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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第三章 神罰の雷《いかづち》
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(63)銀色のタグ

 やばい、ストックが切れてたよ。

 ランクC試験を受けた次の日、お昼に探索者ギルドへと向かうと、何故か受付窓口で渡された登録タグが銀色だった。


「間違えてない? 銀色ってランクBだよね?」

「いいえ、ギルド長の指示通りです。

 ランクCは非管理ダンジョンでパーティ推奨とされてますが、ソロで探索する事を特に制限はしてません。ランクBとの違いはギルドからの信用ですね。その点ショー君は以前にも解剖図鑑を提供頂き、今回も管理ダンジョン攻略手引き書を提供頂きました。ランクC試験も条件を満たして即受験するのでは無く、全ての管理ダンジョンを十階層迄潜ってからと、慎重に行動しているのが分かります。更にそれをこの短期間で実現しているのも含め、試験でもその実力を確認しました。

 誰にも憚る事の無い文句無しのランクBですよ。

 とは言っても、ショー君の慎重さを信じての昇格ですから、そこは間違え無い様に」


 登録タグはランクD迄が黒色で、ランクCで銅色、ランクBで銀色、ランクAで金色になる。

 ランクC試験を受けた筈なのに、何故かランクBに成っていた件について。

 ちょっとネタに走ってしまいたくなったけれど、受け取った掌のタグは、変わらず銀色のままだ。

 ちょっと意識的に深呼吸して、この訳の分からない状況を受け入れた。


 銅のタグが無いのなら! 銀のタグを使ったらいいじゃない!


 多少こう色々思う所が有って自棄っぱちになっているかも知れないけれど、何れにしても登録タグは普段「虚空蔵屋敷」の中だ。外に取り出すのは、ダンジョンの中なら前掛け付きの番兵の前だけ。ギルドの中でも殆ど取り出す事は無い。

