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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第二章 三つの街と広がり行く噂
37/95

(37)街歩きの日には

 日常回。

「そうね、いつも通りのいい出来だから、全部でレベル三魔石五十六個分。――レベル六魔石二個とレベル三魔石二個でいい?」


 そう元気良く告げる小物屋店主のリダロッテお姉さんに、私は「いいよ」と了解を示した。

 一応、魔量秤に魔石を載せて、魔力が消費されていないのを確かめてから渡してくれる。

 魔石は放っておけば魔力を自然に回復すると言っても、魔力を消費した魔石をお金替わりにするのは流石に非常識と思われるらしい。

 にやっと笑って、私はそれを首から下げた袋の中へ。更に続けてこっそり虚空蔵屋敷の中へと仕舞い込む。


 持ち込んだ猫や小鳥のフィギュアは、一日十体をノルマに作って全部で二十体。五歳児の掌よりも小さな人形だから、今では一つ作るのにも五分掛からない。一時間で作れる量だ。

 内訳は彫刻用石材の端材で作ったのが六体と、彫刻用木材の端材から作ったのが四体、建築用石材と木材の端材で作ったのがそれぞれ五体ずつ。

 買取価格は建築用木材で作ったのが一番安くて一体レベル三魔石一つ分。次が建築用石材と彫刻用木材が同じ価格でレベル三魔石三つ分。彫刻用石材で作ったのはレベル三魔石四つ分だ。

 因みに、どの材料で作っても、一体当たりの私の労力は変わらない。だから、なるべく神像を造った時に切り出した端材から使う事にしている。建築用の端材も、リダロッテさんから只で貰っているから、材料面での負担は無い。

 そして魔石はレベル一で二十円、以降レベルが上がる毎に三倍となり、つまりレベル二で六十円、レベル三で百八十円と私の中では理解している。

 つまり、百八十円掛ける五十六個で約一万円相当。もう結構な小金持ちだ。


 こんなに払って大丈夫かとも思ったけど、リダロッテさんの小物屋の中には私の納めたフィギュアも並べてあって、順調に売れて人気商品になっているらしい。

 私が納めた切り出したままのフィギュアは凡そ三割増しの値段で。色を塗ったりと手を掛けている物はそれよりもう少し高い値段で。

 色塗りまでやるよと言ってみた事は有るけれど、そちらはリダロッテさんの趣味らしくて、私には任せて貰えない。まぁ、趣味なら仕方が無い。

 と言うよりも、この店自体がリダロッテさんの趣味だ。


 リダロッテさんは、私の礼拝堂のリフォームに来てくれたロダン親方の娘さんで、昔から端材を使って小物類を作るのを趣味にしていたのだとか。

 この小物屋も本当は小物屋では無くて、ロダン工務店の営業所みたいなものだったらしいけれど、其処にリダロッテさんの作品を置く様になって見た目は小物屋のこんなお店になったらしい。

 自分の家を楽しく飾り付ける小物を求めてお客さんが来る様になった御蔭で、ちょっとしたリフォームだとか様々な仕事が舞い込んできて、嬉しい悲鳴を上げているのだとか。

 更に言うなら領館がリフォームの依頼を出す程に、ロダン親方が誠実な職人として信用を置かれているのも特徴だろうか。


 だからこそその伝手で、私もリダロッテさんにフィギュアの買い取りをお願いしている。

 逆に同じくその伝手で、ロダン親方からセメントやらの必要な物を購入したりもしている。

 その中で色々と職人の業を教えて貰ったりもしている。

 私がどう思われているのかは分からないけれど。


「おう、助かったぜ! あんがとよ。何も無ければまた明後日にでも来るから宜しくな!」

「ぷっ……や、やめてよ。お父さんの真似はお腹が苦しいわ」

「お~う、そいつはいけねぇ。それならバラクの雲竜水だな! こいつを飲めば一発だぜ!」

「ぶぷふぅ~~、だ、駄目、お腹が苦しい!?」


 リダロッテさんと戯れて、お店を出るまでが街歩きの最初の約束だ。


 そんな街歩きについて来てくれるカヌレは、館の中では生活魔法が使えて物静かなメイドと思われていたらしい。

 でも、私の街歩きに付き添う様になってからは、物静かだけれど芯はしっかりしていて、口の堅い信用出来る娘になったらしい。

 要は、私との街歩きで私が内緒と言った事は、お父様やお母様に訊ねられても笑いながら頑として答えようとはしなかったのだとか。


 でも私からすれば、カヌレは傍観者的に楽しい事好きなぼっち気質で、眺めているだけで楽しい私の信用を失って、引き離されるのを良しとしていないというそれだけに見える。

 何と言ってもそれまではこっそり覗き見るしか無かった私を、堂々と間近で観察しながらによによしていても誰にも咎められないのだ。私がカヌレでも私の味方をするだろう。


 と言うか、そういうのが分かる辺り前世の私も大概そういう性質をしていたのだが、カヌレと一緒は気を遣わずに済むからカヌレが居てくれるのはとても有り難い。

 屋台で売ってる味付けの違う焼きルルモを二本買って、カヌレと一緒に食べる。カヌレに私の練乳焼きルルモを差し出すと、パクリと一口囓られる。私の口元にもカヌレがシナモン焼きルルモを差し出してくるので、パクリと一口囓り取る。何も言わずとも遣りたい事が通じ合うからとても気安い。


 そんな様子が周りから見ても分かるのか、どうやらカヌレはこのまま私の専属メイドになりそうな予感。

 いいのかな? 悪い事では無くて楽しければ、カヌレは何も咎めないんだけど?


