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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第三章 神罰の雷《いかづち》
44/95

(44)或る時は新人探索者、或る時は花屋のオーナー、而してその実態は!

 今回はちょっと長い。五千文字。

 訓練場の屋根の下に集まると、オルカスは話を始めた。


「よし、或る意味模範解答が出たからな、ショーの結果を基に説明するぞ。

 まずは、ショー、何故順番を最後にしたんだ?」

「それは様子を見る為だよ。どんな魔物かも分からないのに行き成り突っ込むのは自殺行為だよね」

「その通りだ。その点ガルダーは元気は良くてもそれだけだったからな。それで容易く下せる実力が有るなら真っ先に飛び込んでもDをやったかも知れんが、何とか死なずに凌いだだけではぎりぎりのFだ。しかし考え無しで今のままではリーダーはとても任せられん。

 リッグス達はガルダーに釣られたのだろうが、まぁ普通の新人探索者だな。

 ケニッカ達は流されずに良く考えた。その機転も含めて大幅加点だ。

 それで、様子を見た結果はどうだったんだ、ショー?」

「『蟷螂の巣』に居るシールドマンティスだね。大きく硬い右手を盾の様に使って弾いてきて、左手は鎌、目が弱くて蟷螂なのに前方しかよく見えない。目より音を頼りにしている。魔境にも現れるけれど、ダンジョンで出て来るのは『蟷螂の巣』だね。

 それと、オルカスさんが何故か避けてる場所が三箇所。女の子がそっちに向かおうとした途端牽制するし、分かり易過ぎ♪」

「――という事だ。これが斥候や冒険者に必要な観察力という物だな。

 気が付いて無かった奴は良く考えろよ? なんで俺が剣術のケの字も無い様な動きをしていたのだとか、そういう所に気が付かないと魔境でもダンジョンでも早死にするぞ?

 そして類推するにも知識は不可欠だ。シールドマンティスの性質を良く調べて理解しているからこその作戦と結果だ。お前達が同じ事をやろうとしても無理だからな? 此奴の体の小ささで無ければ盾の陰になんぞ隠れられん。

 ただ、知識が有れば他の手も思い付くだろう。マントを投げて目眩ましにするとか、音で判断しているなら近くで何かを破裂させて攪乱するとか。それが出来る探索者が稼げる探索者だ。ダンジョンの魔物なら魔石しか残さないが、魔境の魔獣なら傷の少ない綺麗な素材の方が買い取りの()も変わってくる。

 そして最後は落とし穴への対応だが、――おい、あれはどうやったんだ、ショー?」

「それを聞くの!? まぁ、いいけどさ。『念動』だよ。私は小さくて軽いからね」

「……簡単に答えたが何故だ?」

「だって、小さくて軽いからね。与し易いと見られて変な絡まれ方をされるのも御免だし、そういう時は見えない拳が股座(またぐら)をグシャッとするって知られていれば、私も平和に過ごせるよね?」


 オルカス含めて男子が震え上がった。


「……だそうだ。

 俺もショーは小さくて心配だから初めはEランクに抑えたかったが、ああも完璧に対応されては文句が言えん。残り二つの落とし穴の内、一つは始めにショーが俺へと向かって来た経路上に有ったが、残りの一つは何処に在るか分かる奴は言ってみろ?」


 その問いには誰も答えられなかった。


「――な? 分かる奴の方が少ないんだ。ショー、何処だ?」


 言われたショーが槍を投げると、地面を抜けてぷすりと刺さる。

 分かる訳が無いと首を振る者、口を開けて呆ける者。


「という事で、此奴は文句なしのランクDだ。此奴はどうせソロで動くだろうが、機会が有れば探索に誘ってみるといい。勉強になると思うぜ。

 それと管理ダンジョンは見通しの良いダンジョンを選んでいる。逆に言うと非管理ダンジョンは見通しの悪い洞窟だとかばかりだ。漫然と魔物の相手をするのでは無く、見通しの悪い洞窟ならどうするかといった課題を常に頭に置いて探索しろ。それが後々に活きてくる筈だ。

 この後は講習を受けた大会議室で待機だ。登録タグが出来次第持って行くから、受け取ったら解散だな。新品の太陽石の時計付きだ。再発行には金も掛かるし太陽石も付かん。無くしたり、況してや売ったりなぞするなよ。二度と探索者には成れんからな」


 オルカス達はそのままギルドの建屋に戻り、ショーは槍を回収して置き場に戻してから、その他の新人探索者も借りていた訓練用武具を置き場に戻して大会議室へと戻った。


「ショーって言ったな。俺のパーティに入れてやるから有り難く思え!」


 ガルダーがショーに絡んでいるのを、他の新人達は呆れた顔で見ていた。


「え? 入らないよ? 面倒そうだし。入る意味も無いし。そもそも君はFランクパーティのリーダーに成れないんだから、君がリーダーをするならGランクパーティだよね? 幾ら同期とは言っても、普通仲が良くも無い三つも下のランクのパーティに入ったりしないよ? しかもそんなお誘いとも言えない暴言で」

