(39)西都と東都
次回閑話入れて二章終わり! 三章からは週一ね。
西都リンシャは、王都方面への山の口が在ると言っても、険し過ぎる山道の為、人の行き来は殆ど無い。
王都側の山の口が在るクルムヴァレー領との交易も殆ど無くて、西都だからと言って外からの輸入品は無く、山の特産物が店に並ぶ。
それも領都グリームより一割二割安い程度だから、態々リンシャまで買い物に来ようという程の物は無い。
それでも裏道に入れば、リダロッテさんの小物屋の様な此処でしか手に入らない物もちゃんと有る。
「うん、それはいいけど、遊びに来た先でも勝手に補修を始めるのはどうかと思うよ?」
「ん? んん?」
既に習い性となっていて、勝手に手が動くんだから仕方が無い。
それでもジャスティンお兄様から窘められて、今は仕方が無いと諦めた。
まぁ、領都の隅から隅まで手を掛けた後でも、まだまだ未開の開拓地が有ると分かっただけでも十分だ。
そのまま二日程西都リンシャでお土産を買い漁ってから、東都ファイデンへと向かう。
ジャスティンお兄様はリンシャから寂しそうに領都への帰り道へと就き、ザメルさんもそれに従ったから、一緒に居るのはヴァレッタお姉様とアドルフォお兄様とカヌレとイサナさん。
東都ファイデンからアクトー侯爵領方面へ向かう山の口は、峠の標高も恐らく千メートル程度と低く、危険も少ないからだ。
寧ろ祈りを捧げる対象となる山頂辺りは酷いがれ場で近付けないから、山頂を拝むかなり離れた安全な場所までしか行けない。
編入した領の学園が王都の学園よりも余程水が合うのか毎日楽しそうにしているアドルフォお兄様も、このグリムフィードの街巡りに入ってからは一段と燥ぎっ放しだ。
「あ、ほら、彼処! 農家の集落が有るけれど、しっかりした大きな家だよ。やっぱりグリムフィードはいいなぁ。王都の近くだと荒ら屋で、誰もそれに疑問を抱いていないんだ」
「え? どうして? 王都ではそんなに農作物が売れませんの?」
「王都の農業は地主が小作農に働かせているんだよ。それも儲けが殆ど地主に入る遣り方でね。僕には奴隷と何が変わらないのか分からなかったよ」
「……馬鹿ですの!?」
そんな会話がころりと真面目な話に転じて、余りの王都の酷さにヴァレッタお姉様が絶句している。
私もそう思う。底を上げて皆で幸せになるのでは無く、上が搾取する遣り方では必ず何処かで破綻する。
ブラックな企業でどれだけ働いても手取りが少なければ、革新的なアイデアなんて出ない。そんな余計な仕事は増やさない。結果成長も無く、気が付けば普通に成長している他の企業から取り残されているだろう。
前世での親戚に、苺農家の小父さんが居た。その人は良い苺を作る事に身魂を擲っていて、小父さんの作る苺は物凄く大きく甘くて美味しかった。
小父さんが亡くなってから、蛇苺みたいに小さくすかすかになった。
喩えブラックでも働けば働く程に遣り甲斐が有れば、それだけの成果は出るのだ。
王都はすかすかの苺。グリムフィードは甘くて大きな苺だ。
でもそこに目を付けてグリムフィードから甘くて大きな苺を奪おうとしたら、途端にすかすかの苺になるだろう。だからと言って買い付けようと思っても、オドロル山が障害となって傷んだ苺しか持ち出せない。
それなら甘くて大きな苺の作り方を教えろと言われても、彼らには理解出来ないのだろう。小作人が元気な様子を見せていたら、きっと現界まで搾り取ろうとする。そして苺はすかすかになるのだ。
「青息吐息の小作人、力が出なくて働けない。人を増やして凌いでも、元気が無いから病気になる。疫病流行ればもうお終い」
「そうですわ! 大馬鹿ですわよ!!」
きっと彼らはそれを賢いやり方と嘯くのだろうが、周りから見れば大馬鹿で恥知らずな所業だ。
「そんな王都で学んだ事が、本当に何かの役に立ちますの!?」
「それは役に立つよ。王都で学ばなければ、王都の貴族がどれだけ腐った人非人か分からなかったからね。でも、兄さんは今頃グリムフィードで学ぶ事を学び直してて大変そうだよ」
もう直ぐ刈り入れ時の麦畑の中を馬車は進む。
麦の穂も撓わに実り、グリムフィードは今年も豊作が約束されていた。
東都ファイデンに在るシャーチお爺様の館で歓待を受ける。
「此方から来られるとのう、足止めも何も、砦で何とかするしか無いんじゃ。森の中故に落石なんぞも望めんしの。それでもぼちぼち山の神様とは話が出来んかは試しておるよ」
と、シャーチお爺様からは言われたけれど、次の日出向いた峠の近くから山に祈りを捧げてみれば、返してくれたのはオドロル山の神様だった。
「あれ? オドロル山の神様?」
伝わってくるイメージでは、人が区分けした山の区分に関係無く、この辺りもオドロル山の領域らしい。
そして私が作ったオドロル山の模型も効果が有ったみたいで、話し掛けてくる声が聞こえると喜んでいる様子だった。
でも、此方の峠の石で作った模型だと、声が遠くて良く聞こえないらしく、またオドロル山へ向かう事が決まってしまう。
そんな事を山を下りてからシャーチお爺様に告げれば、是非ともオドロル山の絵を描いて山に捧げたいと、今からリンシャに向かいそうな程に乗り気になっていた。
その後、東都ファイデンでも二日を過ごす。
此方は西側よりも峠を越え易いと有って、他領の品物が結構な量、店先に並んでいる。
カヌレもメイド仲間へのお土産だと、小瓶に入った香水や化粧水を買い込んでいた。
イサナさんはそういうのに手を出さない。探索者に成ると、そういう女子力は消え去ってしまうらしい。
「……ちょっと、今失礼な事考えたよね? 香水着けて無いのはプルーフィアも同じだから」
「え!? ――スンスン……臭いのは嫌」
「そうさ、魔境で臭い匂いなんてさせてるのは素人だよ」
服の匂いを嗅いでみたら、既にいい匂いがしている。
これ以上の匂いは必要無い。私達は自然派なのだ。
それから私達は領都グリームへと戻った。
季節が巡る度に、何度も西都や東都を訪れた。
オドロル山にも何度か登った。
館の敷地に稽古場が建てられて、エビの稽古は其処に移った。
王都でジャスティンお兄様達の使用人をしていた元兵士に、弓と槍を教わる事になった。
隔日の街歩きは絶える事無く続いている。
そしてその日も私は街を歩いていた。
裏通りから怒鳴り声が聞こえて来た。
「馬鹿な事を言うな!! お前達の! 聖神ラーオ様への信心が足りないからだろうが!!」
「何を言ってるのよお父さん!! お母さんがやってたみたいに、ちゃんと肥料を考えて、水遣りしないと育つ訳が無いじゃない!! どうして卵殻の入荷を止めちゃったの!?」
「ゴミなんかが肥料になるか!! お前は聖神ラーオ様の御力を信じないのだな!!」
私はカヌレと顔を見合わせる。
グリムフィード領にもこんな人が居たんだと、ちょっと新鮮な驚きだった。
そして、ふ~ん、と思いつつ、私は声のする方へと足を向けた。
此処まで毎日更新頑張ったけど、他の作品に手が回らないのがね。
冒険者になるのです×3を再開するのだ、おー!!
(三章が脳内プロットさえ真面に出来ていないのも有る)




