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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第二章 三つの街と広がり行く噂
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(28)探索者ギルド長アロンド

 後で追記するかもー。間に合わなかったー。


 次の日の1:20頃に追記版に差し替え~。ケーキ屋さんから後を追加したよ。

 グリムフィード領の領都に唯一存在する探索者ギルド。そのギルド長アロンドの下へ、領館で長兄イルカサルの補佐をしているネイサンが訪ねて来たのは、九月十日の遅い昼だった。

 それはプルーフィアがイルカサルから領の防衛方針はネイサンの計画に従う事の言質を取った日でも有る。


「よぉ、久々に夜釣りでもと思ったんだが、随分と暇そうじゃねぇか。今からでも行くか?」


 その物言いに、アロンドはくすりと笑いを溢した。

 弟がこんな事を言い出す時は、半分の確立で長兄イルカサルの愚痴。後の半分は口外出来ない何かだ。

 今日は今からと言っているから、口外出来ない何かの可能性が高いだろう。


 同じギルド長室で執務していた腹心のエルザが、「行ってら~」と気の抜ける声で送り出してくるのに背中を押され、探索者ギルドの裏口から出る。

 向かうのはネイサンの家が在る湖の畔だ。


 山脈からの流れが寄り集まって形作られたハルカラ湖は、魔境と人界を隔てる要衝だ。グリムフィード領の水源でもあり、漁場でもある。

 最もハルカラ湖から大河グラウプルへの流れが魔境を横切っている為に、探索範囲が狭められているのも事実だが、ハルカラ湖からの流れを渡ればその向こうは大魔境だと言われる程に難度が違う事実を考えると、その流れは探索を阻害する物では無く探索者達を護る為の物と捉えるのが良いだろう。


 ネイサンがその畔に家を構えると行ってもそれなりに湖岸からは離れているのだが、湖岸の直ぐ近くにも釣り小屋を建てていて、言うなればそこが秘密の会合の場所だった。

 そこへと向かう道は既に人家も疎らとなり、長閑な風景が続いている。


「兄貴もさっさとエルザさんと一緒になれよ。子供らと一緒の生活は大変だけど楽しいぜ?」

「ふん、余計なお世話だ。貴族家の嫁にするよりも、今の関係の方が余程居心地がいい」

「子供を作ったら、何でもっと早くに一緒にならなかったと後悔しそうだがなぁ」


 アロンドは気を抜いている様子のネイサンへと視線を投げて、鼻を鳴らした。


 釣り小屋へと辿り着けば、案の定釣りの支度をする訳でも無く、備え付けの瓶を一本開けている。酒精が入っていない様子を見ると、誰かに届けさせた物だろう。

 そしてその事実が、今から始まる会合の重要度をアロンドに感じさせるのだった。


「良い話と、悩ましい話と、真面目な話と、呆れた話、更に加えて前向きな話が有るんだが、どれから聞きたい?」

「……盛り沢山だな。順番に聞かせて貰おうか」


 そしてアロンドは聞く事になる。

 イルカサルの妻ヴァチェリーが復調した事を。

 それは四女プルーフィアが魔術師として目覚めた事を切っ掛けとした事を。

 プルーフィアが語った未来の予測を。

 それに対するイルカサルの反応を。

 そしてプルーフィアがイルカサルに認めさせたグリムフィード領としての対応を。


「兄が最悪だな。何故だ?」

「知らん。――が、兄貴はそういうものだと思って見過ごしてきた俺達も同罪だ。持たなければならない危機意識まで見逃していた。プルーフィアに救われたな」


 そんな会話を交わしながらも、今はまだ分かっている事が少ない。

 領館で明かされる諸々を含めて、これからは情報を共有していく事を約束して御開きとなった。


 しかし、プルーフィアが知っている事が、プルーフィアだけが知る事とは限らない。

 特に、教会が何処までの知識を持っているのかは確かめる必要が有る。


 次の日の朝、ネイサンが連れて来たイルカサルと共に街を歩く。三兄弟が揃って出歩くのが珍しいからか、街の住人達にも良く声を掛けられる。

 ただ、この時間に外を歩いている目的は別だ。

 その丸々と太った獲物が護衛を連れて大通りを輿に担がせているのを見て、アロンドは思わず失笑する。

 そして挙動不審なイルカサルを見て眉を顰めた。


「おい、しゃっきりしろよ」

「いや、このまま行こうぜ。兄貴が狼狽している方が、何か有ると思うだろうさ」


 教会の司祭をしているメリカルドは、甘味ばかりは自分で選ぶ為に、店が開くこの時間に出向く事が知られている。

 多くの者は鉢合わせるのを嫌ってこの時間に店へ行くのを避けているが、逆に会おうと思うならこれ程分かり易い習性は無い。

 教会の中で会う事を避けたい身としては尚更だった。


「これはメリカルド殿、こんな所で奇遇だな」


 グリムフィード伯爵家では、教会が斡旋するラーオ神像の貸し出しを断っているが、表向きそれは借りるだけの資金が無い事にしている。

 教会が領主達を見下しているのは知っているが、実際に教会の人間と対する時には敵意を見せず、何の支援も出来無いながらも申し訳無さ気に見せていたのが、今も功を奏していた。