「はぁ!? 俺が認めてやっているんだろうが!!」

「唾を飛ばさないでよ、汚いなぁ。君に認められたからって何なのさ。

 ちょっと口の悪い言い方をするけれど、君って物凄い頭が悪いよね。『俺は凄い』で考えが凝り固まっちゃってるから、『他にももっと凄い奴が居る』とか、『もっと凄くなる為に鍛錬する』とかそういう方向に向かわずに満足しちゃって、それで頭も悪いままなんだよ。ちゃんと自分が頭が悪いって認めて、賢くなろうと頑張らないと大変だよ?

 考えてみなよ。探索者にとって斥候は重要だけどさ、斥候はソロでも探索出来るんだから、斥候がパーティを必要とする時って言うのは余程そのパーティが斥候よりも強い時だけなんだよ。君だって斥候と名告りながら自分より鈍い人に寄生されても苛っとしないかい? それに強い魔物が居たとしても、女の子達がやったみたいにそんな魔物は摺り抜けて先に進んでしまえばいいんだから、仲良くやれる相手じゃ無いと仲間になろうなんてしないだろうね。

 それを無理矢理パーティに入れたりなんてしたら、深い階層で置き去りにされるか、態と罠に突っ込ませられるか、囮にされるかだろうね。お互い幸せにはなれないんだから、望まれていないパーティなんてやめておくのが無難だよ?」


 三人組や女の子達は、赤い顔で肩を震わせている。

 ガルダーも顔を真っ赤にして体を震わせていたが、その感情は対極に在った。


「ん~、それと君はもしかして教会関係者の子供だったりするのかな?」

「違うわ、鍛冶屋の息子よ」


 割って入ったのはケニッカ。


「え? それじゃ、ミスミさんの?」

「違うわ、ダノバン武具店の方」

「ああ……そっち」

「お、親父は凄いんだぞ!!」

「知ってるよ? ――ああ、そうか。私が鍛冶を教えて欲しいと訪ねた時にはにべも無かったけれど、自分の子供には甘い人だったのかな。凄い親父さんやその凄い客に凄いと言われ続けて調子に乗っちゃったのかな? でも魔境やダンジョンでは謙虚じゃ無いと死ぬ事になる。今日の話も親父さんに話したら、きっと大馬鹿者と酷く怒られる事になるだろうね。子供に甘いからこそ、自殺行為な愚行を見逃す筈は無いさ。

 でも私が言いたかったのはそういう事じゃ無くてね、探索者には領外の者も居れば貴族だって探索者をしているから、そんな振る舞いだと後悔するよと、そう言いたかったんだよ。

 例えばグリムフィードの貴族やその係累なら、君に対しても困った奴だで済ませるだろうけれど、貴族にも色々居るからね、誰もが子供だからと見逃してくれる訳じゃ無い。

 他領から来た探索者なら、もしかしたら田舎者のグリムフィードの人間と馬鹿にしている相手に侮辱されたと取られたら、配慮も何も無く何をされるかは分からないよ?

 そしてもしもそれが王都の貴族だったりしたらね、彼らは身分が下の者を人間とは見ていないから、家族郎党含めて奴隷に落とされるかも知れない。

 そう、君の馬鹿が家族を地獄に落とすんだよ。

 君がもし教会の関係者なら、領外との繋がりも有るのかも知れないから別の何かが有るのかもと思ったんだけどね、後ろ盾が何も無いのにそんな振る舞いをするのは無謀だし、後ろ盾が有っても嫌われるだけのその振る舞いに何の意味が有るのかな?

 それに、私は言ったよ? 変な絡まれ方をされた時は見えない拳で股座(またぐら)をグシャッとするって。君はそうされるまで分からない人?」


 赤い顔をしていたガルダーも、父親に迷惑を掛けるかも知れないとの話が出て来た辺りで顔を青くしている。

 グシャッとの辺りでは、後ろに飛んで首を盛んに横へと振っていた。

 大会議室の扉がタイミング良く開いたのは、丁度そんな時だった。


「ん、何をしているのかな? 皆席に座って。順番に登録タグを渡すからね」

「ランクはランク分け試験で告げたので確定だ。何度も言うが無事に帰還する事を最優先に、この領の代表となる探索者になる事を期待している」

「それと、これは今迄ギルドで預かる事にしていた物だが、認定印の押された台紙も返却しよう。尤も、これは十二歳までの登録者が対象になるかな。記念に、或いは後々の話の種になるだろうね。

