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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第三章 神罰の雷《いかづち》
45/95

(45)学校へ行こう

 いい事を考えたわ! 的導入。

 少女の目の前には、殆どお家に居てくれないけれど、時々物凄い遊びに誘ってくれる大好きな姉が居る。

 見えない何かに持ち上げられて、空を飛ぶ様に二階の窓からお家に入るのはとても楽しかった。

 姉が神様にお祈りしたら、噴水の水が舞い上がって、色取り取りのお魚になって周りをくるくる泳いで回った。

 きらきらして、双子の兄と一緒に燥ぎ回った。ちゃんと水の神様にお礼を言った。

 そんな素敵な姉に、少女は初めての任務を命じられて、興奮に顔を真っ赤にしている。

 今日着せて貰ったのは、姉と同じ服の一揃い。

 胸には「プルーフィア」と書かれた名札を下げている。


「いい? 麓の建物で教室に入ったら、プルーフィア十歳ってご挨拶するの」

「はい! おねえしゃま! プリューヒアじゅっちゃいです!」

「うん、宜しい」

「いえ、無理です。往生際が悪いですよ、プルーフィア様」

「……体面を気にするのなら、案外上手く行くかも知れないもの?」


 姉のメイドが笑いながら止めても駄目だ。少女はすっかりその気になっているのだから。

 今止められてしまえば、きっと少女は泣き喚いて、止まる事は無いだろう。


「おねえさまぁ、ぼくのにんむは?」


 姉のスカートを、双子の兄が引っ張っている。


「……そうね。ロジアにも任務を。カヌレ、印象の似た服とスカートを。それと青髪の鬘を探してきて。私は名札を作るから」

「…………はい、直ぐにお持ちします」

「いい、ロジア。貴方の役目は、ユイリが私では無いとばれてしまった時に、私の代わりに『まぁ、御免なさいね、私がプルーフィア十歳です』と言って教室に入るのよ?」

「はい! おねえさま!」


 鬘を被り、スカートを穿いて、並んだ双子の姿はとても良く似合っていた。

 その様子を見て、姉とメイドは満足気に頷いたのである。




「お馬鹿! 駄目よ! 何を考えてるのよ、もう!」


 朝食の席でテーブルに突っ伏しながら否定の言葉を投げ放つヴァレッタお姉様だけれど、その背中は笑いの衝動に震えている。

 昔は「ですわ」口調だったのに、どうもそれはお母様がお話してくれない間に学校で身に付けてしまった口調だったらしくて、今はお母様に寄せてそんな喋り方はしていない。


「なら、賭けようか。ユイリもロジアも見破られた時は、約束通り私が週に一度は出席するとしよう」


 私の口調も少し変わった。

 語彙が増えたからか、昔のショーの様な子供口調では無い言葉遣いでも、女の子っぽさが言葉から抜けてきている。

 特に、格好を付けようとしている時は、その傾向が強い様に思う。


「見破られない訳無いわよ! 冗談が過ぎるわ!」

「勿論私も見破られると思うけどね、それでも気が付いて無い振りをされるのなら私が学校に行く意味って無いと思うんだ。私は探索者としてやっていくつもりだし、教養というなら書庫の本は制覇したしね」

「くぬぅ~~……!」

「ふふ、お姉様もユイリとロジアの雄姿が見たいならそう言えばいいのに。学園も卒業して時間も有るのだから」

「もぉ~~!! どうしてあの可愛かったプルーフィアが、こんな騎士みたいに格好いい感じになっちゃったのよー!!」


 ヴァレッタお姉様の嘆きの声が響き渡り、ぷふっと吹き出す声が其処彼処で漏れる。

 因みに、そんな風に言われてしまうのは、全て鍛錬の賜物と言えるだろうか。我武者羅に鍛錬をして運動のスキルを得た頃からちょっとずつ分かって来たけれど、どうやらスキルに昇華するのは、丁寧に技としての精度を高めた物だけだ。

 神像を造るのに使った技術もそうなら、フォームに気を付けてから直ぐに手に入った走法や歩法もそうだ。正直前世の部活が陸上部だったからまだ分かる走法より、歩法の方が難しかった。足音を消すのに注力していたら得たスキルだ。

 そして、こういう体を動かす技術に共通していたのが、正しい姿勢というものだった。正しい姿勢できびきび動くと綺麗に見える。人目を引く。格好いいと感じる。

 きっとそういう事に違い無い。


「ははは、ヴァレッタもその辺りにしておこうか。プルーフィアも何か考えが有っての事なのだろう?」

「……うん。私も昔はこの館の中が全てで他との交流なんて無かったけれど、それは私が探索者になる事を決めていたから問題にならなかっただけ。ユイリとロジアには折角沢山の義兄や義姉が居るのだから、もっと交流して仲良くなればいいんだよ」