 話し掛けられたメリカルドは何の疑問も抱かないのか、そのまま輿から降りている。


「おやおや、御領主殿のご兄弟揃って、甘味でも漁りに参りましたかな?」

「それをメリカルド殿に言われたくは無いが、長らく気の病を患っていた兄貴の連れ合いが復調してな、その祝いをこっそり買いに来たところだ。料理長に作らせたなら匂いで直ぐにばれるだろう?」

「おお! それは喜ばしい事でございますな。この店で売られている物はどれもお薦めですぞ?」


 交わされるのも、そんな当たり障りの無い遣り取りだ。

 当然偶然などでは無いが、自分の行動が街の住人に把握されていると思っていないのか、メリカルドは貼り付けた笑顔を崩さない。

 護衛達の方が、何か有ると見て警戒しているくらいだった。


「ふむ、今日は新作のタルトが二つに、焼き菓子も見掛けぬ物が有るな。ふ~む……」

「ああ、店主。この辺りのケーキを全種類一切れずつ並べて、ホールケーキの様には出来んか? ケーキで足りなければタルトも混ぜてくれ」


 悩むメリカルドを尻目に、ネイサンが豪快に注文を通した。

 メリカルドはそれを聞いて目を剥いた。


「な、な、何だその頼み方は!?」

「いや、うちは人が多いし、どうせ子供らは分け合うから、悩むならこれくらいが丁度いいんだよ。あ、そうだ、店主! メリカルド殿にも同じのをもう一つだ!」

「な、何故(なにゆえ)に!?」

「いや、丁度調べていた事が有ってな。メリカルド殿が知っていればと思ったんだが」

「は、な、何を知りたいというのだ」

「ああ、風のダンジョンに潜れば風の力を手に入れたりするだろう? そういうのを要らないからと引き剥がしたり出来るのかってな?」

「何だそれは? 何故態々そんな事を考える?」

「いや~、例えばの話だがよ、種無しのダンジョンとかが有ったとして、知らずに潜ってしまったら後悔するにし切れねぇじゃ無いか。もしくはそんな厄介なダンジョンを封印するなり消し去るなりの方法は有るのかって、まぁ只の興味だがな」


 ネイサンの思いも寄らぬ言動に一度は動揺を見せたメリカルドだったが、話を聞いて尊大にふんと鼻を鳴らした。


「何を馬鹿な事を言っているのか。そんなダンジョンなど聞いた事も無い。

 ダンジョンが枯れるというのも無い訳では無いが、川が涸れるのと同じく人の手でどうこう出来る物では無い。全ては聖神様の思し召しよ。

 そんな事も知らぬとは嘆かわしい物よの」


 そこで、それまで黙っていたイルカサルが食って掛かる。


「それは本当か!? 嘘では無いだろうな! 死や病や老いのダンジョンが見付かった時に、対処法を知りながら傍観を決め込んだなら只では済まさんぞ! いや、待て、聖神と言うくらいだから死や病に無力とはとても思えん。まさか、隠し立てなどはしていないだろうな!!」


 目を剥いて震えが走っているイルカサルのその様子に、流石にメリカルドも何かがおかしいと感じたのだろう。ぎょっと表情を強張らせた。


「いや、何を隠していても関係無い。こういう時の為に街に教会を置かせているのだから、問答無用で役立って貰おう。しらを切ってもダンジョンに閉じ込められてまで傍観は出来まい。ふふふはははははは――ぐふっ」


