(46)初顔合せ
今にして明かされる主人公とかカヌレの髪色!(カヌレは灰色にしようかとも思っていたんだけどね)
学校の教室の扉は引き戸なのは、異世界とか関係の無いお約束なのだろうか。
それとも前世でそうだったのも、偶々私の通っていた学校がそうだっただけなのだろうか。
そんな事を考えつつ、私とその他大勢は、教室の扉の前で待っていた。
「今年は主家のプルーフィアお嬢様も一緒に学ばれます。皆さん、呉々も失礼の無い様に致しましょう。
プルーフィア様は事情により光の日にしかいらっしゃいません。お会い出来る機会も他にはございませんから、この機会に交流を深めて頂ければと期待しますわ。
ではプルーフィア様、どうぞ中へ」
先に教室の中でエマ様に紹介頂いたので、ユイリには重い引き戸を無属性魔力でカラリと開ける。
さぁ、出番だユイリ! GO! GO! GO!
ふんすと気合いを入れたユイリが引き戸を抜けたなら、これも無属性魔力で少しの隙間を残して引き戸を閉めた。
隙間からは、ユイリの雄姿が見えている。
しっかり背筋を伸ばして、お澄ましして歩いているのは、もしかして私の真似をしているのかと考えていたら、気が早くもジャスティンお兄様が私の左肩に懐きながら、くつくつと喉を鳴らしている。
「はじめまちて。プリューヒア、じゅっちゃいです!」
ぺこりと軽く頭を下げて、ユイリが可愛く挨拶をする。
エマ様が教卓に突っ伏した。
騒めく教室。
戸惑う級友達。
一人の男子生徒が立ち上がり、ユイリを腕で指し示しながら問い糾す。
「君はプルーフィア様では無いだろう! 本物のプルーフィア様はどうしたのだ、ですか!」
「ええ!? なじぇしょんなことをいうのです!?」
「それは、本物のプルーフィア様の髪色は金では無く青だからだ! ――です!」
「ぁああ!?」
エマ様が蹲った。
困った様子のユイリが入り口へと目を向けたタイミングで、再び私は引き戸を開けた。
静々と進み出るスカートを穿いた人影は、ちょっと濃い目の青い髪だ。
「ふふふ……みやぶられてしまいましたね。わたくしがプリューヒアですわ。よろしくおねがいいたします」
優雅に膝を折ったカーテシーを披露するロジア。
エマ様が拳で壁を叩いている。
ヴァレッタお姉様達から聞いていた寄子達とイメージが合わないのは何故だろう。
もしかして、寄子達は領主一族の前では猫を被っているのだろうか。
それを今知れた事に幸運を感じつつ、しかし私はロジアの雄姿を見守るのだ。
でも、私の名前はプルーフィアであって、プリューヒアでは無いよ。
因みに、ロジアの被っている鬘は、昔私がショー用に使っていた物だ。私の髪色とは違って、もっと濃い紺に近い色。カヌレの髪が紫色だから、それも有ってカヌレと親子に間違えられていた。
ここにもショーを知っている人は居るだろうけれど、きっと私には繋がらない。
「君もプルーフィア様では無いでしょう! 十歳でその背格好は、流石に無理が有りますよ!」
男子生徒が丁寧に喋ろうとして、言葉遣いがおかしくなっている。
ひぃひぃと喘ぐエマ様の声が、私達まで届いていた。
ロジアが何を思ったかユイリの後ろへと回って、腰を抱えてぐいっと持ち上げた。
「プルーフィア様は青髪だと言ってるでしょう!?」
突っ込みに忙しい男子生徒の声。
はっと気が付いたロジア、自分の被っていた鬘をユイリに被せて、後ろからぐいっと持ち上げ――
「ふはは! 馬脚を露しましたね! それは鬘ですよ!!」
中々乗りのいい男子だ。
ああっ、と驚きを表情に示して、ユイリとロジアは抱き合って慄いた。
可愛い。滅茶苦茶可愛い。此処にカメラが無いのが悔やまれる。
原作世界では、幻の魔道具で姿を残す事が出来た筈なのに、グリムフィード領ではそんな道具を見た事が無い。
自分の魔術で何とかしようと思っても、人間は蛍でも烏賊でも無いから、弱い全属性と言っても光や闇の属性魔力は殆ど無い。
残念だ。非常に残念だ。
何とも無念。
しかしロジアは良くやった。アドリブを利かせて頑張った。
顔を両掌で覆い蹲って震えるエマ様に強く共感しながらも、私は左肩に懐くジャスティンお兄様と、右腕に強くしがみついて震えていたヴァレッタお姉様を引き剥がして、ユイリとロジアの救いとなるその一歩を踏み出した。
動きは普段の三倍は遅くして、姿勢は正しく、足音は立てず、呼吸の音も漏らさず、それ処か衣擦れの音も立て無い様に、滑る様な動きで前へと進む。
実は体幹をぐっと引き締めつつ動かなければそんな動きは出来無いから、自然と姿勢は良くなるのだけれど、見せるのは何の力も入れてませんよという様子だけ。
合気道が袴を穿くのは足下の動きを見せない為なんて話を聞いた事も有るけれど、地面に擦りそうなスカートの中で足はしっかり地面を掴む様に踏み締めている事なんて、きっと誰にも分からない。
ユイリとロジアの後ろにするりと入り込むまで、私に気が付いていない生徒も多かった。
「プルーフィアよ。宜しく。
私はきっと表に立つ事は無いから、気を遣わなくてもいいわ。私も普通に喋るから、私にも普通に話し掛けてね。
それと、今迄交流も出来無くて御免ね。私自身、今は少し残念に思っているのよ。
その分、弟と妹には交流させて上げたくて、今日は一緒に来たのよ。もし見破られなかったならそのまま代役を務めて貰うつもりだったけど――ふふ、二人を傷付けない様に説き明かしてくれて有り難う。
ほら、ロジア、ユイリ、自己紹介なさい」
「ぼくはロジア、さんさいです」
「ユイリ、じゅっちゃ……しゃんしゃいです」
「うん、宜しい。
二人は私より見掛ける事が多いと思うから、仲良くして下さいね」
喋る言葉も普段の倍遅く、言葉の句切りではしっかり待って。息は殆ど吐かずに喉の震えだけで音を出す。
教室の中を見回している様で決して目を合わせず、気配は完全に殺しながら。
儚げの正体見たり気配断ち。
実際には、生きている息遣いといった気配が希薄で、今にも消えてしまいそうな様子を儚げと言うのだろうが、自ら気配を殺して薄くしてもそれを十歳の誰が気付くと言うのだろうか。
いや、誰にも気付かれはしない。それに思い至った時、学校もまた私にとっての修行の場となったのである。
「弟妹共々、これから宜しくね」
にっこりと微笑んで、私の学校生活もまた、幕を上げるのだった。
地の文が女言葉で無くなったのは、全てショーの伏線だったのだ!




