(61)姪が何か言っているな
おー姪がー!
「鳥の洞窟なら一番下まで行けると思うけど、スピンボール・ルーレットは二十階層も怪しいかな。何か新しい技を見付けられたなら別だけどね。ジュエルスターも防御を抜けなくなったらそこで撤収だね。単純に硬いのはどうにも成らないよ。巣穴も同じで弱点が無い魔物が出たらその階層はスキップするしか無いね」
昼飯を食べながら、姪が何かを言っていた。
背こそ昔よりは高くなったとは言え、まだまだ小さな姪のプルーフィアが。
「やっぱり十階層迄は位階を上げなくても通じると知っているから何とか成るけど、十階層を超えてくると非力な私じゃ厳しいね。鳥の洞窟で位階を先に二十まで上げておくのが正解かな。鳥魔法も早い所覚えたいし」
非力だとは言うが、午前の間に苦戦した場面は一つも見ていない。
身の熟しや正確さは既に飛び抜けていて、鳥の洞窟で始めに突撃してきた鳥をあしらったのは演武の様だった。
「でも一番疲れるのは迷宮洞窟かも。見通しの悪いのって凄い大変だよ。慣れたらそうでも無いかも知れないけど、今は迷宮洞窟に潜ったら、残りの半日はダンジョンには潜りたくないかなぁ」
そもそも午前と午後で別のダンジョンに潜る探索者の方が少ない。疲れたら休むと言っているだけ仕事中毒な役所の知り合いよりましかも知れないが、勤勉にも程が有る。
「あ! アスレチックは凄い楽しいよね! 記録を競ってもいたみたいだし、あれは挑戦しなくちゃね♪」
それもこれもこの姪がダンジョンを楽しんでいるからだと思うと、アロンドも笑うしか無かった。
自らを教会に対する囮で切り札だと言った言葉には、領主一族としての覚悟を感じた。
しかしそれよりも、この姪のプルーフィアがダンジョンを心から楽しんでいるからこその快進撃なのだろう。
食事を終えて、試験の続きへと向かう間も姪の口が止まらない。
「――ダンジョンで手に入れられる魔力が複合だって分かったのは朗報だね。どのダンジョンでも大抵無属性魔力も付与されるから、王都の騎士が強くても、本当にそこそこ対抗出来るのかも。でも巣穴に居た兵士はお粗末過ぎたしなぁ。固有魔法の種類で言えばグリムフィードの方が豊富なんだけど。魔術師に出て来られるのは本当に怖いけど、王都の魔術師事情ってどうなってるんだろうね?」
ジュエルスター洞窟に入っても。
「――もう邪魔。邪魔邪魔邪魔! 星を見たいなら外で見ればいいのに、何でダンジョンなのさ。暗がりで如何わしい事するつもりにしか思えないし! ロマンチック死すべし!
ねぇ、此処は三階層から殲滅しない? それがいいよ! いや、寧ろ独り身の探索者に斃し方を開示しよう。うん、それがいいね! 本当に邪魔!」
「それは後にしてくれ。今日は試験だ。十五階層迄間違い無く斃せる事だけ示してくれればいいぞ」
苦笑しながら熱り立つ姪を宥めつつ、十一階層迄降りる。
「此処でも役に立つのは魔石だね。無属性魔力で撃ち出してもいいんだけど、私の得物を育てたいからピックハンマーに括り付けて打ち付けてるね。こんな感じで――」
姪が魔石を取り付けたのは、釣り竿程に長い奇妙なポールハンマーだ。釣り竿と同じく良く撓り、とても狙いを付けられそうも無いのに、器用に魔石と同じ程度の大きさをしたジュエルスターへと打ち下ろしていく。
「――ほら、こんな感じで遣り方さえ知ってれば誰でも出来るよ? 魔石の産出量も増えるし、これは情報開示した方がいいかな? と言っても、時々してくる攻撃が嫌らしいから、対策は必要だけど。ゴーグルとか着ければ大丈夫かな?」
また姪が何かを言っている。
きっとこれは、遣り方を知っているからと言って誰にでも出来る事では無いだろう。
魔石をぶつける勢いから調べてみなければ分からないが、あの勢いで魔石を叩き付けられる探索者は一握りだ。
結局一度たりとて外す事無く十五階層までのジュエルスターを斃し、ジュエルスター洞窟を後にする。
最後に向かった巣穴のダンジョンでも、姪の口から言葉は止まらず溢れ続ける。
