(71)自省
ガルダーはざまぁ対象じゃ無いよ~?
暫く雨は降らないと言われたなら、鬱々とした気持ちはダンジョンで晴らすべし。
そんな気持ちで探索者ギルドまでやって来たら、顔を強張らせた少女二人にまた捕まってしまった。
「ショー君が解剖図鑑も攻略手引き書も書いたって本当?」
「分かっちゃった? ちょっと喋り過ぎたかも知れないね」
「あのね、友達も色々教えて欲しいって言ってるんだけど、今日いいかしら?」
ちょっと初めは面倒だなぁと思っていたけど、詳しい話を聞いていく内に考えを改めた。
どうやら馬鹿な男子の挑発に煽られて、無茶をしそうな子が居るみたい。でも、無茶をすると怪我をしてしまうから、無理をしないで前に進みたいとぎりぎりの所で堪えていると聞いたら、放っておけない気持ちになる。何より、今の私も鬱々を吹き飛ばしたいという勢いに任せて、無理も無茶もしてしまいそうな所が有ったから、身につまされる想いだ。
私もちょっと頭を冷やさないといけない。
それに気付かせてくれたのだからそれだけでも有り難いと思って、今回も彼女達に付き合う事を決めた。
皆が集まっているという資料室へと行ってみれば、少女ばかりが十人近く集まっていた。
そして、始めて私を見る子が、思わず口から溢してしまう。
「本当に小っちゃいわ」
言ってから周りと一緒に慌てているけれど、別に私は気にしない。
「うん、そうだね」
と認めるだけだ。だってそれは事実なのだから。
「……御免なさい、小っちゃいなんて言っちゃって。でも、怒らないの?」
「何で? ダンジョンで小さいは悪口じゃないよ? 兵士や騎士に成るなら別かも知れないけど、小さいって事は身軽って事だし、大きかったら狭い隙間に詰まっちゃうよね?」
彼女達の様子を見て、植え付けられた価値観を壊さないとと思ったのも本当だけれど、言った言葉に嘘は無い。
それにそもそも彼女達は間違えている。けど、それについては聞かれた時に答えようか。
「聞いてるみたいだけど、ショーだよ。何か教えて欲しい事が有るんだって?」
自分でも随分と素っ気無い言い方になってしまったと思うけれど、それもちょっと仕方が無い。
ミリアとケニッカはダンジョンを楽しんでいるのを見ているから好感を持てるけど、この子達は男子に馬鹿にされるのが嫌で焦っている様に感じる。
だからほら――
「うん、私はナナリーよ。ほら、男は力が強いけど、女は魔力が強いって言うでしょ? その魔力を活かす方法って何か知っていたら教えて貰えないかなって」
その魔力を使うつもりが有るなら、既に生活魔法だって使えていたと思うのに、それも無しで都合の良い事ばかり口にする。
男だろうと女だろうと、地道にこつこつ積み上げていくしか無いのは変わらないのに。
私が言える事は、鍛錬を積み重ねよしか無い。
「魔力を使って何かをしたいなら、まずは生活魔法が使える様に特訓かな?
生活魔法の感覚が分からないなら、剣や槍の訓練を続ければスキルが生えてくるから、それで魔力は活かせるよ?」
それしか無いよねと納得顔の少女が居る一方で、質問してきた少女は不満の表情を隠さない。
「そんなのどれだけ時間が掛かるのよ! 男子ばっかり狡いわ!!」
なんて言葉も吐き出している。
ミリアとケニッカに状況を教えて貰っていなかったなら、この子は何を言ってるんだろうと首を傾げて、幾ら彼女達に今日は付き合おうと決めていたとしても、そのまま聞く価値無しと無視をしてしまっていたかも知れない。
そういう意味ではミリアとケニッカのファインプレーだ。
「う~ん、男子だってひょろひょろしたのも居るよね? 君が今羨んでいる男子は、筋肉を鍛えてきたから一歩先を進んでいるだけだよ。狡いとかじゃ無いよね。
生活魔法を使うのに必要なのは、魔法を使いたいって想いだけと思うから、もし君が生活魔法を鍛えて自在に使える様になっていたとしたら、逆に羨まれる事になっていただろうね。
それと同じで二年前にはダンジョンも一般公開されているんだから、探索者に成るつもりで訓練を積んでスキルを手に入れていれば、今頃スキルを持たない人なんて相手にならない実力を手に入れていたよ?
