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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第三章 神罰の雷《いかづち》
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(74)やり込み好きは、やり過ぎ注意

TUEEEにしないのは諦めました。

 アスレチックと名前は付いているけれど、誰かが図面を引いている訳では無いから、都合良く足場が並んでいる訳では無い。

 そんな中でどうやってルートを見付けているかと言えば、それはきっとクライマーが登攀ルートを見付ける様な物なのだろう。


 浅い階層では凹凸も多く複数のルートを簡単に見付けられるが、階層が深くなる程に壁は柱状列石だとか柱状節理だとか言われる滑らかな柱状となり、魔力が浸み込んでいるらしいその岩壁は他のダンジョンとは違って楔を打つのも難しくなる。

 更に言えば、楔を打ったとしても欠けた岩肌は時間と共に復活し、打った楔も押し出されてしまう。

 逆に言えば、元からの棘状をした突起ならばそう簡単に折れないから、鉤爪ロープが大活躍するのだ。


 勿論、大量の梯子を持ち込んで使い捨てにする方法も有る。でも、何故使い捨てになるのかと言えば、梯子を使いたくなる様な次の足場に届く場所というのは、大抵伸縮したりと移動する梁や柱が薙ぎ倒していく場所だから、恐ろしく効率が悪い。

 そんな動きに邪魔をされたく無ければ、ダンジョンの構造物が動かない場所に足場を立てるしか無いが、八十階層の深みにそれだけの資材を運び込むなんて至難の業だ。

 持ち込めて縄梯子、しかも結び目を幾つも設けた一本縄みたいな簡易な物になる。


 だが、ダンジョンで位階を上げて身体能力が強化されているなら、そんな結び目が無くても腕の力だけで縄を攀じ上るのも簡単だ。つまり、結び目の無いロープで問題無い。

 それは最早鉤爪ロープと何も違わない。


 それでも敢えて言うなら、体重を支える程に硬く強く長い棒が有れば有用だろうけれど、生憎私には必要無い。位階を上げる前から大人程度の力は出せた私の無属性魔力も、今では余裕で私の体重を支えられるので、私の魔力の届く範囲に手掛かり足掛かりが有るなら、二段ジャンプでも三段ジャンプでも、何なら空中を歩いて進む事だって出来る。

 流石にそんなずるは私が楽しく無いからしないけれど。

 それに、周りに何も無い空中でまでそんな事は出来無い。飽く迄、手や足の延長で支えている。


 でも考えてみて欲しい。

 譬え正攻法でしか進まないとしても、常に三メートル以上有るマットを身に纏っているなら、どんな無茶な動きだって出来る。

 そんな無茶を日常としていれば練度だって当然変わるし、攻略速度なんて言うまでも無い。

 端から一緒にパーティを組んで探索するなんて選択肢は存在しなかった。


(無茶しても怪我なんてしないのが確実で、どんどん洗練されていく感覚と超人的な身体能力を駆使して攻略していく全感覚没入型(フルダイブ)アクションパズルゲーム。……嵌まらない筈が無いよね?)


 自分でも既に言い訳すら出て来ない程に夢中になって全(階層)クリアしてしまったのだから、何をか言わんやという所だが、これで私がパーティを組んだりしたらお互いに不幸にしか成らないだろう。


 一人だけ違うゲームをしているとは前世で良く聞いた表現だけれど、リアルでもマネーゲームで稼いだり、スポーツで生活を立てたり、様々な人が様々な手段で違う人生を営んでいた。

 それと同じ。私はダンジョンをゲームの様に攻略していく能力に恵まれて、ゲームの様に熱中する精神性を持っていた。

 その代わりに友達付き合いの能力は決定的に欠落していて、そしてそれを磨こうという意欲も無かった。

 その結果が()()なんだから、もう仕方が無い。


 幸いなのは、グリムフィードの切り札と成るべく、義務感に突き動かされているだけでは無く、心底私がダンジョンを楽しんでいる事だろうか?

 うん、実益を兼ねた趣味、遊びの延長のお仕事、最高だね!

 開き直った私は、どんどんアスレチックを踏破する。


 まぁ、アスレチックには収穫物なんて無いから、此処に来る人は皆遊びに来てるんだけどね。訓練と言えば聞こえはいいけれど、同好の士の中から選出された時間管理人と呼ばれるクリアタイムの計測者が居て、それでタイムを競って一喜一憂しているのだから。

 この前、私も時間管理人からクリアタイムを計りたいと声を掛けられたけれど、正直そんなのに付き合っていられないから、自分で計って参考タイムとして更新した攻略手引き書には載せておいた。

 計測方法は原始的だ。導火線に火を点けて燃えた長さで時間を計る。ゴールと共に、火の点いている出来るだけ近くを切り飛ばすのがこつ。因みに、もっと長い時間を計りたい場合は、線香タイプの計測棒も有る。


 私がアスレチックの攻略手引き書を更新した後で、何度か既に待機していた時間管理人に私のタイムを計られたけれど、早くはなっても遅い事は無いと思う。

 それから私の開拓したルートを試している人も出てきたから、ちょっと其処で勢いを削がれるのが玉に瑕だけれど。

 段階を踏んで、ちゃんと技術を手に入れてないと、危なかったりするのになぁ?


