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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第二章 三つの街と広がり行く噂
32/95

(32)死の神

 誰も把握していない所で次々と遣らかすプルーフィア。

 パチパチと焚き火が爆ぜて火の粉が上がる。

 二人の闖入者が帰った後は、あっと言う間に辺りは暗くなってしまった。

 スイラ様に正式なお願いをするのはまた明日だ。一応お礼は小さな氷のスイラ神像を造って、有り難うと伝えている。


「くっくっくっ、奴らのあの顔と来たら!」

「それを見れたのはお前らだけだぜ? 彼奴らも増長していたがその分実力は有る。街までは無事に帰れるだろうさ」

「ふふ……それで噂をきっちり散蒔いてくれたら楽になるね」

「それ以前に、ギルドが禁止しているんだから真面目に守って欲しいもんだがな」

「その分は働きで返して貰うさ」


 その働きが何かを悟って、また笑いが零れた。

 その間私は焚き火の周りで焼けた魚を頬張っている。

 鱒に似た魚で、湖で捕れるのよりも絶対美味しい。

 お土産に持って帰れない事が残念だった。


「プルーフィアの魔術も凄かったな」


 そんなアロンド叔父様の声に私は首を振る。


「スイラ様のお膳立てが有って、私も神像造りで人形(ひとがた)を作るのに慣れていて、準備する時間もたっぷり有ったわ」

「それだとしてもだ。俺らだけではあんなに旨くは行ってない」

「だとしたらいいけど……」


 大した事は無いとの私の評価をアロンド叔父様に否定されて、自己評価が低いのが習い性に成っていると反省する。私は今世で遣り遂げたのだから、もう自分を低く見積もる必要は無い。