 では、登録順にタグを渡そう。まずはリッグス、ランクFだ――」


 そして入って来たピスケッタとオルカスが、順に登録タグを渡していく。

 少女達は認定印の台紙が返って来た事に喜び、最後にショーもタグと台紙を受け取った。


 ピスケッタとオルカスが去った大会議室で、少女二人がショーの前に並んで立った。


「あの、ショー君、時々でいいから一緒に探索しませんか?」

「闇の日は基本的に探索する事にしているの」


 十歳の()()なら照れでも無い限り受け入れそうな提案を、しかしショーは一顧だにせず断っている。


「ん、御免ね? 暫くは一人で攻略したいから。それに初めの内は斥候に頼らずに、襲われるのを覚悟の上で感覚を磨いた方がいいよ? 私も目隠ししたまま二階層の魔物を斃せるまでに、かなりの時間が掛かったし」

「「……目隠し!?」」

「そう。管理ダンジョンの低階層は、無料で使える実戦方式の訓練場って割り切るのがいいよ。あ! でも、探索者の人に間違えて襲い掛からない様に、何方かはちゃんと見ていないと駄目だよ?」


 そんな事を言って足早に去るショーを、引き留める者は誰も居なかった。



 ~※~※~※~



 一階のいつもの案内窓口へと戻るピスケッタに付いて来たオルカスは、ピスケッタに今回の登録用紙を見せて貰いたいと告げた。


「ああ、やはりオルカスさんも気になるんだね! いやぁ、今回の登録者は豊作だよ。女の子が二人来てくれたのも嬉しいけれど、何よりあの子がランクDだって? 経験者でも無い十歳の子でランクDが付いたのは初めてじゃ無いか。

 二年前にダンジョンを整備して今の体制になって、その時八歳でダンジョンに遊びに来る様になった子達だろ? (まさ)しくこの体制が正解だった証じゃないか。

 ほら、魔道具で写しを取っておいたこの台紙も、認定印を捺す場所が足りなくて、競う様に十七人もサインしているよ。これは上の人が既にサインをしているからと諦めた者も居るんじゃ無いか?」

「はは……分かった分かった。俺も誰が認定印を押したのか見たかったんだ。見たい物は見れたからもういいぞ」

「おお! きっとあの子は凄い探索者に成るよ。これはもう絶対、賭けてもいい!」

「ははは、分かったって。――だがあの体格だ、筋力が無いのは確かで心配もする。おやっさんも変な期待で目を曇らせずに、ちゃんと無茶をしていないか見ていてくれよ?」


 そのオルカスの言葉にピスケッタははっとした顔をして、そして居住まいを正してしっかりと頷くのだった。


 しかし、実際にオルカスが気にしていて見に来ていたのは別の欄。


(何だよ、ちゃんと性別は女に丸を付けてるじゃ無いか)


 恐らくピスケッタが見逃したから、誰も気にしていないのだろうと気が付きながらも、オルカスはそれを見なかった事にした。

 その方が面白いし、そもそも今の探索者ギルドになったのが誰の案かを思えば、その邪魔をする様な事はしたくなかった。


「いや、しかし、暫くはランクEでやってくれた方が安心だったがなぁ」


 恐らく直ぐにでもランクCへの昇格条件を満たしてしまうのだろうと予見して、オルカスは軽く溜め息を吐いたのである。



 ~※~※~※~



 探索者ギルドから続く通りを、ショーはメイド姿の女性と一緒に歩いていた。


「カヌレ、お迎え有り難うね。でも、カヌレも自分の時間を持ってもいいんだよ? このままだとお婿さんを捕まえ損ねそう」

「ふふ、心配無用です。まだ十九ですから」

「カヌレはもっとお姉さんだと思ってたのに。全然歳を取った様に見えないのは詐欺だね」

「それをショーに言われたく無いですね」

「あー。……カヌレの赤ちゃんと遊ぶより先に、妹と弟が出来ちゃったし」

「異母弟妹ならリジー様にマハ様もいらっしゃいましたよ?」

「会った事無いし。

 ……もー、憂鬱。何でか病弱って事になってたから、学校も週一で良い事になったけど、儚げに見せろとか無茶振りされたし。儚げって何!? 鼻毛の親戚!?」

「ぐふっ」

「明日からの学校が憂鬱だー!」

「ふ、普段と同じく演じられませんか?」

「演じてないし。ショーもちょっと味付けを変えただけだし」

「ですから、ちょっと味付けを変えるだけですよ」

「ん~、或る時は新人探索者、或る時は花屋のオーナー、而してその実態は!!」

「ふふふ、はいはい、プルーフィア様。早く帰らないとお夕飯に遅れてしまいますよ」


 ポーズを付けて立ち止まっていた男装の少女は、その言葉に先を行くメイドを追い掛ける。

 五年を過ぎて成長したプルーフィアは、男の子と見間違う格好で、計画通りにお忍びの探索者生活を始めたのである。

 ここまで3/14に上げた。その間に冒険者になるのです×3が更新出来ていれば良いのだが……。

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