(47)佳人薄命
適当に王国の貴族階級に理屈を入れてみました。
五等爵としてますが、別に一爵二爵でも何でも良かったのです。超訳されているとでも思っていて下さいな。
王国での貴族階級は、公侯伯子男の五等爵となっている。
公爵は王の直系を除く王族だ。基本的に領地は持たない。独りで暮らすには贅沢をしても余り有る小遣い銭が出るが、配下を揃えるには足らず。特権は有るが実権は無い。臣籍に降れば相応しい身分を与えるが、その気が無くても養いはする。そういう意味合いで用意されている階級だ。
中には庶民と変わらぬ様子でしれっと民衆に紛れ込んでいたりする者も居るらしい。
侯爵は実質的な最上級貴族である。領地を必ず持ち、十名以上の子爵を任命する権限を持つ。元より広い領地を持っているが、寄子として集まって来た者達の領地も監督する事になる為、実際にはそれらも合わせた広大な土地を領地としている様なものである
しかし臣籍に在る事は変わらず、王の裁定には基本的に従わなければならない。
伯爵までは王が直接爵位を授ける。子爵以下は侯爵や伯爵が任命するものだからだ。余程の勲功を上げても子爵から伯爵に叙せられる場合の為、王が子爵以下に係わる事は無い。
ならば何故グリムフィードが伯爵に叙されているかと言えば、グリムフィード領が王国自体と並ぶ程に古い領地の一つだった事が理由に挙げられるだろう。
王国が成立した黎明期、まだまだ未開の地が広がる中で、開拓された土地は開拓されただけその者の領地となった。そしてその規模に応じた爵位が与えられた。
グリムフィード領は元々勘定に入らない開拓困難な土地――と言うよりも、魔境その物だった。そんな土地を切り拓く事が出来る集団を敵に回さずに済むのなら、伯爵領とするには足らない土地だとしても名ばかりの伯爵位を濫発していたのが当時の王国だったのである。
とは言っても、現在グリムフィード領はアクトー侯爵を寄親として、納める税も子爵領相当でしかない。そこに到る経緯は諸々在ったのだろうが、アドルフォが王都の学園で実態は辺境子爵だと言ったのは、故無い事では無かったのである。
それでも一応は伯爵として、二人の子爵を任命する権限は確保しているのだった。
子爵となると、治めるのは多くの場合、町一つと周辺の村々である。領地を子爵領として独立して持っているのか、侯爵領や伯爵領の一地域を代官として治めるのかは、それぞれの事情によるだろう。小回りが利く様に子会社として分社化するのか、一部署として合併吸収するのかと、恐らく利点や思惑も似た様な物になる筈だ。
グリムフィード領の場合、領を割譲しても仕方が無いという事は有るが、西都リンシャと東都ファイデンに代官を置き、代官に子爵位を与えるという形を取っていた。
実際にはその代官は先代領主や先々代領主なので、グリムフィード領の玄関口である西都と東都に、領主の経験を積んだ者が待ち構える形となっている。
そして男爵は、爵位こそ与えられているが、実態は領政を手伝わせる為に平民から召し抱えた者達である。職務を遂行する際に或る程度の権限が必要となる為に、貴族に準じた者と見做しているのである。当然領地は持たず、主家の領から出た外ではその身分は通じない。
グリムフィード領では男爵に対しても寄子と呼んでいたりするが、他領では只の雇われの平民に過ぎなかった。
しかし、そんな彼らに代々のグリムフィード伯爵らは、確認はすると雖も彼らの裁量で動く事を許し、そしてその事に彼ら自身も誇りと感謝を抱いていた。
稀にグリムフィード領を飛び出してアクトー侯爵領で一旗揚げようとした若者が、夢破れて帰って来た際に聞かされた話を聞くに連れ、男爵として領政に関わる事を生業とする様になった一族は、そんな思いをより強めて行ったのである。
即ち、グリムフィード領で寄子と呼ばれる者達にとって、プルーフィアやユイリは正しく姫様で有り、ロジアは若様だった。
そんなアイドルに等しい人達が、完全に意表を突いた現れ方をしたならば、真面に頭を働かせる事など出来るだろうか。
「はじめまちて。プリューヒア、じゅっちゃいです!」
どう見てもプルーフィア様に見えない幼女が、そう言ってぺこりと頭を下げた時、反応出来たのは自身にも二人の妹が居るイーサンだった。