つまり、単に君の準備不足だね。
私は自分が華奢で非力なのは五歳の頃から分かっていたから、その頃からずっと鍛錬を続けて、今は剣も槍も弓も体術もスキルになってる。君達が見ている解剖図鑑も、八歳に成ってダンジョンに入れる様になってから、解体屋なんて揶揄われながらも魔物の解体を続けた成果だ。それだけの準備をしてきたから、私は何歩も先を行けている。
ま、準備が出来ていないのを悪いとは言わないけどね。君達もミリアやケニッカみたいに、ダンジョンを楽しみながら普通に強く成っていけばいいんだよ。先へ行ってる人を羨ましがったって、何もいい事なんて無いんだから」
そして、道理を解きほぐしてみれば、大半はうんうんと頷いているけれど、まだ納得出来ない様子の少女達。
「も~、違うよね? 馬鹿な男子が挑発してくるから、腹を立てて見返してやろうって気持ちになってるだけだよね? でも私に言わせて貰うと、管理ダンジョンの低階層だからって、馬鹿な真似をしていたら死ぬかも知れないんだよ? それなのにそのダンジョンの事で人を馬鹿にしたり出来るのは、ダンジョンを舐め切っているんだよ?
遠からず死ぬね。そしてそんな馬鹿の挑発に乗っかった子も、死なないまでも大怪我するね。
そこの所、ちゃんと分かってる?」
だから、遠回しにそれが本当の理由では無いよねと促すのはやめて、直截に引っ掛かっているだろう部分を指摘すれば、流石に少女達もぎょっと目を見開いた。
「い、幾らガルダーでも、流石にそんな馬鹿はしないと思うわ!?」
少女が思わず叫んだ名前に覚えが有ったから、私はミリアとケニッカに視線を投げる。
「う、うん、大体問題を起こすのはガルダーだよ?」
確認が取れて、ちょっとげんなりと肩を落としてしまう。
「ねぇ、あの子が原因ならこんな事にならないよね? 登録の時の評価を教えてないの?」
「あ! ――言ってなかった。確かしっかりしたリーダーの言う事を聞くならランクFだって」
「つまり、実質はG。一番下のランクだよ」
「え!? あんなに偉そうなのに!?」
「試験官に真っ正面から突撃して、回り込む事も何もしないで盾を持っているなんて卑怯だとか喚き立てて、最後は疲れ切って立ち上がれなくなって終わり。
あ! 試験の事は言っちゃ駄目だったね。まぁ、あの子の内容は参考にならないから、まだ登録して無い子は聞かなかった事にして。
でも、分かるよね? きっとあの子はアスレチックで自信満々にジャンプして、目測を誤ってそのままマットも無い場所に頭から落ちてくよ。
それか天井の低い迷宮洞窟で仲間を置き去りに走り出して、振り上げた剣を天井に弾かれて、何も持たないまま頭から魔物に突っ込んでくよ。
格好良く魔物を斃している場面なんか、一つも思い浮かばないんだけど?」
「ああ! 本当だ! 全部ガルダーならやりそう!!」
「やばいよ!? ガルダーが人の言う事なんて聞きっこない!!」
「そして今日は闇の日だ。疾っくにパーティから追い出されたあの子が一人でダンジョンの奥に――」
「「「「やばいっっ!!!」」」」
少女達の叫び声が重なる。
「私が言うのも何だけどさ、幾ら嫌ってるからって、もう死んじゃう子をそんな風に突き放せるものなんだね、学校って。死なない様に性根を叩き直そうとかしないんだ」
必死に首を振って拒絶の意を示す少女達に、私はふわりと笑いかける。
「その様子じゃ、君達も今日はダンジョンに入れないね。
でも分かったよね? ダンジョンでは冷静さを保って慎重に進まないと駄目なんだよ。馬鹿な挑発に乗るなんて論外。ダンジョンを舐めてたら死ぬからね?
私も今日は少し気が晴れなくてね、ダンジョンで憂さ晴らししようとしていたんだけど、君達の話を聞いて自責の念に駆られたよ。
私も今日は大人しく自分を省みる事にするから、君達も帰りな。あの子の事が心配かも知れないけれど、ダンジョンの中で追い駆けっこする羽目になった方が余程危険だ。大丈夫だよ、闇の日だから人も多いし、馬鹿な真似をしようとしても然う然う出来るものじゃ無いさ」
刺した釘は大きかったかも知れないけれど、きっと良い方向に変わる筈とそう信じて、私は言葉通り大人しく館へ帰ったのである。
愛されるお馬鹿キャラを書くのって難しい。




