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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第三章 神罰の雷《いかづち》
56/95

(56)まだお供えも出来ない神様

お嬢様ムーブ詐欺。

 光の日の朝は学校で、午後には鳥の洞窟へ。

 土の日の朝に鳥の洞窟で、午後はスピンボール・ルーレットへ。

 火の日の朝に鳥の洞窟で、午後はスピンボール・ルーレットへ。

 風の日の朝にスピンボール・ルーレットで、午後は犀の河原へ。

 水の日の朝に腐葉土で、午後は樹海と真ん丸スライムへ。

 そして闇の日はお休みとした。


 一週間で管理ダンジョンの半分を十階層まで潜っているのは、中々順調なのでは無いだろうか。

 今日をお休みとしたのは、流石に明日の学校で、情け無い所を見せない様に勉強する為だ。

 ロジアとユイリが何故かわくわくしているけれど……うん、二人ともお留守番だよ?

 遊びに来てもいいかも知れないけれど、それは事前に了解を取る必要が有る。


 そんな事を言うと、ロジアもユイリも、えっと口を開けて驚いている。


「ロジアもユイリも、学校のお勉強に参加したいなら、図書室の本を殆ど読んでしまうくらいにお勉強が必要ね。

 でも、今はそれよりもしっかり運動して、体を鍛えるのが大切よ?

 私は体が弱くて直ぐに熱が出ちゃったから、そういう事が出来無かったの。

 でもロジアもユイリも元気一杯だから、パルックお爺さんのお手伝いを一杯して、私に二人で育てた美味しい野菜を食べさせてくれるかな?」


 何故かロジアもユイリも私に懐いていて、それが可愛くも有るのだけれど、ちょっと不思議にも思っている。殆ど館に居着かない私の、一体何を気に入ったのだろう。

 その根本たる原因をとか言っても、そういう経験は前世でも薄っぺらな私には、推測する事も出来無いんだよ。


 兎に角勉強に打ち込んだ次の日は学校だ。

 自分でもそこまでする必要が有るのかと思いつつ、態々馬車を使って丘の麓まで行く。

 教室に入ると……うん、何だろう? 級友達の視線に信仰が入っている感じで何だか怖い。

 色々と手助けをしてくれて、確かに私は彼らにとって姫なのかも知れないけれど、病弱設定が効いているのだとすれば逆に胸が痛くなりそうだ。


「有り難う」


 そう言ってにこっと微笑むしか無い私。

 いや、失敗した。そこで祈らないで欲しい。


 そんな気苦労ばかりが積み重なる時間を過ごしていると、丸で神の救いかの如く、私の耳に遠雷の響きが届いてきたのである。


「プルーフィア様? 如何なされましたか?」


 教師をしていたエマ様に指摘されて、私はぎこちなく微笑んだ。

 そんな指摘に時間を費やすよりも、もう直ぐお昼で学校の時間は終わるのだから、授業を進めるのを優先して欲しいという思いを込めて。


 でも、結局は咄嗟に私を助けに来たカヌレの言葉で、私は今後に繋がる免罪符を得る。


「失礼致します。

 お嬢様は、雷が近付いているのを感じて――ううっ……」


 これこれ、カヌレや? 雷が近付いて来たから何なのかな?

 ついつい私の頭の中を疑問符が飛んだけれど、エマ様はハッと目を見開いて痛ましそうな表情をした。


「……分かりました。早退を認めます。

 ほら、早くプルーフィア様を御館まで連れて行って差し上げて?」


 カヌレ……怖ろしい子!

 エマ様を掌の上で転がすなんて!?


 私は立ち上がってエマ様と級友達にゆっくりとお辞儀をすると、静々とその場を辞去したのである。



 プルーフィアの居なくなった教室の中、(しわぶき)一つ無い静まり返った中で、エマの声だけが響く。


「プルーフィア様が、ご自身の体の弱さを天罰か何かと考えてらっしゃるのなら……雷は(さぞ)かし怖ろしい事でしょうね……」


 そんな言葉が呟かれて暫し、生徒達の啜り泣く声が漏れ聞こえてくる様になる。

 プルーフィアがその場に居合わせたとしたならば、きっと頭を抱えていたに違い無い。



 ~※~※~※~



 違和感を与えない程度にゆっくりと、しかし十分に急いで館に戻ったプルーフィアは、メイド達に指示を出しながら自らも礼拝堂脇の小部屋へと駆け込んだ。


「四阿に! 私も直ぐに行く!」

「もう運んでます! お嬢様はお着替えを!」


 ドレスを脱ぎ捨て、古着を身に着け、庭へ飛び出た時には、既にぱらぱらと雨が降り始めていた。

 四阿から更に二十歩先へ行った場所には、四阿よりも高い一本鉄材の鉄塔が立てられていて、鉄塔に()いた窓や鉄塔から腕を伸ばした神饌台に、メイドやボーイ達の手により次々とお供え物が設置されていく。

 全て鉄の鳥籠に収められた、茸のクッキーや茸のスープ、そして茸のハンバーグ。

 鉄塔の周りに距離を置いて積み上げられているのは、しっかり菌糸の仕込まれた茸の榾木だった。


「設置終わりましたぞ! 儂も御一緒させて頂きますぞ!」


 アクトー侯爵領から来て頂いているジーゴさんも、ボーイ達に混ざってお供え物を設置していたが、それが終わったとみて四阿へ戻る私達に合流した。


「皆も戻って! もうそろそろ一気に来るわよ!」

「「「はい! お嬢様もお気を付けて!」」」


 私とジーゴさんとカヌレだけが四阿に残り、床に伏せて、黒く塗り潰した眼鏡を掛ける。

 予告した通りに、一気に雨が地面を叩き始めた。山の近くは一気に天気が変わっちゃうね。


「天地を繋ぐ偉大なる御方、茸を育てるぱちぱちの神様、雷の神ディーン様にお祈り致します。ディーン様の雷に御力を頂いて、美味しい茸が出来ました。美味しい茸で出来た茸クッキーに茸スープ、焼き茸挽肉のお供えに見事成功致しましたら、雷を操る力を賜りたく。どうぞ御笑納の程、宜しくお願い致します」


 お祈りを終えた途端、視界を灼く白い閃光と耳を劈く轟音。

 暫く経ってから、三度連続して落ちる再びの稲光。

 既にディーン様と雷の落ちる回数で成功か失敗かの取り決めをしていた私は、失敗を意味するその知らせにぱたりと俯せたままに体の力を抜いた。


「た……度々の失敗、申し訳有りません。考え得る限りを試したつもりですが、もう一度良く考え直したく、この度の事はどうかお赦し願います」


 そのまま雷鳴が遠ざかるまで突っ伏して、その後ごろごろと私は転がる。


「ああー!! どうして! どうして失敗するのよ!?」

「ふぅ~む、黒焦げになるのを防ぐ為の鳥籠でしたが、これはいっそ距離を空けて鳥籠を取っ払った方が良いのかも知れませんぞ?」

「でも、そろそろ豊穣の神様にも怒られそうですよ?」

「……もうちょっと良く考える。だから、何か意見が有るなら皆も出して。教会に対抗するのに雷を操るのは必須なのに、試す機会自体が全然無いから!」



 雷を恐れていると思われていたプルーフィアは、実の所雷の到来を誰よりも心待ちにしているのだった。

プルーフィア:「ライデイン!!」


級友達:「ああ、プルーフィア様が怖がっているに違い無いわ!」

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