 それなら、いざと言う時の紋所代わりに悪くは無いと思いたい。



 ~※~※~※~



「それで今日は早上がりなんですね。最近はプルーフィア様も全然遊んでくれないから寂しいですよ?」


 久々にカヌレが脇に控えているけれど、言動は控えないのがカヌレかも知れない。

 そんな馬鹿な事を思いながらも、変わらないカヌレとの遣り取りは癒しだ。


「早上がりって訳でも無いけど。流石の鳥の洞窟も、一番下には人が多くって」

「プルーフィア様はぼっちでらっしゃいますから」


 そして何気に辛辣だ。

 私とダンジョンに行けなくなってからは、ロジアとユイリと一緒に遊んでいると聞いているけど、変な影響を与えないかと心配になる時が有る。

 それでいてカヌレは、「ビッグマムになる」とか訳の分からない事を言っているんだから、本当に早い所いい人を見繕わないといけないかも知れない。


「そうじゃなくてね、皆煌々と輝煌石の灯りを点けてるから効率が悪いんだよ。鳥目相手に灯りなんて点けない方がいいのに。

 早朝と深夜なら、やっぱり早朝だろうね」

「やっぱりぼっちですよ? 仲間を作ったりはしないのですか?」

「だから、カヌレが探索者に成ってくれれば良かったのに。或る程度事情を知っていて、信用出来る人ってなると難しいね」


 私が領主の娘と知っていて、それでいて正体を隠して探索者をしているのは教会の目を欺く為と理解してくれて、いざ教会と対決するとなったなら協力してくれそうな人。

 うん、中々に難しい。

 既に原作ゲームからは懸け離れているけれど、此処は王国で、王国に教会は健在で、教会は瀆職に塗れ、地方を食い物にしようとしている。

 グリムフィード領が教会排斥派に名を連ねる限りは、対立は必然だ。

 軍備なんかの真っ当な方法や、既に決めた魔境の開発はお父様に任せるとしても、前世の記憶を持っていて魔術師でもある私は、確かに切り札とも成る存在なのだ。

 迂闊に仲間を募ったりは出来る話じゃ無い。


 そして、幾ら切り札に成り得ると言っても、力を磨かなければ切り札たり得ないのは明白だ。

 だからこそ、グリムフィード伯爵家息女のプルーフィアは、自分の時間を全て力を磨く事に費やしている。

 そういう事になっていた。


 そう言いながらも、その事実を知っている人に、もうそれを素直に信じている人は居ないけれど。

 そういう理由に託けて、私がダンジョンを全力で楽しんでいるのは、家族全員に既にばれてしまっている。

 カヌレの演技が芝居掛かり過ぎていた。その話題が出た時だけ、悲劇のお嬢様付きメイドをしていては、疑うなと言う方が無理が有る。

 そして私もきっとわくわくし過ぎていたのだろう。魔物の何処を傷付ければ止めになったかなんて事を、嬉々として語る八歳児もそうは居ないに違い無い。


 結論として、そもそも私が家族の危機を一度救っているのだからと、私の好きにすることを許されている状態だ。

 それに甘えているとは知りながらも、建前も嘘では無いからと、私は只管突き進んでいる。


 カヌレにぼっちと言われても仕方が無いかも知れない。

 でも、子供時代の私の周りに一緒に遊んでくれる友達なんて居なかったから、魂との合一を果たしていなかったとしても、きっと状況は変わらなかったに違い無い。


 と、其処まで考えて気持ちを落ち着かせた私は、次の日から早速早朝ダンジョンへ行く事にした。

 農家もまだ起きて来ない暁闇の中を疾駆する。不思議と清々しくて、きりりと身が引き締まる感じ。

 その気持ちの儘に鳥の洞窟最下層(二十階層)まで駆け下りて、流石に人の姿を見ない中、殲滅を開始する。


 因みに、鳥の洞窟の低階層で出て来る小鳥は青色。十五階層を超えた辺りから緑色の小鳥が交じり始めて、最下層の二十階層で初めて赤い小鳥が現れる。

 青い小鳥は雀くらい。緑の小鳥はそれより少し大きくて、赤い小鳥は鳩程の大きさ。でも鳩より雀に近いスマートな体型で、突撃してくる時はその翼が刃となるから結構危険。

 それで全部と思われていたけれど、最下層には薬草のコロニーから飛び出てこない小鳥が居るのに私は昨日気付いている。

 大きさは青い小鳥と同じくらいの黄色い小鳥。


 一つの広場に六十羽の内、黄色い小鳥は一羽か二羽居れば良い方、赤い小鳥は一割の六から七羽、残り五十数羽を青と緑の小鳥が分け合っている。

 とても気になる。気にしない方がおかしい。


 そこで私が編み出したのが、ダンジョンの中で魔石を砕いて、無理矢理位階を上げる方法。

 武具の強化が、斃された魔物が魔石に成る際の余波で付与されている物だと考えると、魔石を砕いて魔力に戻したならどれだけの固有魔力が付与されるのだろうかと、そんな事を考えてしまったのだ。

 実際にその目論見は巧く行って、魔石を砕いてもダンジョン固有の魔力付与は為されていた。それもかなり強力に。

 二十階層迄しか無い鳥の洞窟だけど、恐らく普通の青い小鳥の魔力だけでも二十五階層相当は付与されそうな予感が有る。黄色い小鳥の魔力単体で見ても、何れ同じだけ強化出来るだろう。


