(53)スピンボール・ルーレット
ダンジョンを考えるのに頭を悩ませています。
ジャラジャラジャラと音を立てて魔石が箱の中に吸い込まれていく。
出来立ての魔石は充填が中途半端だったりするから、今魔石を流し込んでいる箱は魔量秤では無くて普通の秤だ。箱から流れた先で魔石の大きさによって篩い分けられていると聞くけれど、千個超えもちゃんと対応しているのだろうか?
まぁ、尤もそんな選り分けていない状態で放り込んだりはしない。
レベル一魔石は流し込み終わって、一旦集計してから、今はレベル二魔石を流し込んでいる所だ。
「一杯有りますねぇ~」
今日は珍しく探索者ギルドの中にまで付いて来たカヌレが、暢気な言葉を溢している。
今日の稼ぎの半分近くを実績として提出してしまう事には、特に思う所は無いらしい。
ここは領都グリームの探索者ギルド。ここへ戻って来たその足で、私は早速とばかりに実績登録しているのだ。
因みに、グリムフィード領の探索者にランク制度が出来てから、ランクを上げても良いかの判断に“実績”を用いている。
ダンジョンに生える薬草や鉱石の類いなら、凡そ買取価格の二割程。
魔石で納めるなら全額分。
魔石納めなんて随分阿漕というか狡い様な気もするけれど、実際にそれでランクの上がった探索者の稼ぎを考えると端金だ。十も階層が異なれば、手に入る魔石のランクは三つも違う。三の三乗で魔石一つの価値が二十七倍だ。それだけ稼げる様に成ると言うなら、手っ取り早く魔石を提出するだろう。
これは流石に私には思い付けなかった。
一体誰が考え出した方法なんだろう?
「……レベル二魔石が八百六十二個です」
「じゃあ、次はレベル三魔石だね! 多分千二百個くらい有ると思うよ?」
「ちょ!? 一体何日分なんですか!?」
「今日の昼から三時間分だね。いや~、人気が無くて相性のいいダンジョンって最高だね。十階層迄降りても他の人は二組しか見掛けなかったよ」
「……もしかして、レベル四魔石も持ってるとか?」
「レベル四魔石はノルマの百個しか出さないけどね。他のダンジョンじゃこんなに旨く行かないだろうから何か考えないと」
「え、ええ、ランクCの実績条件は、三つの管理ダンジョンでレベル四以上の魔石を百個ずつ、それに加えてレベル四魔石百個分の実績ですので……あ! もう魔石百個分の実績はクリアしていますね」
機械的に言葉を口にして頭が働いていなさそうな職員だけれど、ちゃんと其処は指摘してくれた。
寧ろ、初探索祝いに盛大にご祝儀を贈ろうとしていた私が駄目駄目だ。
「ええっと、お釣りが……」
でも、やっぱり頭は働いていなさそうで、やらなければならない事が分かっているのに混乱して答えが出ない様子。
「へっへっへっ、たんまり弾んでやったんだ。どんないい事をしてくれるのかな~?」
「そ、そんなサービスはしてません!」
混乱している職員を弄ってみた。
カヌレが呆れた顔で見るからやめた。
取り敢えず鳥の洞窟でのノルマを果たしておこうと、レベル四魔石も百個積んでおく。
因みに、ダンジョン入り口のシムビス様像に捧げたご祝儀魔石は、がっつりレベル四魔石一掴み分だ。
「あ! これで残りは二つのダンジョンでそれぞれレベル四魔石百個ですね。それでお釣りは――」
「ふふ、それはご祝儀のお裾分けさ。職員達のお菓子にでもしてくれていいよ」
豪儀な事を言っている様に思えても、実はお釣りも偶々数千円の範囲に収まっていたから、ちょっとしたお菓子の差し入れくらいにしかならない。
明日も今日と同じなら、一日五十万円稼ぐ探索者が出す数千円だ。しみったれていると逆に言われてしまいそうだ。
因みに、私は円で換算してしまうけれど、王国でのお金の単位はマルで、大体十円が一マルになる。
十円以下?
