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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第三章 神罰の雷《いかづち》
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(72)一生懸命とはおさらばしたい

 ×一生懸命 ○一所懸命

 大人しく館へ帰って、ディーン様に捧げる諸々を造り上げて、何だかんだと忙しくしつつも時は過ぎて、エリーザさんとリズベル、それにマニリエさんとの約束の日を迎える事になった。


「リズベルいらっしゃい! エリーザさんにマニリエさんも今日は宜しく!」

「ふむ、花屋ならではの工夫とやらを見せて貰おうかの」


 パルックお爺さんにも来て貰って、希望するメイド達も一緒に、今日はお庭の鑑賞会♪


 ――と洒落込んではみたけれど、エリーザさん達が直ぐにくすくすと笑い出してしまったから台無しだ。


「本当に野菜を育てているのだな。流石に花壇が一つも無いのは驚いた」

「お花は一杯咲いてるけど、直ぐ横に見慣れたお野菜がぶら下がってるね」

「私、領館の中にはどんな素晴らしい庭園が広がっているのでしょうって、今迄はずっと思ってたわ」


 尤もそれには理由が有る。


「何代前の領主か分からないけど、領館は魔境に対する最後の砦だからと、籠城出来る様にしたらしいよ?

 でも、お父様とお母様は薔薇の庭園で出会って、弟妹にもそれに因んだユイリとロジアって名前を付けているくらいなのに、ちょっと寂しすぎるよね? プランターでもいいから、馬車道の脇くらいには見て楽しむ花が有ってもいいよね?」


 理由を告げれば、然も有りなんと納得する三人。

 そして一緒に歩きながら聞いてみれば、発色を鮮やかにする方法や、切り花にした時に長持ちさせる方法だとか、花の種類によって違う鉱物を鋤き込んだり、お酢を垂らした水を上げたり、まぁ普通の野菜には使えない手法が色々と有る模様。

 いざとなれば花壇も菜園に切り替えるかも知れない事を考えると、下手な事は出来ないというのがパルックお爺さん交えて話し合った結論でした。


「これから始めるなら、グリムフィードに咲く花が一番だよ」

「種でいいの? 言ってくれれば植えに来るよ?」

「種がいいよ。お風呂や厨房の排水を樋で流して、出来るだけ手間を掛けないつもり。

 リズベルには悪いけど、皆野菜の花で充分綺麗と思ってるから、花を飾ってもニグの花だったりして、目を離したら油でからっと揚げて食べられちゃうからね。

 手間を掛けても勿体無いね」


 そんな冗談に笑ったリズベル達を見送って、花壇の計画を練っていく。

 別に大した事じゃ無い。ちょっと館が華やかになるだけの事。

 種を蒔く時には、ユイリとロジアにも手伝って貰おうか。



 ディーン様へのお供え方法が判明してからと言う物、気が抜けた訳では無いけど日常スキルへも手を出す様になっている。

 勿論ダンジョンへ行って位階を上げるのは継続しているし、鍛錬も欠かしていない。

 しかし、もっと裾野を広げて手広く手懸ける事で、より多彩なスキルを手に入れる事が出来無いかと期待したのだ。


 例えば園芸のスキルを手に入れたとしても、戦闘にどれだけ役に立つのかと人は言うだろう。

 確かに、手に入れたスキルや魔法を、そのまま使うしか無い人にとってはそうなのかも知れない。しかし、魔術師としてそれらのスキルや魔法をアレンジ出来る私が使うなら、その可能性はどんどんと広がっていくのだ。

 もし、植物の生育を早めるスキルが有ったとしたら、それを応用すれば足止め出来る程の藪を作る事が出来るかも知れない。或いは魔物に種を植え付けて、成長する植物で魔力を奪いつつ、張り巡らせる根で命を絶つ事も出来るかも知れない。或いは植物を生育させるその力を分析して、手や足を失った人々のそれらを取り戻す事が出来るかも知れない。


