(42)探索者と冒険者
ストックが有る時は水土の更新にする事にした。無ければどっちか。
今回は設定回ですね。
「まずは探索者とは何かについて、同じ様な仕事である冒険者とも較べながら説明しよう。
端的に言うなら、探索者は既知の領域から有用な資源を回収してくる者達だね。既に知られている様々な資源を効率的に集めてくるのが仕事だから、依頼の品は何処で手に入るのかや、そこではどんな魔物や魔獣が現れるのか、その対処法は何かといった情報が非常に重要となるね。多くの情報は資料室にて調べる事は出来るだろうが、資料室には無い情報も有る。他人の知らない情報を持っていればそれだけ稼げる訳だから、探索者が秘匿していたりする情報だね。逆に有用な情報はそれだけでも買い取り対象だ。それは覚えておくといい。
これに対して冒険者は未知の領域に挑む者達だね。魔境から得られる新しい産物、未発見のダンジョン、それらを探し出す冒険者は探索者に必要とされる全てに加えて、未知の状況から必要な情報を得る力、情報から類推する力、思い込みに縛られず柔軟に対応する力といった、一段高い応用力が要求される。まぁ、そうは言っても冒険者の場合は慎重さが一番かも知れないけどね。
そしてここまで聞いたなら気付いたかも知れないがけれどね、探索者の力量が無ければ冒険者は出来ないし、探索者だけをしているつもりでも冒険者の領域に踏み込んでしまう事は多々有るのだよ。
この講習では探索者が陥り易い多くの失敗を紹介しよう。本来なら手や足やその命と引き換えに学ぶ知識だよ。勿論資料室には事例集が置いてあるけれど、文字で読むと読み流してしまうからね。今日はしっかりと心に刻んで帰るようにして欲しい。
では復習から始めようか。此処に居るからには学校でダンジョンについて既に学んでいるか、或いは一般開放区画での講習を受けている筈だからね。
ミリア君、ダンジョンについて知っている事を説明してくれるかな?」
二人組の少女の一人が、ピスケッタの言葉に慌てながらも答えを返す為に口を開く。
「え? あ、ダンジョンには魔物が出て、魔物は突然ダンジョンの中に現れて、魔物を斃しても魔石しか残さないの。魔物がダンジョンの外に出てくる事も有るけど、ダンジョンの外だと数日で消えちゃうんだって」
「うん、そうだね。他には何か無いかな、ケニッカ君」
「ダンジョンに潜ると、その深さに応じて位階が上がって、強くなれるわ。運が良ければそのダンジョンに固有の魔法も覚えられるみたいね」
「その通り。では、他には? ガルダー君」
「ダンジョンに置き去りにされた物は強化されるんだろ? でもそれならダンジョンの中に武器だとか置いとけばいいじゃ無いか。頭悪いんじゃ無いのか?」
「いい所に目を付けたね。それについても後で説明しよう。では、他には? リッグス君」
「ぅえ!? いや、殆ど出尽……あ! ダンジョンの中に生えている薬草や鉱石は貴重な物が多い!」
「良く思い出したね、その通りだ。では次はクルマルク君」
「ぅああああ……有りません!」
「そろそろ出尽くしたかな? ベル君は何か無いかな?」
「『鳥の洞窟』では鳥魔法が覚えられる!!」
「有名処を出して来たね。個別の内容になってきたが、最後にショー君はどうだろう?」
「色々言われている事は有るけれど、本当の所は実際に行ってみないと分からない」
「成る程、その心構えはとても重要だね」
新人探索者全員からの聞き取りを終えて、ピスケッタはとても満足気に頷いた。
「今回の新人は皆さん中々優秀だね。良く知られている事は殆ど網羅されているよ。
でも、既に失敗の種は仕込まれているみたいだから、それはしっかり解きほぐしておこうか。
まずはガルダー君の疑問に答えよう。ダンジョンの中に置かれた品物が強化されるのなら、ダンジョンの中に置いておけば良い、だったね。
これは確かにその通りなんだけれど、同じ階層なら、十年保管していた武具を実際に身に着けていた武具が、一月しない内に追い抜いていったという実験もされているんだ。
管理にも気を付けて十年間ダンジョンで保管した高価な、但し十年前の技術で造られた武具と、それを一月も在れば追い抜ける最新の技術で造られた武具。探索者が何方を求めるかなんて聞くまでも無いよね?
それにこの辺りは森のダンジョンが多い。単純に強くなる無属性や燃焼効果が付与される火属性のダンジョンとは違って、爽やかな森の空気が辺りを吹き抜ける森属性の剣に需要は無いんだよ。森に潜むには気配が紛れて良いのかも知れないけれどね。
或いは森属性魔法の効果増強を期待しているかも知れないけれど、そういうのは魔石をアクセサリーに加工した方が余程効果が高い。
そういう訳で、今も実験自体は続けられているけれど、ダンジョンで保管された装備が出回ったりはしていないんだよ。
――ん、ショー君、何かな?」
「森で強化した装備が森に潜むには良いって言ってたけど、それって森以外では目立つという事なの?」
「うん、良い質問だね。恐らくとしか言えないけれど、その通りだと思うよ。尤もそんな僅かな違和感に気が付くのは、余程恐ろしい魔獣だけだろうけれど、逆に言えば一番隠れたい相手から隠れられないかも知れないというのは、憶えておいてもいいだろうね。
――他にも質問が有れば、ショー君の様に手を挙げてくれればいいからね?
では、続けようか。思い込みし易い部分を指摘していくよ?
