理ダンジョンの完全攻略を遂げたのは、職能の神エリーン様の祝福を半年後に控えた、十一歳の冬の終わりだった。
時間加速~!