 覚えたスキルや魔法が多ければ多い程、私の手札が増えていくのだ。

 日常スキルだからと言って、とても馬鹿にする事は出来無い。


 それに、位階を上げて魔量が随分増えた御蔭で、スキルを覚えるハードルが随分と低くなっているのを感じている。

 一日花壇の面倒を見ないと覚えられない園芸スキルが、一時間しないで覚えられそうと言えば分かるだろうか。

 片手間の労力ででも手に入る物ならば、貰わない方が損だ。


 尤も、ちょっと前のめりに突っ走るのにも疲れて、ほっと一息吐いているというのも本当だろう。

 前世では一所懸命という言葉が有った。一つ所に命を懸ける、そんな言葉だ。じゃあ、そんな一つ所以外ではどうかと言えば、きっと気を抜いているのだろう。緩急だとか減り張りという物が、人生には大切なのである。


 うん、何時の頃から言い出したのか、一生懸命なんて誤用がされて、いつしかそれも有り的な流れになってしまっていたけれど、私はそんなブラックな言葉は大嫌いだ。

 きっとそれはお婆ちゃんとかが力を入れ過ぎて、「いっしょぉおお、けんっめぇええに、生きてかなあかんのえ」とか言ってしまったから、一所懸命を一生懸命に聞き違えたに違い無い。

 一生が命懸けなんて、どう聞いても何処の社畜かストリートチルドレンかという言葉で嫌になる。


 そういう意味で、私は楽しみつつもずっと張り詰めていたのだろう。だからこうして緩めるのは、再びピンと張り詰める為には必要な事なのだ。


「いえ、プルーフィア様は全然緩んでませんよ? 日常のスキルを得る為とか言っている時点で、もう駄目駄目ですね」


 私の直ぐ傍に控えているからか、私の口から零れる言い訳がましい独り言を拾って、カヌレが突っ込みを突き入れてきた。


「そ、そんな事無いよ? ほら! 体だって動かしてないし」

「心構えの事を言ってます。

 例えば音楽を聴いてリラックスしている人は、ゆったりした気分を味わう為に音楽を聴いています。プルーフィア様は、直ぐに音楽スキルを得られないかと考えて、頭の中に楽譜を起こしていきます。

 湖に行っても、他の人はのんびり釣りを楽しんでいますが、プルーフィア様は釣りスキルを手に入れようとして釣りをします」


 カヌレは良く見ている。

 とても否定出来ない。


「プルーフィア様は精神的に働き詰めなのですよ! そんな人が減り張りを口にするなんて烏滸がましいです!」


 私は花壇の場所を下見に来ていた馬車道の上で、カヌレの言葉に思わず両手を地面に突いた。


「そ、そんな!? だ、だって時間が勿体無いのに!?」

「その考え方が手遅れなんですよ!」

「そ、そんなぁ~~……」


 何と言う突っ込み力。

 私は地面に横に成り、ごろごろと転がった。

 すると、カヌレがここぞとばかりに声を張り上げた。


「それですよ! プルーフィア様!」

「んあ?」

「今ごろごろしていたプルーフィア様は、ごろごろする事以外は何も考えてませんでした。それは即ち、プルーフィア様は私に突っ込まれでもしない限り、気を抜く事が出来無いのですよ! つまり、プルーフィア様はもっと私を大切にするべきです。具体的にはダンジョンにお供させるとか!」


 カヌレの言うダンジョンへのお供は、ダンジョンに潜っている私を一般公開されている場所でのんびり待っている事に外ならない。


「何てこったぁ~~……」


 私はごろごろと、転がりながら馬車道を下るのだった。


「ああ!? プルフィア様ぁ~~!?」


 カヌレはこの話が、他のメイドからメイド長へ、メイド長からシオンへ、シオンからお母様へと伝わって、お母様から呼び出されて叱られたそうだ。

 その事で私は少しも悪く無い。

 それだけは、間違いの無い事である。

 日常回の予定じゃ無かったのに、書いたら日常回になった。

 ま、偶には日常回を挟まないとバランスも悪いよね?


 ATOK辞書が偶におかしな変換返して来たり、気の所為かも知れないが前に変換出来ていたのを返してこなくなったりする。でも最新のATOKは良く分からないんだよなぁ。クラウドになる前に仕入れとけば良かった。


 そんな一太郎遣いの作者でした。


 ではでは~♪

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