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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第二章 三つの街と広がり行く噂
31/95

(31)初めての防衛戦?

 魔境行きが中々終わらない。今回も四千文字ちょい。

 呪われたダンジョンまでは、二日を見込んでいるらしい。

 この駆け足だから随分な強行軍だと思ったけれど、一つは私の負担を考えて、もう一つは近くまで本当にうろうろしている人が来ていて、全く時間が無いからだとか。

 現場にはオルカスさんとザメルさんが残って見張りをしているらしいけれど、それでも万全では無いのだとか。


 そうやって急いでいても、必ず一度は野営が入る。

 アロンド叔父様が立ち止まったのは、何の変哲も無い森の一角で、それなのにアロンド叔父様によると此処は安全なんだとか。


「森のダンジョンで手に入るスキルの一つでな、森の中限定での索敵が出来る。そこのイサナは同じダンジョンで魔物避けのスキルを手に入れたらしいが。この辺りに居るのは其処のフッ――蛇くらいだな」

「そうね。だから安心して、今の内に体を伸ばしといたら?」


 盾を置いたアロンド叔父様の投げナイフが、見事木の枝に居た蛇を撃墜したのを目を輝かせてみていた私は、イサナさんの言葉に従って降ろされた鞄から外へ出た。

 靴は履いたままだけれど、普段着なのが酷く場違いに思える。


「ギルド長……」

「いや、仕方が無いぞ!?」


 それはイサナさんも同じく感じたみたいで、視線でアロンド叔父様を責めている。

 浮かれていたと言っても、スカートで森に入るのは確かに危ない。幾らアロンド叔父様が索敵出来るからと言って、怖い蛭が居ないとも限らないから、余りうろうろしない方が良さそうだ。


 夕ご飯はフリーズドライじゃ無いけど見た目はそんな感じに固めたスープ。

 火を点けるのと水を出すのを魔術でちょちょっとお手伝い。

 因みにお昼ご飯は、鞄の中でもそもそ携帯食料を囓っている。普通に木の実が沢山の焼き菓子だ。きっと不味い携帯食料は、都市伝説だったに違い無い。


「蛇のお肉は食べないの? 皮がぴりっとするって聞くのよ?」


 そう言うと、何故か二人とも笑い出して、スープに蛇の肉が加わった。予め火で炙ってから入れているから、カリッとして少し山椒の様な風味がした。

 毛布に(くる)められてお休みなさい。


 次の日も飛ぶ様に行程は進み、昼を過ぎてもう直ぐ夕方という頃にアロンド叔父様が立ち止まった。


「ちっ、やっぱり来てやがる。――迂回するぞ」


 大きく右横に逸れてから、また進む道行き。

 水の音と匂いを感じる様になった頃に、木の間に水面の煌めきが見えてきた。

 河辺に出る。対岸までが物凄く遠い。

 橋を――そう、流れ橋の様な筏を繋いだ橋でも架けたら、対岸にも拠点を造れないかと思っていたけれど、それも難しそうな大河だ。


 逸れた分だけ元へ戻ろうとすると、直ぐに打ち付けられた杭を見付けた。河辺から等間隔に森の中へ打ち込まれている。杭の一つには看板。「この先、呪われたダンジョン。危険区域に付き立ち入り禁止」と書かれている。


「多分オルカス達はもうへとへとじゃ無いかな。禁止と書いてるんだから、大人しく近寄らないでいて欲しいよ」

「全くだ」


 軽口を言いつつ、更にもう一度杭の列を抜けて、疑惑の現場に辿り着く。

 河辺から十五メートル程度離れて薄く地表が剥がされた中に、並べた木の板を十字に重ねて楔で大地に固定された、確かに言われてみれば何かの蓋だ。

 でも、無属性魔力の腕を通して見れば、板の下には地面が在る事が直ぐに分かる。魔術師にはバレバレだ。


「来たか! そっちから来たなら既に気が付いていると思うが、今ザメルが二人押し留めている。最悪見せるだけ見せて帰らせるつもりだったが、何か出来るのならやってくれ!」


 私達が来た方向へ警戒した目を向けていたオルカスさんが、私達だと分かって近付いて来た。そんなオルカスさんが、私と目を合わせてぎょっと後退る。

 でも、兎に角今は闖入者を排除するのが先だ。私はアロンド叔父様から降ろされて、アロンド叔父様が担いでいた荷物を要求しながら、確認の為に問い掛ける。


「アロンド叔父様、招かれざるお客さんは、本当に二人だけ? 何処に居るか分かる?」

「俺らが真っ直ぐ此処へ向かったとして、初めの杭に行き当たる場所に二人だ。他には居ないな」


 イサナさんに大河から水を汲んできて貰って、それを運んで来て貰っていた硝子のボールに注ぐ。砕いた活性炭を入れて掻き混ぜて暫く待つ。綺麗になった上澄みを、無属性魔力で作った人形(ひとがた)に注いで立ち上がらせる。

 その前に一掴みの炭と、一皿の活性炭。まだまだお願いは有るから、今は緊急で対応する分だけ。


「水の神様、スイラ様。伏してお願いしたいのよ。私の背後、暫く離れた所に、杭が一列、そしてもう一列打ち込んであって、其処に三人人間が固まってると思うの。その人達が今居る場所からこっちに来たら、少しずつ恐怖を感じさせて欲しいのよ。手前の杭まで来たら見えない猛獣に狙われていると感じる位に、この木の蓋が見える位の場所まで来たら今直ぐ逃げ出したい思う位に、其処から近づく毎に恐怖を増して、木の蓋に触れられるくらい近くまで来たら、耳も良く聞こえず色彩も失われる位に。

