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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第三章 神罰の雷《いかづち》
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(48)花屋プルーウィ

 花屋の紹介を少しだけ入れるつもりが膨らみに膨らんでしまいました。

 いつもの通り?

 大通りを裏道に入って、更にもう一本裏へ。この辺りから、もう花の甘い香りが漂っている。

 豪勢な生け垣で囲まれた一角に在る、木の扉をカヌレに渡していた鍵で開けて中へ入る。

 目の前に広がるのは色取り取りの花の楽園。

 お茶をしているだけで服に移りそうな馥郁たる香り。

 そしてちゃんとお茶が出来る様に、可愛らしい白のテーブルセットも置いて有る。


 因みにテーブルセットは二代目だ。カヌレともう一人用の椅子だけは変わらないけれど、小さく見えても私だって成長している。七歳に合わせたテーブルセットが、十歳で使える筈も無し。


「お昼は軽くお茶をしてからダンジョンに行くよ」

「はい、準備をして来ますね。序でにリズベルにも」

「うん、宜しくー」


 ここは領都グリームの裏通りに在る花屋の裏庭。

 花屋は七歳の春に私が買い取った。


『馬鹿な事を言うな!! お前達の! 聖神ラーオ様への信心が足りないからだろうが!!』

『何を言ってるのよお父さん!! お母さんがやってたみたいに、ちゃんと肥料を考えて、水遣りしないと育つ訳が無いじゃない!! どうして卵殻の入荷を止めちゃったの!?』

『ゴミなんかが肥料になるか!! お前は聖神ラーオ様の御力を信じないのだな!!』


 そんな声が裏通りから聞こえて来たあの日、

 二日に一度レベル六魔石二つ分で約一万円は稼げていたのの約二年分と、既に結構稼いでいたけれど、自分でも色々と買い物をしていたから、その時使えるのは二百万円分だから魔石にしたらレベル六魔石約四百個分で、レベル十一魔石なら約二つ分。

 まぁ、グリムフィード領にそんな高価な物は溢れていないから、実用的な魔石はレベル六辺りまで。つまり、レベル六魔石をきっちり四百個でジャラジャラと支払いした。

 当然役所と言うかつまりは寄子の人が立ち会って、正式にその時土地の中に有る売り上げ金以外の物全ての権利を買い取っている。


『や、やめて! お父さん何を考えてるの!? ここはお母さんが夢見た場所よ! お父さんは手を出さないって言ってたのに!?』

『聞き分けの無い事を言うな! お前にはレベル六魔石四百個という価値が分からないのか! 売り物にならない花と、家を建てるにも軟らかい土と根で使い物にならない土地だぞ、こんなチャンスは無いんだ。――いや~、済みませんねぇ。娘は物の道理に少し疎くて。こんな襤褸屋で良ければ、お申し出の通りレベル六魔石四百個でお譲り致しましょう』


 売り物にならない花云々の下りは、娘さんだけに言い聞かせる様に声を潜めていたが丸聞こえだった。

 役所立ち会いの下で、魔量秤に魔石を載せて数える目がとても下品にぎらついていた。

 何か賢そうな事を言ってるつもりだったのだろうけれど、娘さんが呆然としていたのが示す様に、どう見ても愚か者の所業だ。


 その娘がリズベル。当時の年齢は十二歳。今は十五歳で、私の物となったこの花屋プルーウィの看板娘になっている。

 因みに店の元の名前は、奇跡の花と呼ばれる「シェリーチ」という名前だった。「プルーウィ」ならプルーの花の望み。花のランクでは数段下だ。


 父親は意気揚々と魔石の袋を担いで帰り、リズベルは啜り泣きながら花屋に戻って荷物の整理を始める。

 其処へ入る非情な指摘。


『あれ? 何をしているの? お金以外は持ち出せないって話だったよね?』


 即刻「鬼ですか」とカヌレの突っ込みが入ったけれど、言った事に間違いは無い。

 愕然とするリズベル。店を買い取りする流れの中で、流石に七歳のショーがそれをするのには無理が有って、プルーフィアだと身元を明かすのも保証する人が結局必要になるから、私はショーのままでお父様を頼る事にした。

 そしてカヌレに呼ばれて呆れた顔でやって来たお父様が、身内だからと保証して、税も免除と決めてしまったのだから、それを見ていたリズベルが其処で決まった物事に逆らえる筈が無かったのだ。


『と言うよりも、リズベルもお金以外で店の()()には違い無いのだから、もう私のものだよね?』

『ショー、それは流石にアウトです』


 私がにやりと笑ってそう言うと、透かさずカヌレの突っ込みが入り、泣いていたリズベルが顔を真っ赤にして俯いた。

 今世での私はどうやらそれなりに整った顔をしているみたいだから、ちょっといけない想像を喚起してしまったらしい。

 勿論私にそんなつもりは無いから、その後でちゃんと従業員として雇う話をしたけれど。


 私から出した条件は、簡単に言えば従業員になるなら着替えだとかの明らかな私物は支度金替わりに渡す事、他の物は貸与とする事、その上で私に納めるお金は税金免除となったその税金分で良い事、但し花屋に必要な道具や消耗品分は稼いだお金から出す事、鑑賞するには雑然としている裏庭をお茶を楽しめる程度に整える事、私が使える小部屋を用意する事だ。