 ネイサンに羽交い締めにされ、アロンドに拳を入れられたイルカサルが、くたりと体から力を抜く。


「おうおう、済まんな。どうも嫁さんが復調したら逆に心配性になったらしくて、ずっとこんなんだわ。余計な心配を懸けるが――本当に知らないんだよな?」


 流石のメリカルドも最後の言葉に込められた真剣味には気が付いて、引き攣った表情で首を何度も縦に振る。


「無論、私が知る事は今述べた通りだとも。は、ははは、御領主殿も苦労なさっている様子ですな。一度教会に来て頂くのも良いかと思われますぞ。

 では、私は失礼しましょう。ケーキは有り難く頂きますよ」


 そして逃げる様に去って行く。

 ネイサンは店主達に多めに金を渡して肩を竦める。


「ま、ちょっとあれだ。兄貴も幸せ過ぎて臆病になってんだろ。心配は要らんよ」


 そんな言葉を残して、三兄弟は領館へと向かったのだった。

 向かいつつ、ネイサンは肩を震わせる。

 アロンドも、断続的に息を吐き続けていた。


「ぐぅ……本気で拳を入れたな? 酷いぞ」

「馬鹿め。――今は喋らせるな」


 悄然とする長兄を両側から挟んだ弟達は、その兄の様子にすら腹筋を刺激されていた。

 耐えに耐えて領館の扉を潜り、ケーキの箱をメイドに預け、領主の執務室に入って後ろ手で扉を閉めた途端、ネイサンもアロンドも床へ転がり身悶えする。


「ひっひっひっ、苦し、だ、駄目だ、耐えられん!」

「ひゃははははは、ひひひひひ、くひひひひ、あ、兄貴、あれは本気だったろう?」

「な、何がおかしい!?」

「「ひぃ~~~!!」」


 一頻り笑い転げた後に、二人の弟が起き上がるまでイルカサルは憮然とした顔をしていたのだった。


「まぁ、手応えは有った。決定的な事は何も言ってない。上々だ。

 俺は戻って場所の選定だな。昔の探索記録を引っ張り出さねばならん」

「ん? 今日はプルーフィアが神への祈りを試す予定だが、見なくていいのか?」

「ふん、場所を見繕ったなら、それなりの形を整えないとな。実際に呪われたダンジョンが見付かったとしての行動が必要だろ? そしてそんな物が見付かったなら、当然秋会合で侯爵様に相談しなければ不自然だ。時間に余裕なんて無いぜ」

「確かに余裕を見せたらそれだけ怪しまれるか……。

 分かった。そっちは兄貴に任せる。上手くやってくれ」


 そして起き上がった弟たちが二人だけで会話をしているのを見ても、イルカサルは口を挟まない。


「随分大人しいな。どうしたんだ?」

「……私の取ろうとする行動は間違いが多いらしいからな。今は観察中だ」


 その言葉に、またアロンドは噴き出した。

 それが言えるのなら、きっとイルカサルはもう大丈夫なのだと分かったから。

 そしてアロンドは探索者ギルドへと戻ったのである。



「お疲れ様~。で、昨日から結局何だったの? 言える話~?」


 探索者ギルドへアロンドが戻ると、直ぐ様エルザの緩い声で迎えられた。


「言う相手をかなり絞らねばならん話だ。オルカス達の予定を押さえておいてくれ。早くて明後日にはグラウプルまで探索に出る」

「おっと、行き成りだねぇ? 装備は?」

「行った先で木を切り倒して仮拠点の小屋を作れる程度だな」

「それは中々……。アロンドは?」

「俺は何処が近いか調べ物だな。ハルカラ湖から下れれば早いが自殺行為だからな」

「ふむふむ……」


 ふむふむと言いながらも、エルザは素早く手を動かして、必要な装備を纏めている。

 緩さに反してギルドの事なら何でも知っている優秀さが無ければ、副ギルド長は務まらないのだ。


「八日装備だけど余裕は必要?」

「いや、ルートは違うが俺もグラウプルまで出た事は有る。食い物に困った憶えは無いが、虫除けは多目に頼む」

「はいは~い! じゃ、オルカス達の所へ、飛んでけー!」


 エルザの手元から飛び出した青い光が、青い小鳥に姿を変えて窓から外へ飛び出した。

 通称「鳥の洞窟」と呼ばれる二十階層のダンジョンで手に入る鳥魔法。エルザはその遣い手なのである。

 それを見届けたアロンドは資料室に籠もる。

 次の日はエルザも共に領館で打ち合わせ、状況を共有すると共に開発拠点の候補地を決める。

 そして更に次の日から、従兄弟でも有りグリムフィード探索者ギルド専属の探索者でも有る、オルカス、ザメル、イサナの三人と共に大河グラウプルを目指す。

 仮小屋を作り、整地をし、ダンジョンの封印に擬装した木の蓋を大地に打ち込み、そして帰着したのはエルザの見込み通りの八日目だった。


 帰り着いたその場でアロンド達はその知らせを聞く。

 一族大会議が二日後に迫っていた。

 頭痛で一日ダウンが響いた。ぎゃー。

 自転車操業状態はトラブルに弱いね。

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