反応しないのを含めて、ここで間違った対応をすれば絶対に泣くとの危機感から、何とかしなければと体が動いた結果だ。
「君はプルーフィア様では無いだろう! 本物のプルーフィア様はどうしたのだ、ですか!」
多少とちってしまったと言っても、十分に合格範囲だ。
それは、最後に出て来た本物のプルーフィア様の言葉が示していた。
「ふふ、二人を傷付けない様に説き明かしてくれて有り難う」
そう言うプルーフィア様自身、まだ八歳と言っても通じる小柄さで、聞こえて来ていた噂が真実なのだと思わせる。
曰く、体が弱くてベッドから降りられない毎日を送っている。
曰く、いつも神様にお祈りを捧げている。
実際に目にしたプルーフィア様は少し目を離しただけで見失ってしまいそうで、そしてその声も耳には届いているのにずっと遠くで響いているかの様だった。
プルーフィア様が送り出したユイリ様とロジア様を、教室の外で抱き上げたのはもしかしてジャスティン様だろうか。
一緒に居てユイリ様とロジア様に声を掛けているのは、ヴァレッタ様だとは思うけれど。
プルーフィア様のご家族が何人も様子を見に来ているのを知って、余計に確信が深まっていく。
プルーフィア様の為に空けられていたのは、最前列中央の席だったから、教室の中のどの席からもプルーフィア様の様子が目に入る。
「わ、私、プルーフィア様が、一瞬目の前から消えてしまわれた様に思いましたのよ?」
プルーフィア様が席を外した休み時間に、声を震わせて泣く女子を、皆で慰める。
休み時間が終わって授業が再開した時に、教室の後ろで椅子に座るプルーフィア様のメイドが、感極まって肩を震わせながら唇を噛み締めているのを見た。
洟を啜る音が教室の中に絶えない。
時折先生に当てられてプルーフィア様の声が響くのに、頭の中に入って行かない。
漸く今日の授業が終わった時には、もうハンカチーフもびしょびしょだ。
「……何だか、気を遣わせてしまったかしら?」
「いいえ! プルーフィア様がお元気そうで、皆喜びに噎んでいますのよ? 今日はこれからプルーフィア様はどちらへ?」
「折角此処まで降りてきたから、街を見に行きたいかな」
「それなら是非私達も一緒に!」
「いいえ、私が居ると気も安まらなさそうよ? ――大丈夫。メイドのカヌレは五年も私に付いてくれている私の専門家だから、絶対に何も起きないわ」
メイドに付き添われて教室から出て行くプルーフィア様を見送って、とうとう教室の中に嗚咽の声が零れ出す。
「わ、私、思い出したわ。何年か前に、プルーフィア様が聖女と呼ばれ掛けた事が有ったって。東都で出た怪我人に手を当てるだけで治したって噂だったけれど、本当はいつも持たされているポーションを使っただけだったって。でも私、プルーフィア様が自分の為のポーションを使ったのなら、やっぱりそれは聖女様だと思うわ。ええ、絶対そう思うわよ」
「僕も、聞いた事が有る。プルーフィア様はいつも神様にお祈りをしているらしいけれど、聖神ラーオ様にお祈りしているのじゃ無いって。聖神ラーオ様は何もしてくれないから、違う神様に祈りを捧げているんだって」
五年も有れば、流石に噂も出回っているらしい。
そして嗚咽はやがて泣きじゃくる号泣と変わっていくのだった。
~※~※~※~
「…………花粉でも飛んでた?」
「ふひゅっ!? ――せめて花屋に着くまで黙りませんか?」
「う~ん……花屋の方が花粉は多そうよ? ――何か遣らかした? そんな憶えは無いのだけど」
「子供の感受性の高さを舐めていたかも知れませんね」
「私は罪深き女……」
「ぐふっ……は、花屋へ急ぎましょう」
「嗚呼、薄幸のプルーフィアは、これからダンジョンで大暴れしてくるの……」
「ひ、ひぃ~、ほら、早足で――」
「花屋のオーナーでは無くて、洟屋だったりして?」
「も、もう! 来週思い出すでしょう!? 今日も大変だったんですからね!」
教室の惨状を後にして、更に阿鼻叫喚の状況へ陥っているとは知らぬままに、プルーフィアとメイドのカヌレは戯れ合いながら街を歩くのだった。
温度差……。プルーフィアは何も病弱な演技をしている訳じゃ無いのに……。




