(70)続・ショー君の謎
思い込みって怖いよねって話。
ショーが語ったダンジョン攻略情報は、瞬く間にミリアとケニッカの友人間で共有された。
それも当然だ。非力な少女達でも、安全に強く成る為の情報なのだから、敵対でもしていない限り秘密にする理由は無い。
とは言え、そもそも彼女達がダンジョンに潜るのは、ダンジョンが一番の娯楽だからだ。誰かに潜る事を要求されているものでも無ければ、潜らなければならない理由が有るものでも無い。
単純に楽しくて潜っているからこそ、そこで怪我をするなんて馬鹿馬鹿しい事は出来るだけ回避したいのである。
何と言っても、ダンジョンには一つ一つ障害をクリアして階層を潜っていく楽しみが有る。
其処で手に入った魔石はそのままお小遣いになる。
そして位階が上がれば体も頑丈になるし、もしかしたら魔法を使える様になるかも知れないのだ。
これがダンジョン公開前なら、探索者と言われても危険な仕事をしている怖い人との印象が強かったに違いない。
しかし、ダンジョンが公開されて、星々の様に光が煌めく洞窟や、小鳥の鳴き声が響く洞窟、可愛らしい水玉のスライムが跳ねるのと戯れた記憶を持つ子供達には、既にそんな壁は存在しない。
少なくとも管理ダンジョンの低階層に限るなら、守るべき事を守っていれば然う然う怪我もしない遊び場で、非管理ダンジョンに行ける本物の探索者も、その鍛えた先に居るのだと、そう子供達は理解した。
壁では無く坂道だと気付けたそれだけで、印象は大きく変わるのである。
だからこその娯楽。楽しく遊んで実力を付けて、場合によってはそのまま探索者に成るも良し、他の道を選んだとしても位階が上がっていれば出来る事も増えるだろう。
そんな最高の娯楽。
しかし、ダンジョンに潜り始めた子供達は、否応無く気が付いていく。
男女の性差が思いの外に大きい事に。
学校でも男は力が強く、女は魔力が強いと習ったけれど、そんな事は何の慰めにもならない。
魔法を使う為にはダンジョンで位階を上げるしか無いのに、魔法を覚えられる深みまでダンジョンを潜る事が出来ないのだから。
其処を無理矢理突破しようとすると、どうしても無茶をするしか無い。無茶をすれば怪我をする。怪我をしたら家族からダンジョン行きを禁止されて、夢の様な楽しい日々は其処で終わる。
ショーが齎した攻略情報は、そんな壁を坂道に変えてくれる素晴らしい情報だったのである。
「わ、私もその手引き書を見たい! 今日の放課後、一緒に来てくれる!?」
「「「私も一緒に行く!」」」
そんな声が次々と上がり、既に探索者資格を得ている少女達だけでは無く、これから登録する予定の少女達も連れ立って、探索者ギルドへと向かう事になった。
攻略の順序については手引き書に書かれていないから、ミリアとケニッカが補足しつつ、それから数日間は放課後ギルドの資料室で勉強会となった。
そしてその五日目の水の日、翌日の闇の日の休みに皆でダンジョンに入る事にして、結構な雨の日にも拘わらずギルドで最後の勉強会を始めたら、手引き書の並びが入れ替わっていて、一番始めにダンジョンのお勧め攻略順序が追加されていた。
それを見て憤激するミリア。
「あー!! これ、ショー君のしてくれた説明!! 勝手にパクるなんて赦されな――」
手引き書の奥付を見て文句を付けようとしていたミリアが、その動きを止める。
覗き込んだケニッカも口を開いて動きを止めた。
何だろうと気になった友人の一人が、別の写本の奥付を見る。
「あー、ショーって書いてるね?」
それを聞いて、解剖図鑑を手にしていた少女も、その奥付を開いてみた。
「こっちにも、ショーって有るよ?」
「本当だ。でも、一年以上も前だよ?」
その言葉に、慌てて解剖図鑑の奥付を見るミリアとケニッカ。
「ほ、本当だ!? ショー君の書いた本だったんだ!!」
「ショー君って一体何者なの!?」
ショー君の謎は、益々深まっていったのである。
~※~※~※~
同じ頃、ショーことプルーフィアは、雨に降られる四阿の床を、服が汚れるのも気にせずごろごろと転がっていた。
「あああぁぁああ…………そんな事だったなんてぇええ…………」
ごろごろ転がる私を呆れた笑いを浮かべて見詰めるカヌレと、掌で額を押さえて「あ痛っ」て表情のジーゴ。
「成る程、確かに供え物は目の前に置いて捧げますな。これは盲点でしたぞ」
「五年~~……五年もこんな事で~~……」
四阿の前には鉄塔が立てられていて、鉄塔から伸びた幾本もの腕の先にも、鉄塔の周りに並べられた幾枚もの皿の上にも、更には四阿の中にまで侵食する様にお供え物が並べられた中で、四阿の中でもプルーフィア達の目の前に有る皿のお供え物だけが消えていた。
「他の神様にはちゃんとお供えしてたのにぃいい……」
「もう! プルーフィア様! 今はそんな事を嘆くよりも、用意したお供え物をディーン様に受け取って貰うのが先でしょう!?」
容赦無い突っ込みはカヌレの美徳だ。
「……そうね! カヌレの意見が正しい!」
「ですな! 儂も手伝いますぞ!」
三人雨の中に飛び出して、お供え物を回収して、四阿へと戻る。
其処に雷を落としたりはしないだろうと、流石に五年の付き合いだからディーン様の事は信じている。
濡れたクッキーを捧げるのは失礼だと、覆いを付けて無事な捧げ物を寄せ集め、ディーン様に平身低頭してお詫びの言葉と共に祈りを込める。
「天地を繋ぐ偉大なる御方、五年もの長きに亘りお付き合い頂いた、茸を育てるぱちぱちの神様、雷の神ディーン様にお祈り致します。お供えの作法についての勘違いに漸く気が付き、お供え物が出来る様になりました。今は数だけ揃えた茸クッキーにチーズ茸焼きしかございませんが、次こそは今迄の鬱憤も晴れる素晴らしい茸料理の数々をご用意させて頂きます。それまでどうかこの茸クッキーとチーズ茸焼きを摘まんでお待ち頂きたく、今迄やきもきさせてしまいました事、誠に申し訳御座いません」
すると鉄塔にピシャリと軽い雷が落ちて、捧げ物は皿の上から消えたのである。
そのまま雷の音が遠くなるまで伏せていたプルーフィアは、日が差してきた頃になって漸くその場にくしゃりと潰れた。
「ぁぁああぁああぁああああぁぁぁあああぁあぁ……」
悶えるプルーフィア。
「ははははははは、はっはははははは……」
笑うジーゴ。
「次の雨の日を調べておかないといけませんねぇ」
マイペースなカヌレ。
確かにそれは記念すべき日には違い無い。
しかし今は唯、プルーフィアも慚愧に震えるばかりだったのである。
五年も~とプルーフィアはのたうち回っております。