 にやにやしながら私は歩く。

 崩れかけている石垣を見付けて、流れる様にサッとセメントを混ぜ合わせて補修する。


「ああっ!? ……坊ちゃん、態と放置していたんじゃ無いのよ? も~、ちょっと待っててね」


 私はマドレーヌみたいな焼き菓子を手に入れる。


 ほくほくしながら私は歩く。

 大通りを歩けば、時々屋台が店を広げている。


「おー、ショー君、それは焼き菓子か? 喉が渇くだろうからうちのシャワディでも一つどうだ?」

「じゃあ、美味しいのを一つ」

「良し来た、任せろ!」


 男の子とよく間違えられるから、街を歩くお忍びの私は職人の卵で名前はショー。

 証で証拠でプルーフだから。

 この世界的には、青い可愛らしいプルーの花みたいな、という意味合いらしいから、私の作品にはショーの名前とプルーの花を刻印している。


「よし、これがいい音だな。飲み口を開けちまうぞ?」


 そう言った屋台の小父さんから渡されたシャワディは、小型の椰子の実みたいな果物で、中に果汁が詰まっている。

 ストローが付いて来るけど、これもシャワディの蔓だ。片方の端を開いて乾した物で、木の様に硬いスプーンストローになっている。

 カヌレと一緒に回し飲み。うん、美味しい。

 八つ追加で手に入れて、家族へのお土産にした。

 締めてレベル三魔石が九つ分。

 飲み口を開けないままのシャワディは、背中の鞄をカヌレに向けたら、カヌレがそのまま私の鞄へと入れてくれた。


 因みに、シムビス様へ祈りを捧げればロシュト様からの虚空庫を授かるけど、それには売り物になるだけの手作りの何かを捧げる必要が有る。

 私は色々なポーズで気勢を上げるシムビス様のフィギュアを捧げ物とした。その後も時々その時の気持ちで神様達のフィギュアを作って供えている。

 メイド達は刺繍を入れたハンカチや手編みのマフラーなんかを捧げていた。

 ボーイ達は木彫りの像に挑戦したりと色々だ。

 もう館の半分以上は虚空庫を授かっている。


 それで分かったのは、生活魔法も使えない人達の虚空庫には、握り拳一つか二つ分くらいしか物が入らない事だった。

 生活魔法が使えるカヌレなら、これが両手で持ち上げられる水タンクくらいになる。もっと具体的に言うと、十八ロールのトイレットペーパーくらい。

 これが私だと、その十倍だ。多分虚空蔵屋敷になっても、容量は虚空庫の場合と変わらないという予想が立つ。仕様は色々と違うけれど。


 つまり、今後領民全員が虚空庫を持ったとしても、ひょいひょいシャワディを虚空庫に仕舞ったりするのはとても目立つ。

 すると“こっそり”が出来無くなる。

 それが嫌なので、私は虚空庫――虚空蔵屋敷を隠している。

 シャワディが詰まった鞄からシャワディが消えて、鞄がへっこむのは不自然だ。

 胸に下げて服の中の小銭袋とは違うのだ。


 因みに、本当に街中で硬貨を見ない。殆ど全てが魔石で遣り取りされている。

 その魔石は当然ながらダンジョンから得られた物だ。

 ダンジョンで手に入る魔石は、三階層毎の括りでレベル分けされている。人の場合は一階層毎の位階で呼んでいるのに、何故か魔石はレベル呼びだ。しかも対応してないのでややこしい。

 例として五階層で活動している探索者で言うなら、恐らくその探索者の位階は五で、これは活動している階層と等しい。しかし五階層で手に入る魔石はレベル二魔石となる。

 このグリムフィード領に限っては、換金なんてしなくても探索者はダンジョンでそのままお金を稼いでいるのと同義だ。

 銅貨が百円、白銅貨が千円、銀貨が1万円、金貨が十万円、聖貨が一千万円で私は換算しているけれど、確かにこれでは硬貨を持ち込まれても面倒なだけだ。


「カヌレはダンジョンに潜らないの? お小遣い稼ぎ出来るよ?」

「そういう危ない事はやりません」

「鳥の魔法とか覚えたら便利そう」

「うっ……誘惑しても駄目です」

「スライムの魔法で勝手にお部屋がぴかぴかに?」

「ぅうっ!? 駄目、駄目、誘惑しちゃ駄目です!」


 でも、浅い階層が観光スポットになったなら、きっとカヌレは真っ先に遊びに行くのだろうなと思う。


 これが大体私の街歩きの一日で、館での一日とを交互に繰り返しながら、私の日々は過ぎて行くのだった。

 因みに、聖貨をお金として使えるのは教会だけという設定。

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