それはおまけして貰うか諦めなさい。
夕焼けの中を歩いている時に、カヌレからレベル一魔石を一つ渡された。
「ペンダントにして?」
目をきらきらさせて言うカヌレに、思わず笑いが零れた。
鳥の洞窟のレベル一魔石は綺麗な青色だ。銀の台座に嵌め込んだなら、きっと素敵なペンダントとなるに違い無い。
次の日は、朝から鳥の洞窟へ行って、昼ご飯の時間には領館へ帰って来た。
因みに、カヌレはお留守番。私が探索者に成ったら、ダンジョンの中での殆どの時間は一緒に過ごしていない事がばれての処置。
ドナドナされる仔牛の様に、メイド長に連れて行かれてしまった。
「プルーフィア、無理はしていないのだな?」
「うん、大丈夫。情報をしっかり集めて対策を打てば、ダンジョンに潜る前に殆どの問題は解決しているよ」
「出来るならば誰かを付けたいが……」
「そういう事をすると、誰かが付いてない時に大怪我する事になるんだから、要らないよ?」
昼ご飯の場で心配されたけれど、練習用の管理ダンジョンを一人で潜れなければ、非管理ダンジョンなんていつになっても潜れない。
無用の心配だとあしらって、気持ちは午後へと傾いている。
お昼の後に皆でラライラーラ様に祈りを捧げたら、ダンジョンへ向かって一直線。
カヌレが居ないと道中が短い気持ちだ。
そしてやって来たダンジョンは、スピンボール・ルーレット。
ここも鳥のダンジョンと同じで、幾つもの広場が連なった形のダンジョンだ。
そしてやっぱり人気が無い。
出て来るのは、一言で言うなら巨大なダンゴムシの魔物だ。それが擂り鉢状になった広場の中を、ごろごろと延々回っているのがこのダンジョンだ。
二階層に出て来たダンゴムシは、さっと体で覆い隠して「出て来ちゃ駄目!」とか、抱えて走りながら「来ちゃ駄目ー!」とか言いたくなるのに丁度良い大きさ。
でも、二十階層では大人の腰に届く様な大きさに、五十階層では大人の背丈に届く大きさになるらしい。
そう、ここはかなり深いダンジョンで、五十階層以上有るのが分かっている。そんな深さまで誰が潜ったのかと言えば、敵が目に見えてごろごろ転がっている魔物だけだから、避けて進むだけならそれ程大変では無いのだとか。
地上にもそんなダンゴムシは居ないから、地脈型のダンジョンだと思っている。
そして予想出来る通りにダンゴムシは甲殻が硬い。一階層のダンゴムシでも、私の槍は刺さらなかった。
力自慢の鈍器遣いなら相性は良いかも知れないが、素材を剥ぎ取れない魔物を相手に武具を損耗させるのは、下手をしなくても赤字を招く。
だからここも人気が無い。
そして私にとっても鬼門に近い、防御特化のダンジョンだ。
まぁ、避けて行くだけなら大丈夫なんだよ?
因みに、ダンジョンで得られる固有魔法は、自ら転がるか、相手を転ばす事の出来る魔法だ。
それを知ったなら、往年のTRPGリプレイで猛威を振るったスネアを思い出したけれど、地味過ぎるのか此処では人気が無いみたい。
防御力が上がる魔法だったなら、人気が出たかも知れないのにね。
あと、言い忘れていたけれど鳥の洞窟で覚える固有魔法は、小鳥の召喚だ。
何故そんな事が出来るのかと言えば、ダンジョンの外に居る小鳥達も、魔力で作った分身を創るからだ。
ぴょんぴょん枝の上を跳ねて十羽も居そうな小鳥達が、動きを止めたら実は三羽しか居ないなんて、昔の忍者漫画で解説されていたのを素で実現してくる小鳥達。
伝書鳩替わりに使ったり、囮にしたり、魔力を纏わせて突撃させたり、覚えた人によって出来る事は違うらしいけれど、きっと魔術師なら全てを操る事が出来るだろう。
較べれば確かに鳥の洞窟の固有魔法の方が人気は有りそうだけれど、スネアもそれはそれで使い方次第なんだけどなぁと、そんな事を思いながら私は地上の入り口を潜り抜けるのだった。
人と蟲は一緒には生きられないのだよ。