 早速とばかりに新ルートの下にもマットが敷かれていたが、最速ルートはまだ早いと諦められたのか、その幾つか難度の低いルートが混んでいる。

 そして私がやって来ると、皆その動きを止めて私の攻略を見守るのが日課になっていた。


 うん、鉤爪ロープでの振り子移動から繋げる頭のおかしい大ジャンプなんて、確かに見応え充分かも知れない。


 因みに、振り子移動が必須な場所は四十階層から出て来るけど、一番最初は既に突起にロープが結び付けられていて、フィールドアスレチック宜しくそのロープを手前に引き寄せて次の順番の人に渡しながら指導する人が横に付いていたりする。

 初心者から熟練者まで楽しめるアスレチックコース完備って、何の宣伝なんだろうと考えると笑えてくる。


 五十階層にもなると、自分で鉤爪ロープを投げて引っ掛けられないと、足場の動きに間に合わない。この辺りになると、かなり足場がダイナミックに動くから、踏み外すのは良くても挟まれるのアウトだ。


 六十階層後半になると、振り子移動の途中でもう一本の鉤爪ロープを投げなければいけない場面が出て来る。そしてこっそり浮遊する足場が現れるのもこの辺りから。

 一本の鉤爪ロープで何とかしようとしたら、空中で回収した鉤爪ロープを素早く次の突起へと投げ付けないといけないが、それに役立つのが回転魔法の力。ロープを波打たせる様にして伝播させた回転の力が、素早く鉤爪ロープを突起に巻き付かせ、そしてまた(ほど)くのである。

 私で無くても手に入る魔法なら、使うのを躊躇う理由は無い。


 七十階層半ばから、浮遊足場が攻略に関わって来るけれど、この足場、乗ると落ちる。だから急いで渡らなくてはいけなくて、息吐く暇も無い怒濤の展開が待っている。


 それを乗り越えた八十階層は、広間の真ん中を中心に、足場程も無い浮遊石が二重螺旋を描いてくるくる回っている他には何も無い。

 しかも、浅い階層ではただ暗かったのが、深くなるにつれて青白く仄かに岩が輝いて、しかし此処の二重螺旋は暖色系の橙色に光が灯っているとなれば、どうしても特別感が有る。

 そして壁にも床にも次の階層の入り口は無く、二重螺旋の浮遊石は足場にするには頼り無い。

 この階層が最下層と思うのも無理は無い。


 でも違う。魔力が見える魂の眼には見えている。


 暖かく光る二重螺旋から離れた天井の隅辺りを、地味に青白く光って彷徨う足場。

 しかし秘めている魔力は他と比べ物に成らないくらいに濃密だ。

 つまり、乗っても落ちない。


 とても登れそうに無い二重螺旋の浮遊石を強引に駆け上り、その途中で強固な地味足場へと鉤爪ロープを投げ付ける。

 ちゃんと突起まで付いている足場の上に攀じ上り、更に天井を見上げれば其処に在るのは短く柱が抜けた様な幾つもの窪み。

 その一つが、次の階層に続いている。


 鉤爪ロープを投げてその奥の突起に引っ掛けて、ロープを昇った先で横穴に入って暫く進めば、それまでとは様相を異にする眩い空間が広がっている。

 しっかり明るいその広間には、落ちない浮遊石の足場が動き回り、今迄のテクニックを駆使するだけでは無く、しっかり足場の動きを読んで、位階の上がった身体能力で飛び渡らないとクリア出来ない。

 私も何度も足場から落ちた、難易度的には完全に裏面ステージだった。


 それが二十面――いや、二十階層だ。

 百階層に着いて、今度こそ次の階層へ続く道が無いと確かめた私は、しかし十分以上に満足したのである。


 因みに、構造物が動くダンジョンだから、次の階層の入り口が閉じている可能性も有るけれど、流石にそれは分からないし、多分その可能性は低い。

 大体階層間では魔力が流れているから、それを閉じ込める構造にはならないと思うからだ。


 最下層の百階層は、床も壁も全面蛍光灯が埋め込まれているかの様な眩しさで、溢れる魔力が渦巻いていた。

 実際にその流れに乗って大小様々な浮遊石が、竜巻の様にゆっくりと動いている。

 その中の手頃な浮遊石に腰掛けると、私は「虚空蔵屋敷」から読み掛けの本を取り出した。


 この中では、浮遊石に座っている方が安全。螺旋を描きながら上昇して、壁際を床まで降りて、彷徨ってからまた吸い込まれる様に渦に巻かれていく。

 床に立ち止まっていれば、そんな浮遊石がどんどんぶつかりに向かって来るのだから。


 ここ最近は、一日置きにこうしてアスレチックの百階層で、まったりしながら本を読んで過ごしている。

 魔石が出ないこのアスレチックでは、構造物が動く度に魔力が放出されてそれで強化されるから、位階を上げるには深い階層に留まるのが一番だから。


 でも、ちゃんと遊んでいるし、まったりしてるし、気持ちだって緩めている。

 働き詰めでは全く無い。

 ほら、今だってジェットコースターに乗りながら読書している様なものだ。余裕をかまし過ぎて、呆れられるまで有る。


 だから大丈夫――と、言いたいけれど。

 ふと冷静になった時に思うのだ。

 

 ちょっと遣り過ぎているかも知れないなぁ、と。

TUEEEにしないのって、特別な生まれも無く、特別な記憶も無く、普通の人間が普通に冒険しないと中々難しいですよ?

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