『え? え? つまりどういう事??』

『店も資器材も借り物となるが、庭を整えて私の部屋を作るだけで、今迄通りの生活が出来る。馬鹿な父親の言い分も聞く必要は無くなるし、それ以外にも面倒な相手が居たとしても領主の後ろ盾が有るというのは大きいかな』


 まぁ、色々と話を聞いてみると酷かった。

 この店はリズベルの母親がお金を出して始めた店で、母親は妹の結婚を祝いに、アクトー侯爵領の海沿いに在る実家へ帰っていたのだとか。

 その序でに各地の花の苗や種を買ってくるという事で、一月少しの日程を組んでいたらしい。

 リズベル自身は学校が有るから、母親もその間は誰か人を雇う手配をしていたらしいが、実際に母親が発った後には父親が勝手にそれをキャンセルしてしまっていた。

 リズベル自身おかしいなと思っていた所に予定していた肥料の入荷が無くて、問い詰めたらこの有様だ。正に前世で言うorzな状況だったのである。


『でもこの状況だと、母親が戻ってくるまでは細かい事は進められないかな。まぁ、幸いグリムフィードでは財産は家では無く個人と紐付いているから、何も無ければあの魔石も母親に渡るのが筋だ。買い戻しにも応じない訳じゃ無いけど、ちょっとした我が儘は言わせて貰うよ?』

『わ、我が儘って?』

『だから、お庭でお茶会する為に遊びに来る権利と、私用に小部屋を使わせて貰う権利』


 元々お忍びの際の拠点が欲しかった所に、降って湧いたこの状況だ。別に無くても困る物では無いけれど、リズベルの為人(ひととなり)を知って、店の裏庭も見た結果、手放すのは惜しいと感じる様になっていた。

 リズベルからしても、少なくとも母親が帰って来るまで悪い事にはならなそうなのを理解したのか、結論は母親が帰って来る時に持ち越される事になった。

 まぁ、数日後にプルーフィアの姿で店に遊びに行った時の、リズベルの驚き様は見物だったとだけ言っておく。


 更にその十日程後に、件の母親が帰って来た。

 各地の花の苗や種を持ち帰って来たのだから、真っ先に店へと立ち寄るのは当然で、馬力の有る馬種の両脇に大荷物を満載して、胡乱気に裏口から覗いていたのをカヌレが見付けたのだ。


 当然私も気が付いていたけれど、ちょっと覗いて行く人はそれなりに居たから、気にしない様にしていた。

 花屋の庭が気になった人。

 貴族っぽい人がお茶会をしていると気になった人。

 まぁ、他にも色々。


 この時も私とカヌレの他に、家族には早々にばれてしまったのでヴァレッタお姉様と、それからリズベルの母親が元々手伝いを頼もうとしていたマニリエさん、そしてリズベルとでお茶会をしていた。

 表の扉には昼休憩中の札を掛けての穏やかな一時だ。リズベルがカヌレからお茶の入れ方を教わりながら、それなりに美味しいお茶を淹れられる様になっていた。


 因みに、どうしたってお手伝いの人は必要だから、既に頼んでいた人が居るのならとマニリエさんをお伺いした時には、かなりマニリエさんは怒っていた。

 リズベルに対してもきつい言葉で(なじ)ったぐらいだ。

 しかし、リズベルの口から事情と、それから店の状況を聞いて、憤激の行く先がリズベルから完全に変わった。そして頭を下げた。

 エリーザ――リズベルの母親――に頼まれていたのに、申し訳無いと。エリーザの信頼を裏切ってしまったと。


 私が残りの日数を三倍の賃金で雇うと持ち掛けたら、貰えないと言い張られて、結局相場通りで手伝って貰う事になった。

 庭師のパルックお爺さんにも見に来て貰って、漸く花々が元気を取り戻し、店を再開出来る様になったのがつい最近だ。

 マニリエさんとリズベルはその間にすっかり意気投合している。だからその日もマニリエさんは、午前中だけの約束なのに午後に私達が遊びに行く時まで残っていて、一緒にお茶を楽しんでいたのである。