「――此処も少し情け無いね。大物と言っても落とす魔石は二十個程度、という事は真ん丸スライム二十匹と同じでしょ? 体が大きくて鈍いなら急所を突き放題なのに、あんなにガッツンガッツン殴って、武具の整備だけで赤字だよ。ハンマーならまだましだけど、剣なんて刃が潰れてもう鈍器だよ、鈍器。うわっ、彼処の人達吠えてるよ。まだ四階層だよ? 間違えた遣り方を力業で押し通して来ちゃうと、ああなっちゃうのかな? おかしな兵士も居たし、此処は遣り方をもっと考えないと駄目だね」
そんな言葉を証明する様に、十一階層に降りた姪は、一人で苦戦する事も無く巣穴の巨大な魔物を下していった。
直立する鎧獣の頭に魔石を付けたポールハンマーを落として、眼から槍を突き込み止めを刺す。
巨大な蜥蜴の頭に魔石を付けたポールハンマーを落として、脇の下から突き入れた槍で心臓を貫く。
確かに魔石はとても有用で、この情報を解禁するだけでも魔石の産出量は増大するだろう。
しかしそれ以上に、見上げる程の魔物へと怯まず立ち向かう姪が、何よりも傑物だと知れたのが大きかった。
次は駄目かも知れない。今の魔物とは偶々相性が良かっただけ。と、そんな不安を口にしながらも、十五階層迄あっさりと仕留めて巣穴のダンジョンも引き上げる。
「う~ん……」
「何を悩んでいる? 試験は文句の付け様も無く合格だぞ?」
「……巧く行き過ぎてる。これは何処かに落とし穴が在るか、絶対に後で大変になる前兆だよ?」
また姪が何かを言っている。
「俺からすれば、この結果はお前の五歳までの苦労と五歳からの鍛錬の賜物だ。今苦労しない様に昔苦労しただけだな。確かにここで調子に乗れば後で大変になるかも知れないが、そんな事はするつもりも無いんだろう?」
「そうだけどね。――そっかー、今迄の苦労と鍛錬の御蔭かぁ」
「それと、お前は自分を非力だと良く言っているが、巣穴の十五階層の魔物を相手に二撃で終わらせる奴は非力とは言わん」
「それは、まぁね。
……器用さ特化で全部がクリティカルなのかなぁ?」
良く分からない事を言っている姪から古い登録タグを受け取り、新しい登録タグは明日の昼になると告げて、探索者ギルドの前で別れた。
「あ、ギルド長! ショー君の試験はどうなりました?」
「これからそれの協議だな。メリンダとピスケッタは他の幹部連中を集めて俺の部屋へ来い」
「え~、私は~?」
「お前は後でメリンダから教えて貰え」
そしてエルザも居るギルド長室で待っていると、受付窓口を取り纏めているメリンダとピスケッタが、オルカス達主要メンバーを連れてやって来た。
「良し、来たな。まぁ座れ。時間はそれ程取らせんよ」
「ショーのランクC試験の結果だろ? 人を集める意味は有るのか?」
「まぁ試験は合格だが、その上でランクを上げようと思っている。だがその前に一応意見を聞こうと思ってな。俺よりもお前達の方が普段の探索者を知っているだろう? 嫉妬で馬鹿をやる奴らが出そうか聞いておきたい」
「う~ん、でもショー君って斥候タイプなんでしょう? ランクCの優秀な斥候に手を出す探索者が居たら総好かんよ? 強引にパーティに加えようとはするかも知れないけど、そこは私達が目を光らせているし」
「そうだな。寧ろ斥候の重要性を知らない新人の方が、何をするか分からないな。とは言っても、それをあしらえなければランクの高さも疑われるだろうが」
「ショーなら自分で何とかするだろ。それこそ問答無用でぐしゃっとな」
此処に居るのはショーが実際にやった制裁を知る者ばかりだった為に、男は顔を歪ませ女は鼻を鳴らしとしたが、どうにも誤解が有る様だと見てアロンドはもう一度言葉を繰り返した。
「斥候タイプだとか何処から出て来た話か知らんが、ショーは巣穴の十五階層でも二撃で仕留める万能のソロだぞ?
それに、ランクC試験が合格の上で、更にランクを上げる話だ。つまりだ、俺がショーにやろうとしているランクはBだ」
ふ。こっちのストックも書き溜めないとな!(冒険者に成るのです×3を書いてる内にストックが残り2になってた)