 お願いする対価の捧げ物は、スイラ様が何を喜ぶのか分からなかったけれど、水を綺麗にする物を持って来たわ。多分自然には無くて、人間が造れる物だから、対価になると思うのよ。特別な造り方をした炭ね。細かい穴が一杯開いてて、そこに汚れが吸着されるの。

 今もこのボールの中の水が綺麗に成っていってる所だと思うし、多分湧き水くらいに綺麗に成ると思うけれど、吸い取れる汚れの量には限りが有るから使い捨てね。駄目なら綺麗にしたボールの水を捧げ物にするわ。

 期間は三人の内の二人が逃げ帰るか此処から去るまで。一人は私達の仲間だからいいけれど、他の二人を追い返したいのよ。仲間の一人も一人だけ恐怖を感じないのは不自然だから、恐怖を与えるのに区別はしなくていいけれどね。

 だから今回はお試しで。ちゃんとしたお願いは二人を追い返した後で改めてさせて貰うわね。

 お願いを聞いて下さるなら捧げ物を受け取って、駄目ならそのままにしておいて。その時は別の捧げ物を考えるわ。魔力が必要なら魔力も捧げるけれど、ダンジョンに潜ってないから水の属性は殆ど無いの、御免なさい」


 祈りを捧げるのに意識を向けるのは、目の前に有る水の人形と、その背後に滔々と流れる大河グラウプル。この時に、水属性の魔力も振り絞る。

 魔術師になった事で自分の魔力を十全に使える様に成ったと言っても、種火でしか無かった火が兎を火達磨にする程度、コップ一杯の水がボール一杯の水になった程度でしか無い。生活魔法が本来の力の十分の一だとして、それが十倍になったとしても大した事は無かった。

 それでもスイラ様はお願いを聞き遂げてくれたのか、炭も水も序でに硝子のボールも目の前から消えた。

 私達は対象となってないから何が変わったのか分からないけれど、此処から離れた三人には効果が有ると信じよう。


「恐怖は水の神様が司るものなのか……」


 無言となってしまったオルカスさんとは違って、アロンド叔父様は普段と変わらない。イサナさんは南無南無と唱えている訳では無いけれど、今も目を閉じて水の神様に祈っている。

 これで闖入者が此処まで来ても追い返せる様になったとは思うけれど、まだちょっと弱い。これだけだと恐いもの見たさの物見遊山は止まらないに違い無い。


「オルカスさん、着替えとか有る? 出して。アロンド叔父様、砂色の土が欲しいから掘り返して。イサナさん、私が隠れられるくらいの木箱か何かが有ったら運んで来て」

「……何をするんだ?」

「だってこれだけじゃ余計に見に来る人が出るかも知れないから、もっとちゃんと脅かすのよ? 人形に着替えを着せて、目の前で砕いたら、きっともっと怖がってくれると思うわ」

「……見んと始まらんな」

「いや、ギルド長、いい手かも知れん。来てる奴らを態々呼び寄せるのも不自然だが、それが悲鳴なら――」

「そうか! それならザメルも戻って来るしか無いね」


 まずはやってみようと探してみると、川沿いだからか丁度良く粘土と砂の中間の様な土砂が川縁から取れた。

 それを水の人形(ひとがた)を作ったのと同じ様に、大人の男の人の形をした人形に詰める。

 大きいだけ有って、ゆっくり動かさないと人形が土砂の重みで崩れそうだ。


 態と地面に擦り付けてボロボロにしたオルカスさんの着替えを着せて、呪われたダンジョンから街へ向かって這いずらせて跡を付ける。

 私は呪われたダンジョンの蓋の上に木箱を置いて、その中に隠れた。遠く離れたら人形を操れないから。

 呪われたダンジョンの蓋の上にも布を被せて、其処から這い出てきた様に偽装した。蓋が開く様になっていないのに、其処から出て来たというのは流石に無理が有るから。


 アロンド叔父様とイサナさんは仮小屋に隠れて、オルカスさんは後退りしながら人形に剣を向けた位置取りをして、準備が整った所でアロンド叔父様が仮小屋から指示を出した。


「うわぁあああああ!!!」


 オルカスさんの叫び声が、森の中に響き渡る。

 私は人形を少しずつ這い進ませる。

 人形の表情は悲愴な老人。目から涙が零れている。

 暫くしてガサガサと草木を踏み分ける音。


「来るなぁあああ!! 出て来やがった!! 近寄るなぁあああ!!」


 オルカスさんの声を合図に、私は人形を更に干涸びた様に形を変える。

 皺を増やして身を細らせて、顔は恐怖の表情に。

 差し伸ばした手を肘から砕いて落とさせて、バランスを崩した人形が地面に倒れたならその衝撃に任せてばらばらに。


「ふんがぁああああああああああ!!!!!」

「ぎぃやぁああああああああああ!!!!!」


 響く恐怖の二重奏。

 暴れ倒しながら逃げ去っていく騒がしい物音。


 そのまま私が待っていると、肩を震わせながらアロンド叔父様がやって来て、箱から出て見渡せばオルカスさんもイサナさんもザメルさんも、その居た場所でお腹を抱えて震えていた。

 私だけがその場面を目にしてない。ちょっと狡いと思う。


「勝利?」

「くく……ああ、大勝利だ。出来(でか)した。――くっくくく……」


 でも、これはまだ前哨戦。

 私が連れて来られた任務は、この後から始まるのだ。

 この土日はストック作れてないから今週がやばい。

 21時時点で投稿されてなかったら、もうその日はスキップして次の日の投稿にするので悪しからず。

 でも、段々一話の長さが長くなって、自分で自分の首を絞めている様な……。

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