表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第三章 神罰の雷《いかづち》
66/95

(66)ロマンチック死すべし

 プルーフィアの居ない所で進む事態。

 グリムフィード領のダンジョンについて知りたければ、探索者ギルドの資料室を訪れよ。

 そう言われる程に、探索者ギルドの資料室には、ダンジョンに関する様々な資料が取り揃えられていた。

 数年前までは主に古い書物の目がしぱしぱする匂いに支配されていたその部屋に、今は趣を異にする一画が設けられている。

 管理ダンジョンの低階層に現れる魔物についての解剖図鑑と、その周辺には剥製と見紛う精巧な魔物の生体模型が飾られた一画だ。


 解剖図鑑を提供したのは当時八歳のショーことプルーフィア。

 ショーとして提出した解剖図鑑の原本は、保護の魔法を掛けられて、魔導具で写しを取られた後に、ショーへと返却されている。


 解剖図鑑の正しさを検証したのは、当時の我が道を行く解体屋少年を、面白がりながらも応援していた探索者達。

 ギルドからの依頼で解剖図鑑の裏付けを取った探索者達からは、今の上位探索者が多く輩出されている。解剖図鑑に載っているのは低階層の魔物ばかりだが、魔物の体の構造から急所を割り出すその考え方に、感銘を受けたが故の結果だ。


 だからこそそれらの上位探索者達は、ショーに或る種の敬意を持ち、同じ探索者の舞台へと上がってくる時を心待ちにしていた。


 そんな彼らの間に、或る時激震が走る事になる。


「おい、来てみろ! ショーの新刊が入ってるぞ!」

「あ? ――まさか、もうデビューしやがったのか!?」

「いいから来いって!」


 無名だった頃とは違い、既に名も知られているとなれば、その行動も注視されている。

 彼らが低階層の魔物しか示されていない筈の解剖図鑑を手に取ったり、新しく入荷したこれも十階層迄の攻略手引き書を感心した様子で読み込んでいたり、何時の間にか増えている生体模型を弄くり回しているのを目にして、どうせ低階層についてしか書かれていないと一度手に取った後は見向きもしなかった自分達は、何かを間違えていたのだろうかと、そんな事を考える様になった探索者も出始めていた。


 因みに、魔物の生体模型は誰かが寄贈を受けたのだろうと探索者ギルドの中でも思われていたが、実際は勝手に入って勝手に資料室の模様替えをして勝手に飾り付けていったプルーフィアの仕業で有る。

 ぱかっと開けば体内の様子も見る事が出来る、プルーフィアの自信作だった。


 それらの解剖図鑑や攻略手引き書、生体模型の数々を、上位冒険者に倣って再び目を通した探索者達の中にも、今更ながら衝撃を受けた者が居た。

 ここに書かれている事に対して、自分達はどれだけ力任せで考え無しの探索をしていたのかと愕然とした探索者達だ。

 真剣になって読み込んで、仲間にも薦めて、実戦に取り入れて、また衝撃を受ける。

 上位の探索者達と自分達との違いはこれだったのかと素直に納得し、頭を使った探索の研鑽に励み始める事になる。


 何れその解剖図鑑を書いたのが当時八歳の子供と知ったならば複雑な感情も抱くのだろうが、プルーフィアが自分の為に調べ上げ、その後は軽い気持ちでギルドに提供した諸々の資料は、プルーフィアが想定した以上にグリムフィード領の探索者の実力を引き上げていく事になる。


 だが、今はまだその最初の取っ掛かり。

 解剖図鑑を復習し、攻略手引き書を捲りながら「相変わらずだ」と談笑する上位探索者達の脇で、しれっと複数写本されている解剖図鑑の一冊を手に取り、攻略手引き書も同時に広げて、上位探索者達の会話を盗み聞きに耳を澄ませていたのである。


 尤も、ショーの攻略手引き書が更に広く知れ渡る様になると、全く別の部分で大きな盛り上がりを見せた。

 魔導具での写本には原本の落書きもきっちりと写されている。

 その中の一言が、多くの探索者達のハートにぶっすりと突き刺さったのだ。



 其処はジュエルスター洞窟。

 観光する探索者の他には閑散としていたそのダンジョンは、嘗て無い大賑わいを見せていた。

 どの階層へ潜っても、壁のジュエルスターに群がる探索者の姿が有る。

 男だけで無く女の探索者も居る中で、共通しているのは誰もがとてもいい笑顔を浮かべている事だろうか。

 しかし、手に持つ魔石が括り付けられた鎚は、丸で恨みを打ち込むが如くジュエルスターへと叩き付けられていく。

 そんな彼らの笑顔がより一層輝くのは、観光目的でやって来た二人組の探索者を相手にする時だ。


「……おい、流石にこれは酷くねぇか?」

「ねぇ~……もう帰ろうよぉ」


 そんな二人組が現れた途端、彼らの笑顔は更に深まり、鎚音はより激しく打ち鳴らされる。


「おや! どうなさったかね!」


 話し掛ける言葉も、異様なハイテンションだ。


「……折角の綺麗な洞窟なんだぜ? なぁ、此処はそっとしておけよ?」


 その言葉に、にかっとした笑顔が集中する。

 引き攣っている様にも見える、そのにっかにかの笑顔が。


「何を言い出すのかね! ピカピカ光るだけの洞窟なんて、何時の話をしているのかね!

 今や時代はその名前の通りのジュエルスター! 暗闇の中から、一つまた一つと光を灯していくその神秘的な光景を見たいとは思わないのかね! まだ誰も見た事の無いその光景を!」


 余りにはっきりと言い切られたその言葉と、想像したその素晴らしい一時に、言われた二人組の言葉が詰まる。


 しかし、そんな日は来ない。

 彼らには洞窟の天井に埋まっているジュエルスターを討伐したりは出来無いから。


 もし天井のジュエルスターも全て落とせたとしても、そんな日は来ない。

 何故ならこのジュエルスター洞窟は、独り身な探索者の巣窟と化してしまっているから。


 もしもそんな中に怪しい雰囲気を出し始めた二人組が現れたとしたなら、直ぐににっかり笑顔でけたたましい鎚音を掻き鳴らす彼らがその周りを取り囲む事だろう。

 朗らかに語り掛ける事も有るかも知れない。これ見よがしにその日の成果を見せ付けるかも知れない。

 しかし、そんな彼らがにっかり笑った目と目で交わし合う言葉は一つだけだ。


(……ロマンチック死すべし)

    (ロマンチック死すべし!)

  (ロマンチック死すべし……)


 彼らの心は、今や一つになろうとしていた。

 今日もジュエルスター洞窟には、高らかに鎚の音が響き渡っている。

 爆発しろとかいう言葉が無いと直截的な物言いになるw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