 誇張するのは論外だけど、お母様を振り向かせる事が出来無かった私も、お父様に言葉を届けられなかった私も、もう居ないのだ。


「うん、じゃあ、頑張ったわ!」

「ああ、その通りだ。良くやった」


 夜は仮小屋の中で眠り、朝になったら自然と目が覚めた。

 仮小屋の外ではイサナさんとオルカスさんが見張りをしていて、私に気が付くと手招きをする。


「お早う。よく眠れたか?」

「魔境の中なのにぐっすり眠っちゃったのよ? 探索者失格?」

「くく……そうは言わんよ。見張りが他に居るんだから寝るのが仕事だ」

「その替わり、起こされたらさっと起きる。それが探索者の資質よ?」

「多分ちゃんと起きてるわ。今日も起こされてないもの」


 そう言って、私も焚き火の周りに置いた石に座る。

 大河グラウプルが朝靄を運んでくるのか、渡りは白く霞んでいる。キャンプに来たみたいでわくわくするけれど、魔境の中だ。


「イサナさんが居るから魔物が来ない?」

「まぁ、そうだな。それと魔物はダンジョンだ。外に居るのは魔獣だな」

「私も中々やるでしょ」


 魔境がキャンプ地になる程のスキルと言われると、それは確かに凄い力だった。


 言ってみればスイラ様にお願いした事と通じる力なのだろうけれど、同じ事を魔術でどうやれば実現出来るのか、考えても分からない。

 そんな力を得る事が出来ると考えたら、ダンジョンはただ魔力を得られる場所では無く、益々魅力的な場所に思えてくる。


 でも、私にはまだ早い。

 イサナさんの力でキャンプ地になっているという事は、イサナさんが居なければ此処にも魔獣が現れるのだ。

 本当なら大河グラウプルの畔はどんな状況なのか教えても貰えない程、私はひ弱で脆いのだ。


 やっぱり私はまだまだ毎日鍛錬して、只管邁進しなければならないのだと気持ちを新たにしたのである。


 とそんな風に意気込んでいたのだけれど、どうやら早く起き過ぎたみたいなので、大河グラウプルから水を汲んできて貰って、他にも余っていた木材を貰い受ける。


「このお水は顔を洗っても大丈夫なの?」

「ん? ん~……分からないね!」

「飲む分には煮炊きしているぞ。湧き水なら飲んだりもするが、大体水なんかは生活魔法で出しているから気が付かなかったな」

「よく気が付いたね。私もちょっと迂闊だった」


 そんな事を言っていたから、道中と同じく顔を洗う水は魔術で出した。

 ガラスのボールはスイラ様に持って行かれてしまったから、布バケツに入ったままに活性炭を放り込んでおいて、水が落ち着くまで木材で森の神レラ様の像を造る。

 今や一時間も有れば一体の神像が造れる様になっていた。


「ここに拠点を造るとして、杭の所まで開発するのでいいの?」

「そう、だな。近い方の杭までは広げるかも知れん」

「ふ~ん……ちょっと森の近くまで寄るから、イサナさん一緒に来て」


 勘違いをしてはいけない。この魔境で私は一人で歩く事は出来無い。

 イサナさんと一緒に森の際まで近付いて、そこにレラ様の像を置いて跪く。


「森の神様、ご挨拶が遅れたのよ。

 此処の森の神様はレラ様かしら? そうだったらレラ様の像を造ってみたから持って行ってね」


 そんな言葉にも反応は無い。


「レラ様じゃ無いのね。それじゃあ名前を知らない森の神様、私達は此処に拠点を築こうとしているの。この周りに杭を打っている所までは、森の木を切ってそれできっと家を建てるわ。だから其処を住処にしている生き物が居れば教えて上げて。ちゃんと引っ越し出来る様に。

 拠点が出来たらちゃんと森の神様に祈りを捧げる様に伝えるわ。でも、森の神様が何を好むのか分からないから手探りになっちゃうの。それは許してね。

 私の言葉が伝わっているなら、レラ様の像で悪いけれど持ってっちゃって。何か変化が起きないと、伝わったのかも分からないのよ」


 そう言うと、レラ様の像が姿を消した。

 すっきりした気持ちで振り返ると、イサナさんが目を瞠って立ち尽くしていた。


「という事だから、宜しくね?」


 こくこくと何度もイサナさんが頷いた。


「本当に、まだ名前が無いのかも知れないけど、祈りを捧げたら何処にでも神様は居るものね。

 もしかしたら、探索者ギルドの建物にも、神様が憑いていたりしないかしら?」


 それこそ犬猫の様に。

 案外前世での八百万な感覚に、この世界の神様事情は近しいのかも知れない。


 そして焚き火に戻ろうとすると仮小屋からアロンド叔父様が姿を現した。


「…………何か有ったか?」


 難しい顔をしているアロンド叔父様と、首を傾げて顔を見合わせる。


「森の気配が動いた様な……分からん」


 はっと目を見開いたイサナさんが、先程の事を伝えている。

 そちらは任せてしまって、私はスイラ様の人形に布バケツの水を注いでいく。

 集中して作業が出来るのは、きっと周りの皆が護ってくれると知ってるからだ。

 水の人形が出来上がったら、今度は外側だけ凍らせてみよう。外は氷、中は水の儘だ。


「神……神か。この魔境にも神が居たのだな」

「大河グラウプルにも神様は居ると思うわよ? それこそグラウプルと名乗って出て来るかも知れないわ」

「ぐぅぅ……聖神なんぞに祈っていたから真の神に気付けなかったというのかよ」


 まぁ、そんな事も有るかも知れないけど、気にする事でも無いだろう。


「それより、スイラ様にどういう依頼をするか決めないと、いつまで経っても帰れないわ」


 何故かじと目で見られつつ、話し合って決めたのが以下の仕様。


 恐怖を感じるのは内側の杭から。

 其処から半分進めば見えない猛獣に狙われていると感じる位に。

 蓋を直視すれば今直ぐ逃げ出したい思う位に。

 其処から近づく毎に恐怖を増して、木の蓋に触れられるくらい近くまで来たら、耳も良く聞こえず色彩も失われる位に。

 更に蓋に触れれば、触れた装備や手の表面から水分を抜いてからからに。

 期間は長期に亘るから、定期的に炭を運んでくる事にして。

 動物がまったりしていたら台無しだから、動物も避ける感じで。

 但しグラウプルに面した場所に設けた祭壇で、新しくグラウプルの水を汲み、水の神スイラ様に祈りを捧げた人は、外側の杭から外に出るまでは対象外。聖神ラーオに祈っても駄目。