 その時に何が出来る様になっているか、今からとても楽しみだ。


 ただ、魔石を砕くのがとても五月蠅い。

 魔石同士を超高速でぶつけ合う事数十回は必要になるから、人が居るとどうしても気を惹くし、それで折角稼いだ魔石を砕いていると知れたなら何を言われるか分からない。

 悔しいけれど、それも含めてぼっち探索は宿命付けられてしまっている。


 他のダンジョンはどうかと言えば、早朝探索から戻って朝ご飯を食べた後に、スピンボール・ルーレットへと通っている。

 何故其処なのかと問われたなら、他の人が居ないから。

 そして、得られる固有魔法が有用だからと答えるだろう。


 うん、地味にも思える転がす魔法も、突撃して来る大軍を相手に放つならば、酷い混乱を齎す悪夢の魔法となるに違い無い。

 足払いを掛ける様なものと思えば、個人戦でも充分以上に活躍するだろう。


 そして、ダンジョン自体が深いから、より高い位階に至れると期待出来るのである。


 お昼はダンジョンから戻って館で食べる事にした。そして午後はお勉強と鍛錬。

 毎日の様に私の位階が上がっているから、その状態で新しく使える様に成ったスキルが無いか確かめるのが一つ、普段の生活に手加減する為の調整が一つ、そしてダンジョン攻略に特化した変な癖を身に付けない為にも、鍛錬は必要だった。

 家族からは私が館に居るのを歓迎されたけれど、私は大抵お喋りする時も何かの作業をしている途中で、それを見て育ったロジアやユイリの他にも、兄姉に父母、使用人までが、何かしらの趣味に手を付ける様になった。

 スキルが在る世の中だから、私は良い事だと思っているけれど。

 いや、シャーチお爺様が絵を描いていたのだから、趣味に打ち込むのは御家芸に違い無い。


 こうして私自身の強化は怖ろしい程順調に進みつつ、日々は過ぎて行ったのである。

 酷い夢を見た。

 フルダイブVRゲームを兄と一緒に遊んでいる設定。荒野。左手に湖とその手前に建物。右手は丘になっていてその上に何かイベントが起こりそうな屋敷。

 装備は特殊部隊的な黒いジャケット。矢鱈でかいスナイパーライフル的なのを拾う。

 巨大なマンモスもヘッドショットすれば一撃な凄い武器。何かクエストを受けていて、悪漢のアジトだとか言うので湖手前の建物をその銃で爆散させる。

兄「こんな武器はあかんわ。捨てて行こ」

 強過ぎる武器を持つとゲームが面白く無くなると、折角の強い武器を手放そうとする兄。

 私は、「まだその武器を撃ってない」と、兄が置いて行った銃を拾って撃ったのち、そのまま持って行く。面白く無さそうに私を見る兄。

 丘の上の館へと進んでいると、その時まで気が付いていなかった周りの靄が、チュートリアルは終わりとでも言う様に晴れて、その向こうから飛ぶ様に駆けてきた巨大マンモスが湖の周りを地響きを立てて走り抜けて行き、ええっと思った時に後ろの方に居た兄が「そこ! 蜘蛛の魔物!」と叫ぶ。

 兄へと振り向こうとすると、猛烈な勢いで駆けてくる牙を剥いた馬。手の銃を最小出力で撃ち放ち、馬をつんのめさせる様に撃破。恨みがましい表情で倒れる馬。兄へと視線を向けようとして顔を上げると、視界に入る湖。湖は遥か先なのに、何故か湖に引き摺り込まれて、直後骨の頭の巨大魚とナイフ一本で格闘戦。

 兄はどうしたのかも蜘蛛の魔物はどうしたのかも分からないまま魚相手に劣勢。

 そこで目が覚めた。

 なんっちゅう寝覚めの悪いゆめだろうか……。


 教訓。

 ・強い武器を手放すなんてとんでもない!

 ・荒野で迷彩でも無いのにうろうろするなんてとんでもない! 隠れろ! そして警戒しろ!


 いや、まじで有り得へんわ。巨大な魔物が闊歩する中をふらふらするなんて怖すぎ。

 というか、私の視界の外で兄が魔物に襲われているとかそれも怖すぎるから、フルダイブVRゲームが出たとしても、私はぼっちソロプレイヤー確定やね。

 それで、本作のプルーフィアも頭おかしい。巨大魔物と何タイマンはってんのかと。隠れん坊の才能に全振りしたディジーリアの方が余程真面。

 という事で、本作主人公はゲーム脳で遣り込みプレイしているそんな主人公だと判明してしまったのだった。うん、間違ってはいない。

 しかしえらい夢を見てしまったぜ。最近その手のゲームもしてないのにねぇ?

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