 エリーザさんとしては狐に抓まれた様な心持ちだったのだろう。

 自分の店に帰って来てみれば看板が架け変わっていて、裏庭に回れば木立で良く見えない中、ドレスの女達がメイドに給仕をさせながらお茶をしていたのだから。


 幸いカヌレが気が付いた直ぐ後に、リズベルが裏口へと目を向けて、その人がエリーザさんだと分かって事無きを得た。


『お母さん!!』

『え!? リズ!? え!? え!?』


 親子だからか、吃驚した時の様子がリズベルと良く似ていた。

 一度エリーザさんの荷物を受け取って、エリーザさんが馬を牧場に預けて戻って来たら、私達の居る前でリズベルとマニリエさんが競うかの様に状況を伝え始める。

 旅路から疲れて帰って来た所なのに大変だと思いつつ、私はカヌレにエリーザさんの分のお茶の用意を頼んだのだ。


 話が進む程に、刻々と変わるエリーザさんの表情。私も何度か敵意混じりに睨み付けられたりしたけれど、リズベル達が宥めながら最後まで説明された後には、般若か夜叉かといった顔付きでぐつぐつと怒りを煮え滾らせているエリーザさんが其処には居た。

 因みに、ショーが私のお忍びの姿だとはマニリエさんにも伝えているし、話の流れでエリーザさんにも伝えている。同時に秘密だという事も。秘密が漏れたが為に私が害される様な事が有れば、漏らした人達もまぁ面白い事にはならないだろうねという脅しにも似た言葉と共に。


 それからヴァレッタお姉様もお店の状況を知ってから、役所で法律の事やこのお店の事を色々と調べてくれていて、元のお店「シェリーチ」が百パーセントエリーザさん出資のエリーザさん所有財産だった事と、結婚した際に夫にも管理権限を与えていた事を確かめてくれている。

 つまり、リズベルの父親は、エリーゼさんが不在の間に「シェリーチ」を売る権限は持っていても、その対価は変わらずエリーゼさんの物だという事。またその前にエリーゼさんが雇ったお手伝いさんを勝手にキャンセルし、必要な肥料の仕入れも止め、保全に努めず「シェリーチ」の価値を故意に下げた上で、確かな査定に拠らず独断で売り払った事から、エリーゼさんは確実に損害賠償を夫に要求出来るという事。或いは持ち逃げされた場合の司法的判断云々の話も有ったけれど、ヴァレッタお姉様は概ねエリーザさんが持っている権利についてを淡々と語った。


 その上で、私がリズベルにも話した私からの買い戻しの条件を伝えると、そこで漸くエリーザさんも落ち着いた。


『私としては買い戻すのでも何方(どちら)でもいいよ? 私の持ち物としておいた方が余計なちょっかいは防げるし、何か有っても手を入れられるから悪く無いと思うけどね』

『……了解した。私が不在の間に随分と助けられた様だ。これからも世話になる。宜しく頼む』


 内心複雑な気持ちも有るだろうに、七歳の子供に頭を下げるエリーザさん。立ち居振る舞いが堅苦しいのは身に染み付いた物だろう。

 偶然とは言え、リズベルやエリーザさんと知り合えた幸運に、私はその時嬉しくなった。

 年の差は開いているけれど、友人を得た様な気持ちだった。


 後日、エリーゼさんがリズベルとはまた逆に、ショーとなった私の姿に目を瞠る一幕も有ったけれど、それからの私の生活は概ね平和に過ぎて行く。

 エリーザさんの方は修羅場に次ぐ冷戦状態で、プルーウィの住み込みになってから二年過ぎたつまりはつい最近に、夫とは別れたらしいけどね。

 世の中にはどうしてこの二人が一緒になったのか分からない夫婦が居るけれど、リズベルの両親もその典型だったらしい。


『君が自分で稼いだ魔石を全ては取り戻す事が出来無かった。済まない』


 と頭を下げられた時には笑っちゃったけどね。

 それは私が花屋の買い取りに使った物で、取り返せなくて損をしたのはエリーザさんなのだから。


 八歳になって一般開放されたダンジョンに潜る様になってからは、学園帰りのヴァレッタお姉様の方が遊びに来ているかも知れない。アドルフォお兄様も何度か来たらしいと聞いた。

 そんな秘密では無くなってしまっている隠れ家的秘密基地な花屋プルーウィ。


「プルーフィア様、お帰りなさい!」


 そう言ってエプロン姿のリズベルが駆けてくるのを見遣りながら、そろそろ彼女達を館の庭に招いてみてもいいかも知れないと私は考えていた。

 館の庭には野菜ばかりと聞いて大笑いしていた彼女達なら、きっと気に入ってくれるに違い無い。

 何故「お帰りなさい」なのかと言えば、プルーフィアの持ち物なのにいらっしゃいはおかしいという事で、そうなったもの。

 因みに、オーナーはショーだけれど、プルーウィの店長はリズベル。エリーザさんの居ない間に暫定として決められたけれど、エリーザさんがそれはいいとそのままにしている。

 そして花屋業よりプラントハンターな活動の方が楽しいエリーザさんは、居ない時は大体魔境に潜って綺麗な花を探し求めているという……。

 リズベルには弟が居る設定。弟は父親側に付いた。

 この辺りは裏設定のままにせずに、おいおい作中でも触れていきたいな。

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