 つまり此処まで来た人は、内側の杭に沿って外側を回り込み、大河沿いを恐怖に耐えて祭壇まで辿り着いて祈りを捧げれば、その後は普通に作業に入れる感じ。

 そして荷物の受け渡しだけならば、杭と杭の間の区間で遣り取り出来るという訳だ。


 それでどうかとスイラ様にお伺いを立ててみたら、呆気無く受け入れて貰えた。

 お供え物の受け取りで、炭を気に入ったか確認してみたら、これも気に入って貰えたみたい。

 因みに魔力は捧げなくてもいいみたいだ、水の神様なんだから、当然水属性の魔力は溢れる程に持っているという事なのだろう。


「……しまった。うっかりしてた」

「どうした?」

「今の条件だと、俺達も除外されてないから、行き成り凄まじい恐怖が襲い掛かって来たかも知れんのでは?」

「……祈りを捧げる前に気が付きたかったな、それは。スイラ様が気を遣ってくれたのだろうが」

「よし、確かめに行くぞ!」

「俺も行くぞ!」

「待て、置いて行くな」


 アロンド叔父様がオルカスさん達と会話していたのを聞いて、私もちょっと背筋が冷える。私も完全にうっかりしていた。

 でも、それで突然飛び出して行く男三人は、更にうっかりを重ねている。

 祭壇もまだ用意してないのに、一体どうするつもりなんだろう?


「イサナさん、祭壇の代わりに木箱を運んどいて。それと水を汲む器もね」


 言われてイサナさんも気が付いたのか、乾いた笑いを溢しながら木箱を河辺まで運んでいる。

 その間に、私も最後の用事を済ませておこう。

 木切れに魔術で火を点けて、黙々と煙を昇らせる。そしてそれは無属性魔力の人形(ひとがた)の中へ。


「死の神フォス様。此処に余計な人を近付けさせない為に、死や老いの悪いイメージを利用したわ。御免なさい。でも、これで此処から逃げれる様になれば、理不尽に死ぬ人はそれだけ少なくなると思うの。フォス様に迎えに来て貰うのは、ちゃんとお爺ちゃんやお婆ちゃんになって、孫に囲まれながらがいいと思うのよ。だから赦してね。

 それと、私の魂を私の下へ導いてくれて有り難う。私の魂が私で無かったなら、きっと私は幸せになれなかったわ。魂を含めてね。

 でも、今は幸せになれると信じれるの。まだまだ私の周りの状況は厳しいけど、頑張れば何とかなるって。

 だから有り難う。次は私がお婆ちゃんになって幸せに死んじゃう時に、ちゃんとまた迎えに来てね」


 そしてそんなお祈りをしたら、私の前に灰色の人形(ひとがた)が現れた。

 大人よりもちょっと大きめ。

 あ、フォス様だと分かったけれど、言いたい事を全部言い終わった後に出て来られても、どうすればいいか分からない。

 そう言えばポケットの中にクッキーが有った。もしかしたら神様のお供え物にと思って持って来た物。使わなかった時は帰り道のおやつ用だ。


「クッキー食べる?」


 そのクッキーを差し出すと、フォス様はクッキーを受け取って、そして私の頭を撫でてから姿を消した。

 クッキー食べるは無いだろうと、自分でも思った。


 視線を感じて目を向けると、河辺でイサナさんが吃驚した顔をしていた。

 そしてアロンド叔父様達が引き攣った顔で震え上がっていた。


「どうしたの?」


 近付いて問い掛けると、返ってくる声も震え声だ。


「い、い、い、今の、は、何だ!?」

「死の神フォス様よ?」

「「「し、し、死の神!!」」」

「も~……その恐怖はスイラ様のだから、早く祭壇でお祈りしてね」


 ひょっ、と間抜けな顔をして、イサナさんが準備してくれた木箱の祭壇で祈るアロンド叔父様達。

 祈り終わった途端、へたり込んでいる。


「フォス様は死を齎す神様と言うより、死んだ後で然る可き所に送ってくれる神様なんだから、怖がったりしたら駄目よ?」

「そ、そういう問題じゃ無い! 神が目の前に降りてきて、何でそんなに平然としてるんだ!?」

「え~? それはちょっとは吃驚したわよ? でも、姿を現さなくても、受け答えしてくれたり、今もお願いを聞いてくれてたりしてるじゃない? 此処に居るのには変わりないわ」


 その言葉に、アロンド叔父様が悶えていた動きを止める。


「……成る程、神が姿を現す訳が無いと思ってしまうのは、聖神ラーオがそうだったからか。神は此処に居るという意識改革が必要なんだな。

 え~い! 帰るぞ! そんなの此処で考えてられるか! とっとと帰ってベッドで休ませてくれ!!」


 それには皆賛成で、ささっと片付けをした後は、再び私は荷物となって街まで運ばれる事となったのだ。



 これが私の初めての外出で、そして初めての魔境体験、そして初めての神様との邂逅だった。

 当然これで祝福を受けていない訳が無い事は、街へ帰ってから色々な機会に気付く事になったのである。

 日本の神様って精霊信仰に近いよね。ジンクスの塊みたいな所も有るし。

 いや、権威付けに作られた神様は違うか知れんけどね。

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