「……そうか。……ああ、そうだな」


 それと、お父様も随分と雰囲気が変わった。話がちゃんと通じる様になった。

 お母様に聞いたら、随分と前にお父様と両想いだった事を確かめ合ったらしい。ロジアとユイリが生まれる訳だ。

 その結果お父様は、お母様の愛というしっかりとした後ろ盾の有る自信を手に入れたのだろう。

 雰囲気だって変わってしまう筈だ。


 余りその辺りに突っ込むと馬鹿馬鹿しくなるから、深く洞察して原因を探ってだとかはここにはもう手を出さないつもりだけれど、きっと悪役令嬢フラグはぽきりぼっきりめきめきに砕けている事だろう。

 その道筋を描いたのが私だから結構自由にやらせて貰えているけど、それならそれで私が選んだ探索者の道で領に貢献しなければならない。


「よし、プルーフィアは病弱だという話が今もまだ残っているから、付き添いが多少多くても不自然では有るまい。流石に私は付いて行けないが、ヴァレッタの他に誰か付き添う者は居るか?」


 ジャスティンお兄様とアドルフォお兄様が目を見合わせて、結局ジャスティンお兄様も付いて来る事になった。


「プルーフィアは週に一度とは言え、これから寄子達とも交流を深めていくなら、私が挨拶に行くのが良いだろうからね」


 何事も、物は言いようである。



 ジャスティンお兄様に抱き上げられて館から下って来たのを見られていたからだろうか、領館の敷地内に立てられた貴族向けの学校の応接室で、私は温かく見守る様な視線を注がれていた。


「ようこそいらして下さいました。学舎の責任者を務めております、エマと申します」

「プルーフィアよ。どうぞ、よしなに」

「二位様もお変わりなく。またこの度は面倒なりし申し入れに心砕いて頂き、忝く思う。

 プルーフィアは恐らく今後も領政に係わる事は無く、公の場に出る事も無い故、言葉通りに交流のみを目的として通わせる事になるが、ご諒解願いたい。

 ――情夫も取らず父に尽くしてくれている貴女に面倒ばかりお掛けするが、プルーフィアの事を宜しく頼む」


 ジャスティンお兄様の言葉の通り、エマ様は第二夫人でつまりは義母だ。

 情夫がどうのと言っている事からも分かる通り、第二夫人以下は他に情夫を持っていても咎められる事は無いらしい。

 今迄一度も会った事が無かったから、裏にはねちねちとした何かが有ると勝手に想像していたけれど、初めて会った義母の視線は温かい。

 少し、戸惑いと共に驚きを覚えていた。


 でも、それもエマ様の言葉を聞いて納得する。


「あら、ふふふ。(わたくし)の事を思い量って下さるのですね。ですけれど、ジャスティン様は女心には疎い様子ですわ。

 確かに想い想われて結ばれる夫婦も居ますわね。家と家との関係から婚姻を結ぶ事も有るでしょう。でも中には結婚なんてしている暇が有るなら、遣り甲斐の有る仕事をしていたいと思う女も居るのです。

 つまり(わたくし)に取って夫は仕事でイルカサル様が情夫なのですわ。

 ジャスティン様が憂える事は有りませんし、誰にも煩わされる事無く好きなだけ仕事をして、寂しい時はイルカサル様を呼び付けて、それでいて面倒な夫の世話はしなくても良い。可愛い子供達が生まれたならその面倒まで見て貰えるなんて、これ以上素晴らしい事は無いと思わなくて?

 何れジャスティン様に嫁ぐ娘も、似た様な気質の者となりましょう。ですからジャスティン様は何も思い悩む必要は無いのですわ」


 ジャスティンお兄様はその言葉を聞いて硬直していたけれど、私は直観的にキャリアウーマンが居ると思った。

 亭主は達者で留守がいいとかいう言葉もちらりと頭を掠めたけれど、ちょっとニュアンスが違う。

 でも、何故だか無性におかしくなって、体を縮めて湧き上がる笑いの衝動を誤魔化そうとしていると、また温かい眼差しが向けられているのを感じて顔を上げる。


「プルーフィア様。貴女様のお立場では、これから様々な者が口さがない言葉を投げ掛けてくるでしょう。きっとその美しさに、言葉を弄して手に入れようとする者も出て来るでしょう。

 でも気になさる事は有りません。(わたくし)(わたくし)のまま此処に居る様に、プルーフィア様がプルーフィア様のままで居られる場所は、必ず何処かに有る筈です。

 ですからプルーフィア様は有象無象を気にする事無く、思いの儘に振る舞って頂いて良いのです。(わたくし)はそのお手伝いを致しましょう。

 ようこそ、(わたくし)達はプルーフィア様を心より歓迎致しますわ」


 ああ、何て勿体無い事をしていたのだろうか。

 私が学校に来て出会った義母は、とても大好きになれそうな、そんな素敵な人だった。

 こういう一夫多妻の形にしてしまいました。

 第二夫人の立場からすると、一妻多夫にもなるという……。

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