(30)魔境行
成る程。三千文字程度で納めるには、一つのエピソードを詰め込もうと考えるので無くて、分ける事を考えないといけないのかと今更の様に気付く私。
神像が揃ったならば、祈りを捧げて祝福を得たいところだけど、それについて述べるならまずは語らないといけない話が有る。
お父様達が秋会合に出向いて暫くの後に、アロンド叔父様に連れられた森の奥で、私は水の神と死の神に既に祈りを捧げている。
そして既に祝福を受けているのだ。
始めに要請が有ったのはネイサン叔父様からだった。と言っても、話が来たのはアロンド叔父様からだったけれど。
どうも私が神像造りに出突っ張りの間も呪われたダンジョンの整備は進められていて、呪われたダンジョン周りを立ち入り禁止措置までしたそうだけど、却って怖い物見たさに探りに来る人達が増えているらしい。
それでどうにかならないかって、私は未来から来た猫型ロボットか何かなのかな?
でも、此処で頓挫してしまうと全てが台無しになるのも分かっていたから、私も色々と考えた。
と言っても、取れる手なんてそんなに無くて、持続性の有る呪いなんて神様にお願いするしか無いんだけど。
でも、それに必要な捧げ物が分からない。
お願いするなら水の神スイラ様だ。何故ならスイラ様は感情も司っているから。呪われたダンジョンに近づく者に恐怖を感じさせたりとかはお手の物だろう。それに、大河グラウプルの畔なのだから、水の力も影響を及ぼし易い筈。
追加でお願いするなら、夜の神ルン様と闇の神ロアン様。ルン様は静寂を司るから、呪われたダンジョンに近付く程に声が聞こえなく以下略。ロアン様も同じく以下略。
兎に角違和感を感じさせる事が出来れば、それを恐怖に繋げる事が出来るだろう。
何れにしても、神に捧げ物をして魔法を使って貰うなんていうのは、この国では馴染みが無い。そう簡単には看破されないと思うけれど、こればかりは分からない。
そして結局捧げ物の善し悪しに、話は戻って来てしまう。
……静寂や目の霞は老化を思わせるけど、下手に凝らずにスイラ様だけにお願いするのが良いかな。緊張が高まれば、きっと耳も遠くなるし、眼だって見え難くなるし。
うん、前世で経験済みだよ。耳がつーんと聞こえなくなって、色彩が失われてしまうのは。
で、スイラ様に絞り込んでも、原作にスイラ様が登場する場面で特段決まった様式が有る様には思えないのだ。普通に収穫物を積んでいたり、逆に祈りだけ捧げていたり。案外魔力を捧げるのが正解かも知れないけれどね。
でも、作物を捧げると言って森の中に有る果物を捥ぐのも首を傾げてしまうので、ここは人間でしか作り得ない品物を用意した。
樫の様な硬い木で作った炭。所謂備長炭。ゴリュウお爺様とシャーチお爺様に依頼して、作り立ての物を仕入れて送って貰った物だ。幾らかは活性炭宜しく砕いて、ちゃんと水を浄化出来るかの実験も済んでいる。
「え!? 私も行くの? 捧げ物をしてお祈りするだけよ?」
「重々承知だが、ばれそうで時間が無い。俺達で絶対に護る。約束する」
アロンド叔父様の言葉に、ヴァレッタお姉様は発狂したかと思う程に泣き叫んで抵抗したが、私はアロンド叔父様に付いて行く事を選んでしまった。
優先順位も有るけれど、何よりこの館の敷地から出た事も無い私の体と心と魂が、冒険しろと叫んでいたのだ。
探索者ギルドまでは馬車で。馬車の窓から見ているだけでもどきどきする。
と言うよりも、この景色だけならば、館から水をレンズに望遠鏡を作っても見る事は出来たのでは無いだろうか。
神像造りにかまけて好奇心を向けなかったのが悔やまれる。まぁ、見ても出歩けない街の様子なんて、渇望を酷くさせるだけだから、敢えて見ていなかったのだと思う。
探索者ギルドには裏口から連れられて、ギルド長室で暫し待機。
「本当に連れて来ちゃったよー……」
まだ二回しか顔を合わせた事の無いエルザさんが何か言ってたけれど、私はギルド長室の中に有る物を目に収めるのに夢中で、少しも気にはならなかった。
その内笑い声が零れて来たから、流石にエルザさんに目を向ける。
顔をむぎゅっと真ん中に寄せた変な笑顔で見ていたから、ちょっと仕返しに鎌を掛けてみた。
「アロンド叔父様とは、いつ結婚するの?」
アロンド叔父様とも気安い様子だから突っ込んでみたら、慌てる様子がおかしかった。
ふふふ、多分三十も半ば過ぎなんだろうから、相手が居るならいつまでもこのままが気楽なんて、見栄にしても笑えない。
相手が居ない事に慣れてしまうと、平気で崩れたら死んでしまう程に本を積み上げたりとかしてしまうのだよ! とか言ってみる。
いや、口には出さないけど。
アロンド叔父様が戻ってきたら、膝を抱えた状態で大きな鞄に詰め込まれた。体の前に襷掛けに抱える形の鞄らしくて、抱え上げられた状態でエルザさんがベルトの長さを調整している。
それが終わるとぺたっと鞄の蓋が降ろされて、私は荷物として運ばれる。
イサナさんの声も聞こえてくるから、もう合流して森へ向かって歩いているのだろう。
暫くしたら、鞄の中からでも何か空気が変わった感じがした。
何と無く気温が、アロンド叔父様の息遣いが、外から聞こえてくる物音が、いつもとは違っている。
それは赤石祥子の知る森の中ともまた違って、もっと濃厚な何かだった。
そのまま更に進んで、体感で三十分が過ぎた頃に、鞄の蓋が開けられた。
アロンド叔父様と目が合ったから、唇の前で指を立てたら、「賢いな」と目を眇められた。
「此処からならまず大丈夫だ。小さくなら喋ってもいいぞ」
そう言われても、用も無いのに喋れない。私は目に入る物全てに集中している。
まず見えるのは、アロンド叔父様が両手に持っている盾。何と右手も左手も盾の双盾遣い。
手の部分に握りが有って、肘の部分も革で固定されていて、そこまでは普通の盾だけれど、肘から先が細く尖ってスキーのストックの様になっている。漫画で言うならやばい生物兵器に寄生された深町さんの高周波ブレードみたいな感じ。
それを実際にストックの様に、時々地面に突き刺しながら、アロンド叔父様は森の中を駆け抜けていく。
腕の使い方、森の湿った空気、吹き飛ぶ様に過ぎて行く景色。凄い。
でも、盾が邪魔で良く見えない。
「アロンド叔父様は盾遣いなの?」
「いや? その時々で適した装備が変わるだけだな」
「肘の先は剣になってるの?」
「そこまでにはしてないが、突き刺す事は出来るぜ?」
ちょっとお話ししていたら、イサナさんが近くに来てくれた。
「大丈夫? 苦しくない?」
「うん。見えるのは盾の裏側ばっかりだけど」
「――も~、目をきらきらさせちゃって、ま~」
だって感動だ。思った以上にジャングルだ。
そして皆の装備がファンタジーなのに本物だ。
こうして私の初めての冒険は、文字通りお荷物として始まったのである。
土日でストック稼がないといけないのに、まだ日曜日の一発目がこれ。やばいなぁ。
21時に間に合わない日が出たら、もうそこからは週一と思って欲しい。
(逆にその方が冒険者になるのです×3も更新が進みそうだけど)