まずはダンジョンには魔物が出るという事。この事自体は正しいし、魔物についても間違ってはいないけれど、ダンジョンには魔物しか出ないと思ってはいないかな?
もしもそう思っていたなら、そこは正しておく必要が有るね。ダンジョンには魔獣が棲み着く事も有る。と言うよりも、未発見――いや、管理されていないダンジョンには、必ず何かしらの魔獣が潜んでいると思って間違い無いかな。そりゃあダンジョンなんて魔獣に取ったら都合の良い巣穴なんだ。棲み着かない訳が無いよね。君達が入った事の有るだろう一般開放されたギルド管理ダンジョンは、ダンジョン内部に隠れ潜んでいる魔獣が居ないか虱潰しにした上で、外部から魔獣が入って来ないように管理しているんだよ。
こういうダンジョンに入り込んだ魔獣は大凡三種類に分類出来る。
一つはダンジョンから敵と認識されない魔法生物系の魔獣。つまり、スライムやファントムの類だね。これらはダンジョンの魔力に惹かれて入って来るんだけれど、管理ダンジョンでも駆除し切れないのが厄介な所だね。
一つはダンジョンに生える薬草や鉱物を餌とする魔獣。そういった魔獣は、ダンジョンの中に巣を作り、ダンジョンの魔物から身を守っている事が多いね。多くは小動物型の魔獣だが、稀に大型の魔獣が入り込む事も有る。
最後の一つは、単純にダンジョンを巣穴として利用している魔獣だ。魔物を歯牙にも掛けない強力な魔獣の場合が多い。要注意だな。
さて、それでは最初の魔法生物系魔獣が、探索者の気を付けるべき魔獣と思う人は手を挙げてみようか」
突然話を振られて新人探索者達は狼狽えるが、手を挙げたのはショー一人。
「では、二つ目の餌を求めて入って来る魔獣が、探索者の気を付けるべき魔獣と思う人は手を挙げて」
ショーが手を挙げ続け、そこに少女二人が加わった。
「では、最後の巣穴として利用している魔獣が、探索者の気を付けるべき魔獣と思う人は手を挙げて」
最後の質問には全員が手を挙げる。
「答えは……全て探索者は気を付けなければならない魔獣なんだよ。
例を挙げて説明しよう。
まずは魔法生物系の魔獣だけれど、ダンジョンから敵と認識されないというのは恐ろしい事なんだよ。魔法生物は魔力が有れば幾らでも増えるし、入り込んでも来るからね。ダンジョンの中で地底湖に行き当たったと思ったら、それが全てスライムだったなんていうのは良く有る事だね。まぁ想像したくも無い状況には違い無いよ。
そして餌を求めて入って来た魔獣も、少なくともその階層の魔物を凌いで生き残って来た魔獣なのだから馬鹿には出来無い。しかもその多くは身を隠す事に長けている。気が付けば首筋を噛み切られていると思うと怖いだろう?
しかし、魔法生物系も小動物系も本当に怖いのは、その階層に居る魔獣が本当にその階層に棲む魔獣とは限らないという事だな。何故なら魔物とは違って自由に階層を行き来するんだから。一階層で出会した魔獣が、普段は三十階層で暮らしている魔獣かも知れないのだよ。つまり、それだけの位階に登り詰めた魔獣という事だね。
巣穴としている魔獣が危険なのは言うまでも無いが、その他の魔獣も全て危険なんだ。決して油断はしない様に」
そう言ってピスケッタは大会議室内に視線を巡らせる。
新人冒険者達は、より一層真剣味を増して耳を傾けている。
「管理ダンジョンで探索している内はそこまで必要としないかも知れないけれどね、非管理ダンジョンを探索するなら必ず斥候系のメンバーを仲間に加えた方が良い。即ち、魔物や魔獣の気配を察知して、その強さを見極め、時に罠を見破るそういう仲間だよ。
まぁ、メンバーが分担して斥候の役割を果たしてもいいんだけれど、兎に角斥候が出来る仲間が居ない限りは管理ダンジョン以外は潜らない方がいいし、許可も下りないね」
と、そう言われて、ガルダーと呼ばれていたショーに絡んだ少年は顔を顰めた。
「次に、ダンジョンを潜れば位階が上がって強くなれる、運が良ければ固有の魔法を覚えられる、だったね。
これにも君達が予想もしていない罠が潜んでいるんだ。
例えばダンジョンの属性が病や老いや死だったなら? そういった属性に染め上げられて、それを制御出来なかったら?
もっと身近な例で言うと、火炎キノコの亜種に爆裂茸と呼ばれるキノコが有るのは知っているね? 火炎キノコが炎を吐いたり、爆裂茸が破裂するのは、これも魔法だと分かっている。つまり、世の中の何処かには、爆裂茸の様に自爆する魔法を覚えるダンジョンが在ってもおかしくは無い。
未発見のダンジョンに入る事は、魔物や魔獣の存在を抜きにしても非常にリスクが高いと分かったかな?
因みに、そういう未発見のダンジョンでその性質を調べるには、魔物と交戦せずに魔物の様子を調べる必要が有る。交戦しなければ強化の度合いも小さいし、魔物はダンジョンが使う魔法との説が有る程に、属性や覚えられる固有の魔法と近い性質を持っているんだ。ここも斥候の活躍する場面だね。まぁ、冒険者の領域に踏み込むなら、斥候は必須と思った方がいい――」
ピスケッタの語る新人探索者向けの講習は続く。
作者的には前回から漸くストーリーが始まった感じ、だけれど多分気の所為。
だって、プロットが何も無いんだもの。




